万感の筆が描くもの

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
ハ♀視点。最後のページのみウ視点。

狩猟の他にやりたいことを見つけようと、絵を描くことを始めたハ♀のお話。

狩猟、狩猟と明け暮れる中、他に好きなこと、やりたいことを見つけたくなって。

色々試してみた時に、好きかもしれないと思ったこたとが、ゴコク様やミノトさんのように絵を描くこと。

「なかなか筋が良いゲコねえ」

集会所でゴコク様に教わりながら、褒め言葉をに受けて喜んだりもして。

たまにミノトさんとも一緒に、茶屋の露台席を借りて少しだけ描かせてもらって、本当にとても楽しかった。

絵には、私の中にある上手に言葉で表せられない気持ちが、線や形に込められるような気がした。

(色々、描いてみたいなぁ)

ちゃんと練習したら、もしかしたら、大好きなあなたを、私を大好きだと言ってくれるあなたを、描けるようになれるかもしれない。

(あなたへの気持ちが伝わるような絵が、描けるようになれたら……)

私はふと、ミノトさんがヒノエさんを描いていた時のことを思い出しては、そんな時が来れば良いなと心をはずませた。

そんな日を夢見ながら、私は狩猟終わり、主に夕方や夜の時間を使って、住み暮らす水車小屋の中で少しずつ絵の練習をするようになった。

練習の合間に色々な書籍を集めて読み、それを実践する日を繰り返した。

行灯あんどん仄明ほのあかりの中で、夢中になって読みふける日々。

日々の中で学んだ技術を実践し、何度も何度も紙に描き続けて練習を重ね、いつしか私の描いた絵は、分厚い辞書のように膨らんだ。

茶屋で夕飯を済ませた日は、早く練習したいがために茶屋の露台席で描くことも増えていた。

「おお! 頑張っているじゃないか、愛弟子!」
「あ、ウツシ教官! こんばんは!」

大好きな人の声に、私は嬉しくて胸が高鳴る。

その時は線の引き方や曲線の描き方等、ゴコク様に教わった基本の練習を続けながら、茶屋から見える桜を描いていたのだけど、それをあなたに見られてしまった。

「とても綺麗な絵だ! 練習して日に日に上手になっているね、素晴らしいよ!」
「ふふふ、ありがとうございます。今は、描くのがとても楽しくて」
「それは何よりだ! ふふ、キミが楽しそうだと俺も嬉しいよ。でも、無理をし過ぎないようにね?」
「はい! ありがとうございます!」

微笑んだ私の頬に、あなたは口元を覆っていた鎖帷子くさりかたびらを一瞬だけ降ろして、優しく口付けしてくれた。

その柔らかくて温かい感触にも、あなたがくれた優しい褒め言葉にも、私の心は満たされる。

(いつか、大好きなあなたを描きたいから……!)

最初の気持ちが蘇って、幸せなのに何となくくすぐったい気持ちになりながら、私は、練習を積み重ねた。

たまに狩猟に疲れきって眠ってしまう時もあったけれど、私の本業は狩猟だ。
そちらに支障はないように、自分なりの練習を続けて。

ある日、私は自分の持てる力を使って、時間をかけて絵を描いてみた。

長方形の少しだけ大きな用紙に描いたのは、たたら場の屋根上から見た、私の大切な里の景色。

(大好きなあなたと過ごして来た、大切な景色……)

月明かりに照らされた里、ずっと見慣れ親しんだ景色への想いを、私は筆に込めて描いた。感謝を、この里を愛している気持ちを込めて。

いつか、愛する人を描けますようにと、願いを込めて。

三週間ほどかけて、その絵は完成した。

「できたあ……!!」

水車小屋の畳の間の壁に立てかけて、行灯に照らされる、初めて時間をかけて描いた『絵』。

技術的には、こうして見ればゆがみもバランスの狂いも多い。

けれど、時間と想いを込めて描いた大切な場所、私にとっては大切な絵になったと思う。

(……ウツシ教官に見てもらおうかな?)

自分なりに時間を重ねて練習し、初めて描いた『絵』らしい『絵』。

あの人はどんなことを言ってくれるのでしょう。

そんなことを考えて、私はその日の夜は、幸せに眠った。

その日の夜が、明けなければ。

次の日の私がそう思うなど、その時の私には知るよしもなかった。

@acadine