夜之 夢
2022-07-14 20:49:13
26086文字
Public
 

きみ抱きし木よ

2022年7月23日用 アズジェイ無配。
※無駄に3年生設定&関係成立済み。
イベント終了後、WEBのどこかに投稿する予定です。




 さらにその翌日のことだ。その日初めて、オクタヴィネルは『副寮長の不在』による支障が発生した。
 簡単な話だ。副寮長のみの会議に参加する者がいなかった。おまけに寮長会議は同時に別場所で開かれることになっていて、アズールが副寮長代理を勤めるわけにもいかなかった。
 フロイドを、とは考えたがモストロ・ラウンジが開店している時間にキッチンの主力を抜くのは惜しく、さてどうする、となったのだ。
「お、俺が行きます」
 遠慮がちに、それでもそう言って挙手と共に申し出たのは、2年生の一人だった。アズールもよく知っている。これといった特筆すべき能力は無いが、そのぶん大体の事をそれなりに出来る人物だった。「良く言えばマルチタスクプレイヤー、悪く言えば器用貧乏です。僕としては扱いやすいですし、助かります。それなりに信用も出来ますしね」とジェイドも評していた。そういう人物だった。
「発言はせず、議事録だけを取って、意見が必要ならば『持ち帰って検討する』と返します。副寮長が不在である旨を説明すれば、他寮も理解はしてくれるかと……
――ええ、はい。そうしてください。ではこの件は貴方にお願いします」
 アズールが頷けば、その生徒はホッとしたようだった。強張っていた肩から力が抜けて、それから、アズールに向かって下手くそに笑った。
「頑張ります」
 お願いします、と、アズールがもう一度言って、それでその問題は解決した。
 解決してしまったのだ。
 ジェイドの代理として副寮長の会議に出席したその寮生は、事前に言った通りのことをやった。文句をつける必要の無い、よく出来た議事録を取り、オクタヴィネルの意見を求められた事についてはその場で答えず後日回答とし、それらのことをそれなりに上手くまとめてアズールに報告し、全てが支障なく終わった。
 そう、支障は発生したが、それは解決できたのだ。できてしまった。
 ジェイド・リーチが不在でも回る組織が、成立してしまった瞬間だった。
 会議から帰ってきて報告を済ませた寮生に礼を言ってさがらせたアズールは、そこで、愕然とした思いを味わっていた。
 ――どうしよう、成立してしまった。
 ジェイドがいなくても回る組織が、出来てしまったのだ。
 元は自分達がそういう風に作ったのだ、と自分に言い聞かせても、アズールの胸中は波が荒れ狂うかのようだった。
 どうしよう、と思い、そう思う度に喚きたいような、泣きたいような気持ちが増してくる。
 弾かれたようにデスクを振り返り、その上にあったペンを縋るように掴んだ。『不要』とみなして端にどけていた紙の一枚を掴み取って、アズールはその裏にペンを走らせていく。
 大小の四角と線、ざっくりとした丸で作られていく図は、アズールが密かに想像していた、アズールの将来の店の、敷地の使い方だ。間取り図とも言えない、まだその段階にもならない、ただ、店のおおまかな『つくり』を想定するためだけのイメージ図。
 そこへ――アズールは一つ、震えるペン先で、長方形を加えた。今まで想定していなかった部分だ。不要なはずの広いスペース。
 そこに。
 ここに。
 不意に扉が開く音がしたのはその時だった。アズールがそれに振り向きも出来ずにいると、足音が勝手に近付いてきて、アズールの横に立った。紙面に影ができて、アズールはそれがフロイドだと理解する。
 アズールは何も言えなかったが、フロイドは「何やってんの?」とアズールの手元を覗き、そうしてその紙をじっと見て、それで大体のことを理解したらしかった。
 フロイドの人差し指が、紙面の、アズールが描き足した長方形の、その隅を指して――
「ここにジェイド置くの?」
 アズールは頷けなかった。そのつもりで、それを考えて描いた図なのに、それを認められなかった。認めたくなかった。
 この図に描いた通り、想像は、想像は出来るのだ――将来開きたいリストランテの面積と間取り。コンセプト、価格帯。外観から内装まで考えた。フロイドが頷いてくれたならフロイドにも関わってもらって、……でも、その時にジェイドがまだ木のままだったなら。
 店の土地の範囲を広げて、たとえば、一軒家のようにして、庭のような部分を作って、そこになら木になったジェイドを植えられるだろう。そうするなら、テラス席を作ってもいいかもしれない。緑を眺められるテラス席はそれはそれで好まれそうだ。そうすれば店としても上手くいくかもしれない。しれないけれど。
 上手くいって、それで?
 ――そう考えると、アズールはその先を何も想像できなかった。
 上手くいったとして。だって、それで、その先、何になるのだろう。
 そこに、ヒト、あるいは人魚のかたちをしたジェイドがいないとしたら。アズールはその先を何も想像出来ない。
 店は――陸で店を開いたとして、そこにフロイドとアズールがいれば店は回るだろう。2人だけだったとしてもアズールはそれなりにやっていく自信もあるし、店を上手く回す想像はできる。けれど、それ以外がアズールにはさっぱりわからない。
 たとえば毎日の終わりに店を閉めて、そのあと未来のアズールはどこへ帰るのだろう。一人暮らしでもしていて、そこへ戻るのだろうか。そこで、どんな風に生活しているのだろう。
 恋人は木として地に植わったままで。
 そう思うと、いてもたってもいられなかった。
 悲しみをぶつけるつもりで紙ごとデスクを叩きつけ、アズールは部屋を飛び出した。
 背後でフロイドが驚いたように、焦ったようにアズールの名を呼んだが、アズールは振り返らなかったし、止まらなかった。
 ただ、こみあげてくる涙を必死にこらえて、廊下を駆ける。
 木は、何年ほど生きるのだろう。この先ジェイドが木として何十年と生きたとして、それで自分はどうなるのか、どうすればいいのか、アズールにはさっぱりわからなかった。
 ――僕はどうすればいい。
 ――店にお前を植えたとして、毎日お前を見上げて、時々水をやったり、お前が落とす葉を掃除して、それで?
 ――それで僕はどうなるんだよ。恋人を失って。永遠にずっと、自分が一番好きだった人を失って。
 ――僕はどうすればいいんだよ。
 考えるほどに、駆けるほどに視界が滲んでくる。
 そんなのは嫌だ、とアズールは強く、胸中で叫んだ。
 そんなのはごめんだ、とこころで怒鳴った。
 アズールは木になったジェイドなど求めていないのだ。だってアズールが愛したのは木であるジェイドではなく、人魚で、自分の隣に、触れられる距離でいてくれるジェイドだった。
 18年生きてきた中で唯一愛しいと思った相手が、木になったままなんて嫌だった。
「っ……だって、」
 だって、とアズールは思う。
 自分が今まで見てきたジェイドの姿を、その表情を、温度を、鮮明に思い出して願いながら、涙を噛みながら、走る。
 愛しく思った時に抱きしめられる胴体が欲しいし、その胴体が樹皮では嫌だ。ものいう口が欲しいし、自分の名前を呼んでくれる声がほしい。泣いてほしくはないけれど、笑ったり時々は怒ったりして変化する表情を見せて、海でも陸でもいいから、隣にいてほしい。アズールの隣にいて欲しかった。
 ジェイドが木になってしまったとしたら、アズールは1人だった。
 ――また一人ぼっち!
 幼い頃の記憶と、ジェイドが傍にいてくれるようになってからの記憶がないまぜになってくる。
 1人でいい、と引きこもっていたアズールの元に勝手にやってきて、一方的にアズールに絡んで、無理矢理にアズールを『1人』でいられなくさせたのはジェイドだというのに、そのジェイドはやはり勝手にアズールを1人にしようとする。
 鏡舎を抜けて夜の木々の間を走り、ジェイドの前に走りつくなり、アズールは乱れた声のまま叫んだ。
「僕を一人にするのか!」
 見上げ、怒鳴りつけても木は木のままだ。
 わかっている。
 わかっていたからこそ、アズールはもう涙を止めることが出来なかった。
 無理に抑えていたぶん気を抜けば涙は一気にこみあげ、アズールの視界をぐちゃぐちゃに塗り潰し、無意味にした。
 息が途切れる。
 苦しさと胸の痛みとで、アズールは膝を折りその場に蹲った。目を開けていられない。乱暴に眼鏡を取って目を拭ったが、涙は勢いを増すばかりだった。
「っ……また僕を……僕をひとりに……
 風がふく。
 周囲の木々がざわめいたが、それだけだ。
 アズールの涙を止めてくれる人はいない。
「ジェイド……
 流れる涙をそのままに、熱を持った目を閉じ、アズールはその名を縋るように呼んだ。
「一人にしないで……
 嗚咽が夜の空気に溶ける。
 さわさわ、さらさらと木々が囁き、風が土の香りと共にアズールの頬を冷やした。
 残酷な静けさがアズールの泣き声を受け止め――
 そして、

「アズール」
 アズールが求めてやまなかった声が、アズールの名を呼び、確かに、アズールの背を撫でた。

――……!」
 バッと凄まじい素早さで顔を上げれば、そこには大木などなく、ただ、夜の中に裸の男が立っている。
 見上げるような高身長。均整のとれた肉体。美しいかんばせ。オリーブとゴールドのヘテロクロミア。海の色の髪と、そこにまじる黒。
 アズールが求めてやまなかったジェイド・リーチが、たしかにそこに立っていた。
 かつてはただの木があった場所に。
――
 言いたいことは、たくさんあったのだ。アズールはその男に、言いたいことがたくさん、それはもうたくさんあった。それは全て怒りの言葉だったけれど、でも同時にアズールの本心で、感情で、想いで。
 とにかく、アズールが「こいつに言おう」と思っていた事は色々あった。
 けれどアズールはジェイドの姿を見た瞬間なにも言えなくなって、ただ、嗚咽を激しくさせながらその体を抱きしめることしか出来なかった。
 夜の空気を掻き分けてその体を抱き寄せ、泣きながら自分のジャケットをジェイドにかけてやり、ぐちゃぐちゃな言葉で「なんでだよ」とだけ何とか言ったけれど、それは嗚咽に潰されてちゃんとした言葉にならなかった。
 けれどジェイドはそれを何とか聞き取ったらしく、「何ででしょうね」と困ったように言うものだから、アズールはますます嗚咽を激しくさせて、ジェイドを抱きしめるしかなかった。
 アズール、と。甘い響きを持った声がアズールの名を呼んで、あたたかな手がアズールの背を撫でる。
 返事も出来ないでいるアズールに、ジェイドはまるで隠れんぼをしていただけのような態度で、穏やかに話し始めた。
「すみません……正直なところ、少し楽しかったんです。このまま木になるのも悪くないかと思っていました。心地の良い感覚でしたよ。風によって揺れて、僕の膝のあたりでアズールとフロイドが座って、僕はそこに陰を作って」
「でも、アズール……あなたが泣くから。あなたに一人にしないでと泣かれると、もうどうしようもなかった」
「抱きしめたいと思って。あなたを抱きしめる腕が無いことを惜しみました。あなたの泣き声に答えたいと思って、答える声が無いことが悔しかった。あなたをどこか、あたたかくて安全な場所に運びたくても、それを出来る足が無いことが厭わしくて厭わしくて」
「木の体など要らない、と強く思って……そうしたら、戻っていました」
 そう言い終えたジェイドは、そこで「でもまさか裸でヒトの姿に戻るとは」と自らの状況に苦笑いする。
「どうするんだよ……
 グズグズの声で言いながらも、アズールはスマートフォンを取り出した。
 しゃくりあげながらも乱暴に目元を拭って、スマートフォンを操作し、何とかフロイドに『ジェイドが人間の姿に戻ったから、ジェイドの服を持って来てほしい』という旨のメッセージを送る。かと思えば横から手が伸びてきて、アズールのスマートフォンに触れて勝手に操作した。「下着もお願いします」と追加されて、送信ボタンが押された。
……フロイドはすぐに気付くのか?」
 そう言えば、と思い眉を寄せれば、まるでそれを聞いていたかのようなタイミングで、アズールが送ったメッセージに既読の印がついた。裸体の男が隣でくすくすと笑う。
 泣いたせいで熱をもった息を一つ吐いて、アズールはのろのろとスマートフォンをポケットにしまった。
 湿った葉の匂いを含んだ風が頬を撫でていく。頰が濡れていたせいで冷たく感じた。
「泣かせてしまいましたね」
 たおやかな手が、その涙に触れて、拭った。
……っい、言いたいことは、いくらでもありますけど……なんでっ、木、木なんかに……
 呼吸がまだ落ち着かないせいで、アズールの言葉は切れ切れになる。
 ジェイドはそれに対してパチリと瞬きした後、自らの口元あたりに手をあて、少し首を傾げた。
「それが、自分でもよくわかっていなくて……
「わ、わか、らない、なんて」
「少し前にフロイドが、卒業したら何になるのか、といったことを聞いてきたでしょう。あの時、僕は答えられませんでした」
 言って、ジェイドは手を下ろす。
 どこか空のあたり、星空を少し見上げるようにしてから、ジェイドはその視線をアズールの顔へと戻した。
……一人で生きていこうと思えば生きていけますし、陸でも海でも、それなりに上手くやれる自信があります。でも……
 でも、と言って、ジェイドは甘く、美しく微笑んだ。
「許されるなら、アズールについていきたいと……そう思ったんです」
「ですが、アズールが卒業後にどのようにされるかはまだ聞いていませんでしたし、そんな相手に僕から『ついていきたい』なんて言い出せもしませんから……本当に、どうしようか、と」
「考えながら学園の夜の散歩をして、歩くうちに少し疲れて、このあたりの木の根元に座り、休憩を。その時、何とはなしに木々を見上げて……いっそこんな風になれたらな、と思ったんです。土に根を張り、特に誰の手にも借りずに生きていきながら、時々はアズールとフロイドが会いにきてくれたりして……僕は二人に木陰を作って、風で柔らかく頬に触れ、髪を撫でるんです。もしそんなことが出来たら、素敵だろうなと……
 ジェイドの声には僅かにうっとりしたような気配がある。本気でそれを素敵と思ったのだろう。
「それで……そんなことを目を閉じ想像していたら、気づけばああなっていました」
 そう言葉をくくり、にっこりと笑ったジェイドを前に、アズールは一言しか返せなかった。
「ば……バカ……
「バカとは。ひどいですね」
 ひどい、と言いながらも、ジェイドはアズールの髪を撫でた。それを受け入れて瞬きをしながら、アズールは言葉を連ねる。
「そんなの……そんなの、僕はちっとも幸せじゃない」
……おやおや」
 困ったように笑って見せたのは、たぶん、ジェイドなりの照れなのだろう。
 それを理解して、構わずアズールは続けた。
「ジェイドが木になったままだったら、卒業時には、ジェイドを引っこ抜いていくつもりでした。それを、どこか……まだ決めてませんでしたけれど、本当なら新しく店を開くつもりだったので、その敷地が良かったけど、とりあえず、とりあえずはジェイドをどこかに植えて。店を開いたら、またジェイドを移してきて、店の敷地内に植えて」
「ふふ、引っ越しが続きますね」
「お前が木になんてなるからだろ……。もうそれしかないかと思ったんです。店の敷地にジェイドという木を植えて、毎日それの世話をして……
 夏は時々水をやって、秋には落ち葉を片づけて。冬には少し布を巻いてやったりして。春になったら新緑を確認して、木の傍でピクニックの真似事をしたりして。
「でも、そうなったら、僕は一人だ……
 そう考えると、耐えられなかった。
 言葉と共に、アズールの目からはまた一筋の涙がこぼれた。
 それに気付いたらしいジェイドが、無言で、そっとその雫を指先で掬い取る。「どうでしょうか」ぽつりとこぼすようにして呟き、ジェイドは少し、躊躇うようにしながらも口を開いた。
「アズールは、僕が何の木になっていたか知っていますか?」
 アズールが無言のまま首を横に振れば、ジェイドは柔らかく、少し悲しげに笑った。その唇が開かれ、正解を告げる。
「ベンガルボダイジュ。……絞め殺しの木ですよ」
 絞め殺しの木。他の木に巻きつくようにして育ち、そうして成長と共に、巻きついていた元の木を枯らしてしまうんです――そう簡単に説明したジェイドが、ひたとアズールを見つめた。
 かすかに笑っているのに目は悲しげで、不思議な表情だった。
「僕は、あなたを絞め殺しにしてしまうかもしれないんですよ」
 それが『木だったとしてのこと』ではないと、アズールにもわかった。
 わかったけれど、どうかな、とアズールは思った。
 たった6日ほど。それも常にではなく時々、木の根元に座っただけだが、アズールは、ジェイドという木に食われそうだと感じた瞬間は無かった。アズールの頭上に広がっていた枝と葉は、アズールを陽射しから守り、揺れるごとに囁いて、アズールの頬を柔い風で撫でた。
 土の匂い。少し湿ったような緑の匂い。指先をかすめる樹皮の感触。アズールはそういったものを覚えている。
 それが絞め殺しの木だったとして。
 いつかあなたに巣食ってあなたをころしてしまうかもしれないと、本人が恐れたとして。
……別に。いい。構わない」
 意識したわけではなかったが、泣き疲れた状態で発した声は不機嫌そうな、むすりとした声になった。
 それを真正面から受け取ったジェイドは、驚いた猫みたいに目を丸くさせている。
 いいよ、ともう一度言って、アズールはまた、丁寧にジェイドを抱きしめた。
 いまだ驚いたままのジェイドは、抵抗もできないうちにアズールにされるがままになってしまう。
 アズールが思った事は色々あった。バカだなお前、とか、何で木なんだよ、とか、僕をどうするつもりだったんだよ、とか、ジェイドが自分を絞め殺しの木と比喩するなら、ジェイドの未来を左右させた自分こそがジェイドを絞め殺そうとしているのだ、とか。
 ジェイドは自分がアズールを害することばかり危惧するけれど、アズールは今更ジェイドのことを手放してやれない。もう今更一人では生きていけないと思い知ったから、なおのことだ。
 だから多分、木にたとえるならば、絞め殺しの木とは、おそらく自分の方なのだろう。アズールはそう思う。
 でも、だから何だよ、という話だ。
 それが何なんだ、と、胸中で、漠然とした世界に向かって怒鳴って、アズールはそっとジェイドの耳元に口を寄せた。
 僕と一緒に生きてほしい、と切実な想いをこめて告げれば、ジェイドの肩がびくりと跳ねて、強張る。
 それに少し笑って、涙を拭いて、アズールは顔を上げてジェイドの名を呼んだ。
 それだけで察したらしいジェイドが、ぎこちない動きで、赤い顔で、それでも、目を閉じてゆっくりと頭を下げる。
 それを引き寄せて、アズールはその唇にくちづけた。
 一際大きめの風がふいて、周囲の木々を揺らし、いくつもの葉たちがこすれあって音をたてた。祝福みたいな、拍手みたいな音だった。
 



きみ抱きし木よ