MN*B
2024-06-21 01:52:55
18577文字
Public 蠱毒な夢術廻戦:pixivバックアップ
 

Ep.1 去る者いれば、

シリーズ中第32話になります。
注意書きは1ページ目、もしくはシリーズ概要の方にあります。

このシリーズの閲覧、ブックマーク、いいね、コメントなど…いつも、どうもありがとうございます。
お待たせしました。(セーッフ!!って思ったら微妙に遅刻ですね!!すみません!精進します…)

 

今回、時系列が少し戻り、七海&順平のターンです。
ある種の番外編のような話で、本編時系列でいうと『E.9 束の間』から後の話になります。
交流会があってるときは、どちらともで濃い出来事が起こってた…って感じですかね。

次回、この話の続きになります。
言ってしまえば『E.16』の補足というか、それよりも先に起こっていた出来事の話です。
なので、出来ればさくっと進めたいので…1週間から2週間以内にあげます。
 

事前予告をしておきますと、番外編のような扱いの話は、今回の流れでは計3話あります。
そこから、今回の章の締めで、もう1話が入る予定です。
…つまり、次回、次々回も番外編。さらにその次の話が、締めの1話って感じです。

 

今回の話は少し、哲学的な話にもなりましたが…どちらかと言えば、青嶺のスタンスを開示するための問答です。
原作で「術式は世界」みたいな話がありますけど、今回の話で話していたのは「青嶺の認識している世界」みたいな感じです。
番外編でやろうと思っていましたが…都合上、本編に並べることにしました。



#オリ主 #夢術廻戦 #吉野順平 #七海建人 #オリキャラ
2021年10月10日 21:24



 お湯が降り注ぎ、雨のようにタイル張りの床を叩いている。
それで思い返されるのは今日行ったばかりの、彼との対話だった。



滝中問答



 シャワー室。
お湯が雨のように降り注ぎ、タイル張りの床を叩くその音が響いている。
私は板一枚で区切られた、すぐその傍で立っていた。

何故こんなことになっているかと言えば今まさに、シャワーを浴びている人物青嶺くんの見張りだ。
見張りといっても、危険視ではなく、健康面のほうでだったが。

 目が覚めたばかりの"彼"は、そのまま交流会に出るつもりらしい。二週間近く寝たきりその上、姿すら違ったというのにだ。
とはいえ、夜蛾学長も許可を出したというしどういう意図なのかも理解はしている。異論というほどのものはない。
同じくゴーサインを出した家入さんから言われ、彼が倒れないように、もしくは倒れたときようの見張りとして、私が立つことになったのだった。

それに、私としても、彼に尋ねたいことがあった。
しかし彼には時間がないし、私たちにも予定がある。だからこうして、何かのついでで話すことにしたわけだった。


「青嶺くん、君に尋ねたいことがあります」

しばらくの空白の後。タイミングを計り、私はそう言って話を切り出した。
それが聞こえただろう彼が、戸惑ったように身じろいだ気配を感じた。

なんですか?」

……君にとって魂と肉体、どちらが先だと思いますか。肉体に魂が宿るのか、魂に身体が肉付けされているのか」

彼ならば、どう答えるのか
あの呪霊と、似て非なる特長を持つ彼の、その思考を聞いておきたかった。

 彼はしばし黙ったあと、困ったような声を出した。

それって、質問おかしくないです?」

「はい?どういう意味です」

「あぁいや、俺の考えとしてどっちが先とかが意味わかんねぇっつーか当てはまらない感じなんで」

質問の前提からして、彼の考えとは逸れている。おそらくだが、そういうことか。

詳しく教えてもらえますか?」

いいですけどと、戸惑ったままの声が返ってくる。

「前提条件が定まり過ぎてて窮屈なんです、その質問。思考誘導に近くないっスか」

そこで一度、言葉が止まる。
こちらの言葉を待っているのか、考えているのかとりあえず、私は先を促すことにした。

続けて」

私がそう言ってさらに少し間が空いてから。彼は改めて、その考えを言葉にして紡ぎ始める。

「まず、前提として魂があるんだなってとこと。あるとして、別々で発生するものなのかってことです」

そもそも魂はないと、君は考えているということですか?」

「ないとまでは言い切らないスけど本来、観測できない以上、悪魔の証明になるんで……

そうも言ってられなくなったけど。と、小さい声が聞こえた。
その一言が示すのはあの呪霊の術式のことだろう。

あの呪霊によって、魂があるかないかの議論を越え、あるのが前提として成り立ってしまっている。
知る前と知った後では考え方を変えざるを得なくなっているだろう。それが彼の言う、"窮屈さ"の正体でもあるはずだ。

「でもそれだと、答えになってないと思うんで。魂が"ある"と仮定とした場合での、俺の考えですけど

彼は話を戻すと、改めて喋り始める。

「肉体と魂は、どっちが先とかじゃなくて、同時発生派です。最初から、どちらとも備わっているのが当然で」

「どちらか片方だけじゃ、人として成立しない。だから、どちらも同時に発生し、存在している。ゆえに人として生まれる、んだと

そんな感じです。彼はそう付け加え、話し終わる。
その後で、あ、人間以外も含めた話ですか、これ。と、ほんの少し間の抜けた声が聞こえた。

「その認識で大丈夫です」

「そっスかこの問いかけって、因果性のジレンマってやつですよね。 にわとり たまごってやつ

その言い方に、私は少し思考が鈍る。
鶏が先か、卵が先かということなのだろうが、そんな略し方をするのか
そう思ったが私は何も言わないことで、話の先を促す。

「鶏卵も遺伝子学的に見れば、卵が先です。でも神学的に見れば、鶏が先……説は分かれるけど

「この答えでわかることは、見方によって答えは変わるってことでつまり。答えは無数であり、人によって違う」

水音が弱まり、止められた音が鳴る。
静かになったこの場に、彼の声が響いた。

誰がどう言おうと、人によって捉えた世界は変わる。魂があるかないか、先か後かも、それぞれ違う」

「俺はそう思ってます」

私がなぜ、こんな質問を彼へ投げかけたのか、悟ってしまったような答え。
最初、話し始めたときとは違う意思を強く持った喋りだった。


「では君は、感情を心は、なんだと思いますか?感情とは魂の代謝で、そこになんの意味もないとしたらどう思いますか」

それも人が決めることなんじゃ

そこまで話した彼は、考えるように言葉を途切れさせる。
そして、私が言っていることの意味合いを理解したのか曖昧な声を漏らしつつも、彼は話を再開した。

「あーまぁ機械的、システム的な流れで、感情の発露がされてるって意味合いなら

「その発生した感情をどう受け止めるかが、人を人たらしめてるんだと思ってます」

……考えているのか、別のことをやっているせいかそこで少し間が空く。
だが、またすぐに話し出す気配がした。

「それに意味があるのかないのか、決めるのは感じた本人でそこに意味を見出したがるのも人間なんだと思う」

「それに意味があるかないかは関係ない。そこにあるのは意味ではなく感情であり、それを感じる精神です」

彼はそう言ってから考えるような吐息を吐き出す。

「しいて言うならその魂の代謝を受け止めるのが、肉体という器なんじゃないスか」

「その肉体がないから、呪霊は感情のままに動く。魂の動き感情が、そのまま行動しているようなものかと」

それで彼の話は終わる。
そしてまた、水音がし始めた。

 私は聞こえていなくともいい、という気持ちで、新しい疑問を彼へまた投げかける。

「君は呪霊の気配がわからないのなら、相手の等級も判別はできていないんですか」

「いえその聞こえてくる声がどれだけ大きいか、文体が整っているかとかで、等級はある程度、識別してます」

水音にかき消されないように、少しだけ張られた声で返ってきた。

「強くなるほど大きくなるんですか?」

「違います。強いほど、音は小さくなります」

私はその言葉に、思わず眉を寄せる。
音が聞こえるのは知っていたが当然そこまでは知らなかったし、そんな報告はどこにも書かれておらず、初耳だった。

「割と漠然としたものでしかないです。今までは、なんとなくでしかなかったし

彼が呟くような声でそう言ったのが、辛うじて聞き取れた。

彼はそう等級の高い任務にはついていない。呪霊の等級の割り当ても、事前調査と実際では異なる場合がある。
それもあって、彼自身も把握に手間取っていたのだろう。
だがそれがそうなのだとすれば……

今回遭遇した、あの継ぎ接ぎの呪霊あれはどうでしたか」

「聞こえませんでした。何も」

ザァザァと、水音がひと際大きく聞こえた。

「七海さんから話を聞いていなければ、すぐには気づかなかったかと」

今度はその声が、張られたわけでもないのに、こちらまですっと通ってくる。

「でも階級は関係ない、たぶん

なぜ、そう思うんです」

「人でも聞こえるから。もっと別の何かが特級と低級の、聞こえ方の違いを生み出しているんだと思う」

水音が止まる。
深いため息が聞こえた。

「それなら君には、何が聞こえているんです」

対象の、訴えたいことですかね。しいて言うなら、だけど」

物を動かしているらしい音が響く。
そして、彼がタオルで頭をかき混ぜながら、個室から出てきた。
男だとしても、その無頓着具合はもう少しどうにかならないのだろうか。

そう思いながらも、黙ったまま、彼のことを観察する。動きに支障はなさそうだ。つい先ほどまで、寝たきりだったとは思えない。
そして私は最後になる質問を問いかけた。

今まで祓ってきた呪霊のことはどれくらい憶えていますか?」

彼はその声を聞き続けていることで、何か思うところがあるのではないかと思うのだ。
そうであれば、虎杖くんも感じていたような感覚や彼の態度にも納得がいくような気がしていた。

「まぁ全部とは言えませんが。それなりに

その言葉に、私はどこか違和感を覚える。
言葉として不自然なものはないが彼の言い方から、どこか言い訳じみたものを感じたのだ。
それに自分で聞いておきながら、そんな答えが返ってきたことに、些か驚きすらあった。

「少し意外ですね」

どういう意味ですか」

「君は全てを憶えていそうなものだと

話している途中でその視線に気がついた私は、喋りを止めた。
乱れた髪から水滴が落ちる。隙間から、あの眼がこちらを視て

「忘れてたら、忘れてることすら分からないんで」

追及するだけ無駄だと、そう告げる。
何か触れてはならないものに触れた感覚。肌がヒリつくような、そんな言い方だった。
私は小さく息を呑む。だがそこから、何気なく話を終わらせることに努めた。

「それもそうですねすみません」

「いえ

戸惑ったように、目を逸らす彼。
気まずい雰囲気になり、結局そこでは、それ以上の会話にはならなかった。


 初めてだった。彼がそんな風に怒ったのを見るのは。
明らかに踏み込み過ぎた、彼にとって触れられたくないことだった。
しかも、あの態度は……きっと憶えているのだろう、己の祓った呪霊が何たるかを。
彼にはそれを話す気がなかったが故に、それ以上の言及を許さない態度を示したのだ。そう思わざるを得なかった。


 彼は、人と呪いの境界が曖昧だ。それこそ、差なんてないに等しい。
声が聞こえるか否かでしか、判断する基準が存在していない。それも、人であろうと聞こえ、呪霊でなくとも聞こえない場合がある。不完全な基準だ。
彼にとって、呪霊と人間特に呪術師と特級呪霊の差は精々、肉体があるかどうかでしかないのか
彼が人と呪いの境界を曖昧にさせる存在なのは、彼自身がそうであり、そんな考え方だからなのだろう。



 私は思い耽りから、少しだけ意識を浮上させる。
お湯が滴り、肌の上を滑り落ちていくその感覚に身を委ねる。


 そんな彼の部屋いや、敢えて言うのなら"彼女の部屋"は、不穏で物悲しい雰囲気が漂っていた。
あの手の類いの雰囲気をした部屋は、幾度か目にしたことがある。

あそこは故人の部屋だ。
部屋の住人を亡くし、親族が手をつけることもできないままでいるそんな部屋だった。



 シャワーコックを捻って、お湯を止める。
額に張りついてくる髪をかき上げた。

「君は一体何者なんですか」

水滴と共に、そんな呟きが零れ落ちる。
思うのはあのときと同じ答えを、彼は言うのだろうかということだった。











次回
 『Ep.2 来る者到る。』