MN*B
2024-06-19 01:18:17
17331文字
Public 蠱毒な夢術廻戦:pixivバックアップ
 

余光が染める空の下で。

シリーズ中第6話になります。
注意書きは1ページ目、もしくはシリーズ概要の方にあります。

このシリーズの閲覧、ブックマーク、いいね…いつもありがとうございます。

 
この小説、シリーズを読んでいただきありがとうございます。
とりあえずこのシリーズは、一山越えたことをご報告させていただきます。

最後のページに、あとがきという名の独り言・裏話的な内容も含まれています。
読まなくても支障はありません。気が向かれた方はどうぞ。

 
次回は、少し間をあけて投稿しようと思ってます。
ぶっちゃけ書きすぎて疲れてます、情報の整理も兼ねて休みます。
あとアニメBDを買ったんで擦り切れるくらい見ますね。
大体2週間後くらいになるかと。

 
 
車の上に立つ五条さんはカッコいいけど、普通なら車体が歪むよね。
そして免許持ってんのかな。
個人的には、身分証として持っていそうだし、スポーツカーの似合う見た目だと思います。


#オリ主 #五条悟 #夢術廻戦
2021年1月24日 20:02



 俺は最後に、今回持ち歩いた二冊を、そっと棚に戻した。
日除けのための布を下ろし、その本たちは見えなくなる。

ほかにしておくことはないか、ぐるりと部屋を見渡した。
カーテンは閉まっているし、物を取り出したあとの引き出しも閉めなおしている。
まるで部屋の主が帰ってくるのを疑わないような、人の気配がしたままの場所だ。

俺は首を振ると、部屋の扉を開ける。
その前では、五条さんが俺のことを待っていた。

え?荷物そんだけでいいの?」

そう驚いた声をあげる五条さん。
俺の手には、リュックサックが一つ下げられている。

「いい俺の物じゃないし」

今持っていこうとしている物だって、自分の物だとは思っていない節があるままだ。
生活に必要なものは、後々買い足せばいい。
そう考えて、最低限の荷物だけを持っていくことにした。  

後ろを振り返ると、自分のものじゃない物ばかりの部屋が見えた。
俺にとっては寝起きをするだけの場所長くて短い間、世話になったところだった。

部屋を出て、扉を閉めた。


五条さんと玄関まで行くと、そこで母さんが待っていた。

「本当にもう行かれるんですか?」

と母さんは五条さんに聞く。

「えぇまぁもっとゆっくりしたかったんですけどね~、上に呼び戻されまして」

勤め人も上が横暴だと大変でと言う五条さん。

「お子さんも急に連れて行くことになってすみません」

そう言って謝る彼を遮って、俺は喋った。

「別に五条さんのせいじゃねぇよ一人で東京行けとか言われたら死ねるから、今ついていくんだっつーの」

それを聞いた二人は、大袈裟だなぁ、ねぇと笑った。
いやマジで無理だから。

 俺は笑う二人を無視して靴を履いた。
たぶんもうそろそろ、呼んでいたタクシーが来る頃のはずだ。
笑う五条さんを急かして、俺らは揃って外に出る。
玄関から出るときに母さんから声をかけられて、俺は振り返って返事をした。

「いってきます」





 来た時とは逆の流れで、東京への道のりを進む。
俺たちはまた、人のいない駅の待合室で、今度は電車が来るのを待っていた。
相変わらず年代物のエアコンが、必死に空気を温めようとしている音が響いている。

ぼぉっと座っていると、五条さんは不意に話し始めた。

僕の名前、憶えてたんだね」

忘れてるから呼ばれないんだと思ってた。と、彼は言う。
それに対して俺は、少し考えてから言葉を返した。

「まぁ、自己紹介のときがあれだったからな自分でもよく頭に残ったなとは思う」

俺は手枷されてたし、五条さんは目隠ししてる怪しい人物だったし。
そのとき名乗られたけど、俺は名乗ってなかったな。と、なんとなく思い返した。

あの時点では、俺が憶えてなかった可能性はあっただろうけどと、俺は話を続ける。

「でもアンタ、母さんにも名乗ってたろ。さすがにそれで憶えてませんは、ちょっと無理があるよな」

俺がそう言えば、彼は少し口ごもりながら喋った。

「それは君が僕のこと名前で呼ぶ気がないのかな~とも思ったんだけど」

今だって名前じゃなくてアンタ呼びだしと、ちょっと不満げな五条さん。
そんな彼に、俺は少し戸惑った。

「別に呼ぶタイミングがなかっただけなんだが。そういうアンタだって俺を名前で呼ばねーだろ」

苗字も下の名前も、俺が申告してから知っていたはずだ。
こっちに来てからも、俺のことを苗字ですら呼んでいないのは彼の方だ。

俺は、立っているときよりも近い高さにある、彼の顔を見た。
彼はその顔の半分を覆っている布のせいで、黙ると何を考えているのかがわかりにくい。
前を向いたままだった顔は、少しだけ俺の方を向くと、迷いながら口を開いた。

なんて呼べばいい?」

苗字とか」

「僕、生徒のことは名前で呼ぶんだよね

なるほど。一応この人も気を遣っていたらしい。
俺が母さんから名前で呼ばれるのが苦手なのも、バレているのだろう。

ため息をついて、俺は両手をポケットの中に突っ込んだ。
カサリと、そこから紙の音がする。
それは今朝、母さんから貰った紙広げると、一文字の漢字が書かれている。

『衛』か。

きっと母さんも、気づいていたってことなんだろうな。



 俺は立ち上がると、五条さんの方を向いた。
彼は不思議そうな顔をして、同じように立ち上がった。
俺は彼を見上げる。彼も俺を見た。

「俺は、青嶺 アオネ マモル五条さん。これからよろしく、お願いします」

それを聞いた彼は、顔をほころばせると、噛みしめるように言った。

「うん。僕は五条 悟。よろしくね、衛」


俺たちはようやく、知り合うことができたのかもしれない。





そういえば。
俺はふと思い出した。
五条というと、水神様が言っていたのと同じ名前


そのことを口にする前に、駅のホームへ電車が滑り込んでくる。

「あっ!僕たちが乗らないといけないやつだよあれ!」

そう言って慌てた五条さんは、俺の手を掴んで待合室を出た。
急いで改札を抜けながら、俺は喋った。

「これ逃すと、次は30分か最悪1時間待ちになるな」

「何それ!!」

信じられないと言わんばかりの声があがった。

 電車が来たのは、改札から向こう側にあるホームだ急いで階段を駆け上がる。
その途中でしびれを切らした五条さんは、とうとう俺を抱え上げた。

「なんでまた小脇に抱えるんだよアンタは!!」

「君遅いし!こうした方が絶対早いから!!」

その言葉通りに、周りの景色がぐんと進む。一歩一歩のリーチが違い過ぎた。

「俺が遅いんじゃなくてアンタが速いんだ!!足長オバケ!」

「せめて足長おじさんって言ってくれない!?」

そんな俺たちの声が、ほかには誰もいない跨線橋に響き渡った。



 乗り込むのに間に合った俺たちは、力が抜けるように空いた席へと座り込んだ。
乗客はほとんどおらず、俺たちの騒ぎを気に留めた人もすぐに目線をそらした。
田舎って、こんなもんだよな
これから都心へ近づいていくのを考えて、少しだけ憂鬱になった。




 あの町から離れるほどに、電車の乗客は増えていく。
そんな車内に辟易とした俺は、窓の向こうを眺めた。
冬の日暮れは早く、夜がすぐそこまできている。

日が落ちてもなお、残るその光それに染まった空。  
太陽が沈んだあとも、空に残っている日の光のことを『余光』というらしい。


夜の帳が下りるのはもう少しあとになりそうだ



俺は揺れに誘われて、その目を閉じた。







続く