MN*B
2024-06-19 01:08:05
14540文字
Public 蠱毒な夢術廻戦:pixivバックアップ
 

その地に伝承は眠り

 シリーズ中第3話目です。
注意書きは1ページ目にあります。シリーズ概要の方にもあります。

 前回と前々回の閲覧・ブックマーク・いいね、ありがとうございます。
増える度にガッツポーズしてます。
 今回の話も楽しんでもらえると嬉しいです。
 
 
 もうちょいギャグチックに、呪術高専に通うことを主人公が知る予定でしたが、想像上の五条悟が思っていたよりも大人だったのでシリアスになってます。彼が大人すぎました。

 このシリーズは、人生一年生の主人公が呪術高専で成長する…そういうお話を書きたくて書き始めました。…いまだに呪術高専に辿りつけてません。
ホラーを書くのが好きなのに日常しか書けてないの、グダりそうで恐々してます。

 やっと次回が、原作沿いになる前の前日譚本番って感じです。
次回予告詐欺になるかもしれません。その場合探索編になります…。
 
 
 
#夢術廻戦 #五条悟 #オリ主 #オリキャラ
2021年1月13日 18:11



 結局どこかへ食事に寄ることもないまま、僕らの乗る車は一旦の目的地である駅に着いた。
乗っている間、スンと澄ました顔をしていた彼だが、時折その腹からは音が鳴っていた。

 先ほどは話をそらしたが、僕は彼が真面目で察しも悪く、明け透けに言ってしまえば馬鹿だなぁと思ったのだ。
人は、食べなければ苦しいし死ぬ。それは彼もわかっているはずだ。
それでもなお頑なに、それを避けようとしている。そしてその姿勢は、相手からの気遣いも気づけなくしている。
 彼の実年齢こそ大人だが、その中身は見た目と変わらないのだろう。
それが態度や言動に表れているのがわかった。


 伊地知は駐車場に車を停めると、こちらの方を伺ってくる。 
 
「予定時刻までまだ時間がありますが、どうされます?」

気まずい空気のまま運転してきたからか、その言葉はどことなくぎこちない。
僕は隣に座る少年をちらりと見て、どうするかを決めた。

「そうだな中にある売店で買い物でもしてこようか。ほら、君もだよ」

そう言って彼の手を掴み、一緒に車から降りる。
いや、俺はと拒否しそうな彼の肩に手を回し、逃げられないようにする。

「いいからいいから。僕のショッピングに付き合ってよ」

彼はムスッと黙ったまま、素直に抵抗をやめた。

「それじゃ伊地知、乗車券よろしく!また後でね~」

「わかりました」

ホッとした顔をする伊地知そんなに気まずかったの?





 人、人、人人だらけの構内を歩いていく。
帰省からのUターンラッシュも終わっており、それに比べたら空いているものの、人で混みあっている。

 中に入ってからは彼の肩から手を放して、はぐれないようについてきてねとは言ったものの
彼はピタッと張り付くような距離で、僕の後ろについて回っていた。
それはさながらカルガモのように、離れたら一巻の終わりといった風だ。


 彼が空腹なのは間違いないし、食べ物を見たり匂いを嗅いだりすれば、頑ななのもどうにかなるんじゃないかと思って連れているのに実際は全くの逆。
売り物を見るより僕を見てるし、総菜の匂いがすればそれとなく口を覆っていたりする。
食べるのが苦手ってそういうことか。
さすがに可哀そうなので、それがわかってからは土産売り場の方に向かった。

 パッケージされた土産用のお菓子を見ている間も、彼は僕の横や後ろにピタリと張り付いたままで、商品を見るにしても僕の影からチラッと覗くばかりだ。
それでいて僕の邪魔にはならない位置におり、いきなり立ち止まったり動いたりしても、僕には触れずに追従してくる。
距離の取り方が絶妙で、それが面白くなって色々試してしまった。さすがに遊びすぎたかな。


 適当なところで買うものを選んでいく。
その間も彼は黙ったまま表情も変わらず、僕の行動を見守るばかり。

君ってさ、日ごろどんな物食べてるの?」

唐突に話し出した僕を見ると、彼は口をへの字に曲げた後、仕方なさそうに喋る。

……ゼリーとか。バランス栄養食、とか」

ぼそりと話すと、また口をつぐむ。
え?それだけ?

「ほかには?さすがにそれだけってことはないでしょ~」

茶化すようにして話の先を促す。
彼はしばらく黙ったあと、渋々口を開いた。

お粥と、味の染みてない大根」

……病人?」

思わず漏れた感想に、だから言いたくなかったんだと小声で返してくる。

 食事内容が病人のそれと一緒だ。食べ物が苦手でそんな食生活をしてるのなら、あんなに頑なになるわけだ。
外食に出ても、食べられそうなものがないってことらしい。


 彼は深く息を吐くと、ゆっくりと話し始めた。

「アンタは、離乳食に唐揚げや刺身をチョイスするか?」

いきなり話題が変わったような気がするが、たぶん関係のあることなのだろう。
黙って続きを促すように視線を送ると、彼は話を続けた。

「自分で言うのはなんだが、俺は経験がゼロに近い」

俺の事情は知ってるだろ。と付け加えられる。
彼はその身体の内の、数ある人格の中の一人だという話のことだろう。
そのせいで彼自身の経験が少ないというのはわかる話だった。
その言葉に頷きを返す。

「生きてきた人間ってやつは、その成長に合わせて味覚も変化していくし慣れていく。そうやって食事をするたびに慣れていくはずのものを、俺は食えない」

そう言い切った彼は、匂いを嗅いだ時のように口を覆って、ため息をついた。
その姿に、彼の本音を垣間見た気がした。


 そうか君はと口を開きかけたところで、電話が着信を告げてくる。伊地知からだ。
ついでに時間を見れば、ぼちぼち合流しておかないといけない頃合いだった。

「もしもし伊地知~?うんわかってるよ、大丈夫。今からソッチに向かっても間に合うから」

 伊地知からの時間の確認を促す言葉を流しながら、適当に見ていたお菓子のいくつかを持ってレジに向かう。
会計をしている間、当然のように後ろへついている彼を振り返り、本当に何もいらない?と尋ねる。
彼はちょっと迷った様子をみせたあと、レジ横にある保温機をみて小さい声を出す。

「しいて言うならお茶が欲しい、です」

声に比例した小さい要求。前置きを言ういじらしい態度。
少しだけ彼との距離が縮まった気がした。
嬉しくなり、彼の頭に手を置いて笑いかける。

「いいよ~それくらい!」



 買い物を終え、彼に頼まれたものを渡すとぎこちない感謝の言葉を伝えられる。
それがまた面白くて、もう一度彼の頭に触れたあと、伊地知が待っている場所へ足を向けた。


 向かっている途中、彼が小言を言っているのが聞こえた。

「頭触んなよ俺しばらく風呂入ってねぇんだから」

そういえばそうだったね。
触ったときは気にならなかったけど、そう言われると気になってくるじゃない。
立ち止まって彼の方を振り返る。

トイレ行っていい?」

それを聞いた彼は、わかっていたかのようにため息をついた。





 待っていた伊地知から乗車券を受け取り、そのまま見送られる。
別れる間際に、彼は伊地知に対しお礼とお辞儀を返していた。言葉遣いの割に、育ちは良さそうなんだよね。

 改札口を通り抜け、プラットフォームへ上がるエスカレーターに乗る。
たどり着いたそこには、乗る予定の新幹線がすでに扉を開けて待っていた。
僕たちは足早に乗り込んで、座席を探し席につく。
一息ついたタイミングで、新幹線は滑り出すように東京から出発した。