浮き流し
2024-06-19 20:39:38
9515文字
Public イチ松
 

能登半島を旅行するイチ松のお話

・pixivと同じものです

能登半島地震の平穏と追悼と一刻も早い復興を願って


小説と呼べるかどうかもわからないですが、拙いながらも初めて作品を投稿します。
イチ松大好き&復興祈願で能登半島を旅行してもらいました。

↓諸注意事項
※松本を地方のシティーボーイにしたいが為に石川出身にしてます。
※作者が石川にも東北にも詳しくないので多分齟齬が出てます
※できてるイチ松ですが挿入はないです
 松本がリードしてます 雄な受けが好きなので。
※一部弱気な松本が出てきます
※令和設定


ー・ー・ー・ー・ー

 和倉温泉駅からバスに乗り、岸の向かいにある島へ向かう。目的は能登島にある水族館だ。
 バスに揺られる事約30分。階段を降り正面にジンベイザメのモニュメントと、ジンベイ丸と書かれた大きな金属製の箱が出迎えてくれる。

 入場券を買う前から妙に浮き足立つ松本を見て、一之倉は嬉しい反面不思議に思う。
「初めて来たオレならまだしも松本は一応地元民でしょ?来たことあるんじゃないの?」
「のとじま水族館自体は遠足とか旅行とかで来たことはある。でもジンベイザメ館ができたのはその後だから、テレビでは見ても実際に来るのは初めてなんだ」
 それに、とバレンタインに初めて女子からチョコを貰った時より良いプレーが出来た時よりも嬉しそうに続ける。
「イチノとのデートなんだ、嬉しくない訳がないだろ」

 入場券を買ってまず誘導された施設はジンベイザメ館 青の世界だ。扉を開けると室内が全体的に青く薄暗く、胸ぐらいの位置に大きな水の塊を囲ってある。泳ぐ魚を上からもしゃがんで横からも覗く事ができるが、室内の殆どを水槽に費やした水族館のバックヤードの様な印象を受ける。
 ただその印象も水槽を半周する頃には大きく変わる。

 薄暗くも透明感のある水槽も、中を泳ぐ魚も人が歩く通路も、全てが深い紺色に染まる。足元は僅かに傾斜となっていて、水槽に気を取られすぎると躓いてしまいそうになる。この大きな八角柱水槽の周りを螺旋の様にぐるぐると回りながら、ゆっくりと降りていく。
 大きな影が現れ、魚だと思う前に濃淡のある水玉模様が視界に入る。ジンベイザメが巨大な体を動かしながら、本物の海のさながらに悠々と通り過ぎて行く。

「ここにいると自分も吸い込まれたみたいだな」
「オレもここを泳ぐ魚になったみたい」
 手を伸ばせば前を泳ぐ魚に届きそうになるのを、触れたアクリルガラスの力強さと時折挟まれる継ぎ目の様な柱が錯覚であると教えてくれる。
 上見ると光が降り注ぎ、魚の動きに合わせて煌めくのがわかる。目の高さには中ぐらいの魚が群れを成し、大きな魚に付いて回る小型の魚が見られる。
 進むごとに届く光が少なくなり、目の前を泳ぐ魚も、広がる海も青の濃さを増していく。これが海の深度ってやつなのだろうか。

 暗さと壮大さに紛れて手を繋ぐ。繋いだ手から相手を感じられるのに、ふとした瞬間に隣の存在が青に溶けて消えてしまうんじゃないか。不安に駆られた一之倉は握る手に力を込める。それに気付いた松本が優しく、だけど力強く握り返してくれる。深い青に飲み込まれてもこの手の先には松本がいる、それがとてつもなく心強い。
 底近くでは菱形の幼魚が僅かに動いていたり、頭の先が広がった大きな魚がひたすら泡を体に纏おうとしているのが見える。微笑ましい光景ではあるが、写真と名前を見る限りサメとエイ、本物の海でもこんな呑気にするのだろうか。
 一面の水槽では海の一員になれるが、黒い壁に開けられた丸からではその瞬間が切り取られる。海に取り残された潜水艦の、窓から覗く深海の様だ。

「のと海遊回廊だって」
 一度屋外へ出て誘導が示すまま別の建物に入る。さっきまでの深海とは打って変わり、南国の透き通る青と色鮮やかな光のショーが目を刺す。天井や床には光の筋から生まれるエイや忙しなく向きを変えるイワシの群れ。左右の水槽では止まることのないマダイやブリの群れが泳いでいる。
 一之倉があちこち壁面を手で触れながら確認する。
「広いと思ったけど半分は鏡なんだね。今ならビルにぶつかる鳥の気持ちが分かると思う」
「インスタ映えってやつかな。ずっとカラフルな丸やシャボン玉が動いてる」

 進行方向から少し隠れる様にかまくら状の窪みがあり、木製の椅子の様なものが備え付けてある。
「ここ、ドーム型になってて魚の動きが下から見えるんだな。器用に水槽の盛り上がったところを避けてる」
「密着してカップルに人気だって見たけど、湾曲したところだと流石に狭いね」
「真ん中の広いところじゃないと、イチノとより天井と仲良くなっちまう」
二人ともそれだと困るので、奥の天井の高い奥、真っ直ぐな壁に背中を張り付ける。飽きる事ない天然の万華鏡にしばし目を奪われる。

「あ、イチノ!そのままストップ!」
 突然の鋭い声に固まる一之倉。その瞬間を収めた松本が写真を確認し満足そうに見せる。
「これ。丁度魚の群れが後ろに来たんだ。イチノが海の主になったみたいでかっこいいだろ?」
 左手を挙げた一之倉と、その指揮につられる様に群れが動く姿が収められている。確かに松本が言う通り海の主の様であるが。
「せめて間抜けじゃない時の顔にしてほしい

「じゃあここに立って。まず松本撮りたい」
一之倉が少し離れた所を指して言う。
「オレだけか?どこも鏡だから、どこで撮ってもツーショット写真が撮れると思うけど」
首をかしげながら言われた位置に立つ。
「オレの間抜けな写真撮った仕返し。も、あるけど普通に松本の写真ほしいから」
「わかった。ただ次は一緒に写ろう。イチノとの恋人らしい写真、オレも欲しい」

 四角い水槽の中央、真ん中から底にかけて穴が空いてる、不思議な水槽を見つける。
「ねえ松本、ここから顔出せるんだって。ちょっと入ってみてよ」
 長身の松本には低かったのか、もたつきながら水槽の下を潜り体勢を整える。鮮やかな魚の後ろに微妙に眉を顰めた形のいい坊主頭が顔を出す。目の前の光景を見た瞬間、意志の強い瞳が驚きと喜びに彩られる。
「!カラフルな魚が顔の真横にいるみたいだ!イチノもやってみろ!」
「ン"ンッ」

 妙に低い位置に横長の水槽がある。上部にはくじ引きの箱の様な穴が数箇所あり、正面には手を入れてみようと書いてある。
「ドクターフィッシュ、ガラ。最近テレビでよく見るな」
「老廃物食べてくれるってやつね。一度やってみたかったんだ」
いそいそと腕まくりをし、手洗いもそこそこに水槽の中に手を差し入れる。まばらだったはずのガラが、一斉に一之倉の手に食い付く。
「おいっ滅茶苦茶食われてるじゃないか!」
「ンフフ、くすぐったい」

 その隣には海の生き物との触れ合いコーナーがある。
「ナマコとかヒトデ触れるんだって」
「ナマコは全身酢漬けみたいな硬さなんだな。全身高反発枕の硬い版みたいな、なんだか不思議な弾力がある」
「ヒトデで食べられるのは内臓だけ、って納得できる硬さだね」