MN*B
2024-06-19 01:08:05
14540文字
Public 蠱毒な夢術廻戦:pixivバックアップ
 

その地に伝承は眠り

 シリーズ中第3話目です。
注意書きは1ページ目にあります。シリーズ概要の方にもあります。

 前回と前々回の閲覧・ブックマーク・いいね、ありがとうございます。
増える度にガッツポーズしてます。
 今回の話も楽しんでもらえると嬉しいです。
 
 
 もうちょいギャグチックに、呪術高専に通うことを主人公が知る予定でしたが、想像上の五条悟が思っていたよりも大人だったのでシリアスになってます。彼が大人すぎました。

 このシリーズは、人生一年生の主人公が呪術高専で成長する…そういうお話を書きたくて書き始めました。…いまだに呪術高専に辿りつけてません。
ホラーを書くのが好きなのに日常しか書けてないの、グダりそうで恐々してます。

 やっと次回が、原作沿いになる前の前日譚本番って感じです。
次回予告詐欺になるかもしれません。その場合探索編になります…。
 
 
 
#夢術廻戦 #五条悟 #オリ主 #オリキャラ
2021年1月13日 18:11



 新幹線に乗って数時間が経ち、そこから電車に乗り換え、また長い時間が経った。
その間に俺はやっとこさ、饅頭一個とペットボトル一本分のお茶を消費していた。

 今の時期が冬なのもあって、夕方になるのが早い。
窓の外はどんどん暗くなり、都心から離れるにつれ明かりが減っていく。
それと共に、電車の乗客も徐々に減っていった。


 とうとうたどり着いたのは、乗り降りする人がまばらにいる程度の狭い駅だった。というか俺の知っている駅である。
俺の住んでいる地元の最寄り駅だ。
 視察と言っていたが、ここからどこへ行こうというのだろうか方向によっては田んぼと畑しかないぞ。

 五条さんを見れば、タクシーを呼ぶための電話をかけ終わったところらしい。
10分くらいで来るだってよ、とこちらへ報告してくる。


 二人しかいない駅の待合室で、タクシーが来るのをじっと待った。
古ぼけたエアコンが、寒くもなく暖かくもない空気を作り出すのを頑張っている音だけが響いている。

 横を見れば、五条さんが長い脚を持て余すようにして座っている。そのそばには菓子折りの入った紙袋があった。
ゴミなんかは途中で捨ててきたが、彼はまだそれに手を付けていないらしい。どんだけ食べるんだこの人。

 そうやって考え事をしながら暇をつぶしていると、タクシーの運転手らしきおっちゃんが待合室を覗きに来た。
中にいる俺らを見てぎょっとしてから、タクシーを呼ばれた方ですか?と恐る恐る声をかけてくる。
五条さんはそれに肯定して立ち上がる。それに続いて俺も立ち上がり、待合室を出た。

 駅のそばに停めてあったタクシーに乗り込み、五条さんはケータイの画面を見せて運転手に目的地を伝えている。
もう夜だなと思って窓を見つめると、ガラスに映りこんだ自分の顔が見えた。サングラスをかけたままだった。
こんな時間に目隠ししたやつとサングラスしたやつの組合せをみれば、誰だってあんな反応するわな。
目的地を聞いて、車を発進させたタクシーのおっちゃんに同情し俺はそれとなくサングラスを外した。





 しばらくタクシーは走り、見覚えのある場所の前で停まった。
五条さんが料金を支払い、タクシーから降りる。俺もそれに続いた。
乗客のいないタクシーは、街灯がほとんどない道を戻っていく。

 それを見届けた俺は、白い息を吐きながら言った。

「視察っていやここ俺の実家」

五条さんと一緒に立っているここは、久しぶりに見る俺の家の前だった。

「そうだよ。行ってなかったっけ?視察の前に君ん家に寄るの」

なんでもないことのように、重要なことをさらっと言うこの男目的地を聞かなかった俺も俺だが。


 家の前と言ってもそこそこの距離がある。
砂利の敷かれた私道の先に、車庫があってその奥に家があった。
家には電気がついていて、きっと誰かが居るのだろう。そう考えた俺は、たじろいだ。

 自分の家を目の前にして、ただ立ち尽くす俺それを見た五条さんは核心をつくことを言った。

「君ってさ一度も『家に帰りたい・帰らせろ』とは言ってないよね」

「『帰してくれるなら帰る』とは言ってたけど。どこへ行くとも言わなかった僕に、今まで君は何も言わずついてきた」

僕って君を家にも帰さずに、また別の場所に引き連れて歩くような大人に見える?と首を傾げてくる。

「家に帰らなきゃっていう意思が、どうにも薄く感じるんだよねどうしてか聞いてもいい?」

それもう聞いてるだろその言葉は吞み込んで、返事を考えた。


 姿が変わっているから。この数日間のことを信じてもらえるとは思えなかったから。この状態で帰してもらえるとは思っていなかったから。
等々、思い当たることを考えてみるが、それらが本当の理由だとは思えなかった。
しっくりくる答えは数日前、家から出る前の、ベッドの中で思ったこと。

俺がここに居ていい存在だと思えなかったから」

 家族の中で母さんだけは、この身体が多重人格なのを知っていた。知っていて支えてくれていた。
だけど、俺以外が死んだことは知らない。
あいつらが死んだのもついこの間のことだったし、俺は母さんとろくに話したことがなかったから。
俺は部屋に引きこもって、あいつらのフリをして過ごしていた。話せなかったから。

 ぽつり、ぽつりとそう話していく俺の言葉を、彼はただ静かに聞いてくれていた。
話し終わったあとは、静寂がしばらくの間続いた。
二人分の白い息が、寒空の下に消えていく。


 五条さんは、俺の考えていたことを吹き飛ばすように、なんでもないことのように話し出した。

「君はね、戸籍上成人してるから別に家に帰らなくたっていいと思うよ。普通なら生活基盤を整えるのが大変だけど、君が行く場所はもう決まっているし」

「でも僕は教師として、君を呪術高専の生徒に迎え入れたいと思ってる。だから、君の親御さんにも話をしておきたいんだ」

その言葉に驚いて、俺は彼の顔を見た。
彼は俺のことを真っ直ぐに見つめていた。

「なんだそれ俺、高校の生徒になる予定なの?」

あれ?言ってなかったっけ。と、先ほどと同じようにとぼけた声で返される。
聞いてない本当に何も聞いてない。
それはつまり、俺は自分の未来のことすら聞いていなかった。

「だけど君がこのことを話したくないっていうのなら、しないでもいいよ。この家には、行方不明になった人のことについて聞きに来た呪術師ってことにして、話を聞くだけで帰ってもいいんだ」

俺は、何も返事ができなかった。
彼はそんな俺の肩を叩いて、さぁ行こうか。と歩くことを促した。


 砂利を踏みしめる音がするたびに、玄関へと近づいていく。
そして表札の『青嶺 アオネ』の文字が見える距離になり、そのそばにあるインターホンを五条さんは迷いなく押した。
古い家だからインターホンは呼び鈴でしかなくて家の中から玄関の方へ人がやってくる気配がする。
玄関の電気が灯り、ガチャリ、がらがらがらと、人影がガラスのはまった引き戸を開けるのが見えた。

どちら様でしょうか?」

そう言って五条さんを見上げたその人は、後ろにいる俺にも目を向けた。
その途端、顔を歪ませてこちらへ向かって来て

「ああ!__!!」

そう身体の名前を叫ぶと、俺を強く抱きしめた。

 おかえりなさいと泣きながら言われた俺は、ただいま。お母さんと返した。
それを聞いた母さんは、さらに俺を強く抱きしめてきて、おいおいと泣いた。
そうやって抱きしめられているうちに、俺も悲しくなってきてごめん、母さん。ごめん俺以外、いなくなっちゃった。と伝えた。
それを聞いた母さんは、泣き笑いの顔でいいのよ。いいの無事に帰ってきてくれただけで、それでいいの。と涙を流した。


 しばらくの間そうしていただろうか。泣き止んだ母さんは涙を拭うと、一歩引いた位置に居た五条さんを見て、申し訳なさそうにした。

「ごめんなさいこの子を連れて来てくださったんでしょう?どうぞ、上がってください」

「いえ気にしないでください。もとはと言えばこちらのせいですのでそのことについてもお話がありますから」

五条さんはそう言って、家に上がった。




 五条さんがところどころを掻い摘んで話しているのを、俺はぼんやりと聞いていた。
居間のテーブルの向かいに五条さんがいて、俺と母さんは隣り合って座っている。
呪術だとか、そういうことも意外と話しちゃうんだなと思いながら、話を聞く母さんを見ていた。


 「つまりこの子は大怪我をした上に、危険人物として捕まっていたってことですか」

「その認識で間違いありません。私たちの団体の者が起こした問題に巻き込み、あまつさえ思い違いにより数日の間お子さんに不当な扱いをしたこと、お詫びします」

そう言って五条さんは深く頭を下げた。
それを見た母さんは唇を震わせると、五条さんに頭を上げるように言った。
頭を上げた五条さんの顔をみて、こう続けた。

「この子がそんな目にあっていたなんて、考えただけで怒りに震えています。ですけど、あなたはちゃんとこの子を帰らせてくれた。だから責めません」

「娘を連れて帰ってくださって、ありがとうございます

そう言った母さんは、深々と頭を下げた。
そうしたあと顔を上げると、あらそういえば、今は息子なんでしたっけ。と笑った。



 そのあとも呪術高専のことなどの、なんやかんやを話していたら夜も遅い時間になってしまった。
母さんは五条さんに泊まっていくことを提案し、すっかり遅い夕飯にも誘って振舞った。
母は強しというべきか、すごい勢いの押しに五条さんが負けたという話なのだが
持っていた菓子折りを出した時点で、元から好印象だったのが天元突破した感じだったある意味五条さんの行動が招いた結果ともいえる。南無。
 いやまぁ、五条さんもああ見えてしっかりした大人だと痛感した。
お菓子めっちゃ食う人じゃなかった、スマンと無言で拝んでおいた。


 「それにしても、よく俺のことわかったね。結構変わってると思ったんだけど」

座敷に布団を敷くのを手伝いながら、俺は母さんにそう話しかけた。

「そうねぇずっと成長を見てきた側からすると、あんまり変わってないわよ。見たときに、髪の毛短くなっちゃって!と思っただけだもの」

あぁでも、と俺と視線を合わせた母さんは

「身長、縮んだわね!」

と言って笑う。

 俺がビシリと固まっていると、後ろから吹き出す音が聞こえた。
驚いて振り向くと、お風呂いただきました。とさわやかに笑う美青年がいた。

 またもや固まることになった俺は、母さんとその美青年が、あら服のサイズ大丈夫だった?とか、ええ。ありがとうございますなどと和やかに会話しているのを聞いているだけの存在になった。
母さんから、ほら早くお風呂入っちゃってきなさい。と背中を押されて、ふらふらと脱衣所へ向かった。


 風呂に入るという大体の作業を終わらせて、ぽかんと浴槽に浸かりながら思った。

「誰だ!!あのイケメン!!!」

居間の方から、夜中にうるさいわよ~という注意と、座敷の方からは思いっきり笑う声が聞こえた。