柚鈴
2024-06-18 11:08:58
28580文字
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Floruit

第1~2話:あかりん
第3~6話:柚鈴

第1話「世界を照らすテトラッド」

◇ハレリ・フィデス

 あの日。
 巨大なサクリファイスを倒した際のこと。
 先にソレと戦っていた二人──マヤ・アミカとエレナ・ソラリス──を、助けて以来。
 ハレリ達は、彼女たち二人とも、交流を持つようになっていた。
 と、いうのも。
 あの戦いから数日後の話。
 レイラのところへ、マヤからメッセージが届いたらしい。
『この間は、助けてくれてありがとう。よかったら、お礼がしたい。みんなで会えないかな?』
 その一通を受けとったレイラは、なんと──ハレリたちに、相談してくれたのである。
 まったくもって、驚きだ。驚愕の事実。
 出会った頃のレイラだったなら、「必要ない」と断っていただろうに。一刀両断だったろうに。
 ほんとうに丸くなったな、と思う──まぁ、彼女の角がとれたのは、ほとんどミアのおかげなのだけれど。
 ともあれ。
 相談を受けたハレリ達は、みんなで話し合った結果──七人で集まることになって。
 その日から、別々のグループではあるものの、マヤとエレナと合同で訓練をすることが増えたのである。
 精霊もそれを知っているのか、サクリファイスとの戦いにおいては、互いの増援に行くよう指示が出されることも多くなり。
 そのような数多の機会のおかげで、戦闘においての連携もかなりとれてきて──そして、それだけではなく。それだけにはとどまらず。
 今日も、七人で戦闘訓練をおこなったところなのだが──既に訓練自体は終わったものの、すぐには解散せず、談話に花を咲かせているところで。
 そのぐらい、七人の空気は穏やかだった。
 例えば。
 フウカは、かなりの読書家だというマヤと、本の話ができるようになっていた。初めのうちはかなり緊張していたものの、徐々に徐々に心を開き、少々硬いものの、今ではすっかり笑みを浮かべている。
 家でも、マヤと同じ本の話題で盛り上がったとか、マヤに勧められた本を買おうと思っているだとか、そういうことを話してくれて。
 人見知りで人間不信ぎみのフウカに、友人が増えた。
 それが、素直にうれしい。と、ハレリは思う。
 フウカを包むぬくもりが伝播していることは喜ばしかったし、これからももっともっと、彼女をあたためる人の輪が広がればいいな、と願っている。祈っている。
 例えばといえば、さらに例えば。
 ハレリは──というか。
 ハレリとミアはというと、エレナからよく戦闘のコツを教わっている。ご教示いただいている。今も、今日の反省点を洗いだしているところだ。
 彼女の武器はロングソードであるため、剣を扱うミアと、斧を扱うハレリと、近接武器どうしということで、身体の使い方や思考の方法、作戦の練り方などが非常に参考になるのである。
 彼女の魔法、天翔ける流れ星コメーテース・アエスターティス──鷲に似た巨大な鳥を呼び出す──の使い方……使いこなし方も見事だ。ちなみに、マヤの魔法は煌めきを綴る物語リベリー・メアといって、視界の中の光を一点に集めるものである。
 また、エレナは外見も内面も非常に明るく、いっそ無神経と評してしまいそうになるほど、歯に衣着せぬはっきりとした意見を、そしてしっかりとしたアドバイスをしてくれて。
 いわば、そう──姉御肌で頼り甲斐があり、年齢もハレリ達より上の彼女は、ハレリとミアの憧れなのだ。
 ……なの、だけれど。
…………
 ちらり、と。
 そっと──レイラのほうを、見るともなく見てみる。視線をやってみる。
 彼女は、シノと話をしていた。
 その表情は──やはり、というべきか。
 非常に厳しいというか、なんだか複雑そうで。
 さもありなん、と思う。
 レイラとハレリの、ミアとフウカへの感情は、似ているようで全くちがう。
 だから、共感はしない──できない──けれど、なんとなく、予想はできる。
 レイラは──ミアを、エレナにとられてしまったかのような気持ちになっているのではないだろうか。
 まぁ、すべてハレリの推測にすぎないのだけれど。推察にすぎないのだけれど。
 そんな、ややこしく縺れているレイラに──シノは、穏やかな笑みで接していた。
 彼女は、どんなときでも、誰にでもやさしい。いつも笑顔で声をかけて、グループの雰囲気を和やかにしてくれる。
 今だって、レイラの硬直した表情を溶かし、やわらかくしたのは、彼女だ。
 思えば……ハレリは、シノのことを、何も知らない。
 ミアとレイラの両親の話はなんとなく聞いたし、ハレリたちもフウカが学校に行っていないことは伝えている。
 けれど、シノは……プライベートの話を、しようとしない。一切、しようとしない。一切合切、しようとしない。
 謎に包まれている、というふうに感じてしまう。ミステリアスだ。
 もしも──もしも、アイドルではない彼女について聞いたら、話してくれるのだろうか?
「あ……そろそろ、時間じゃないですか?」
 陽の角度が変わり始め、空は徐々に夜の紫紺が混じりだす。
 レイラの門限が近いことを告げるその合図に、シノがよく通る声でそう言った。もう、解散の時間がやってきた。
「姉さん、帰ろう」
 エレナとミアに感謝と別れを告げたハレリは、フウカのほうへ振り返る──マヤと話していた、フウカのほうへ。
 それに気づいたフウカの表情が、先ほどまでより、ぱっ、と明るくなる。そして、おどおどとまだぎこちない様子で、マヤにぺこりとお辞儀をしてから、てててっとこちらへ駆け寄ってきた。
「ハレリ……は、さ」
「ん?」
 フウカが隣へ立つのをしっかり待ってから、ゆっくりと歩みを始めれば、彼女は、そんなふうに切りだした。
「帰るとき、絶対に私のほうを振り返ってくれるよね。それが……とっても、うれしいんだ。いつも、ありがとう」
「姉さん……ふふっ。そう言ってくれることが、私もすっごいうれしい!」
 きゅん、と。
 グッ、と。
 フウカの気恥ずかしそうな笑みに、心臓を引っ掴まれたような、確かで強烈な熱が広がって──ハレリも、心からの笑顔で応える。
 これからも、姉さんのことを、ずっとずっと、もっとずっと、守りたい。
 守らなきゃ。
 そう、思いを新たにし、いつもの廃墟を後にした。