無窓居室
2024-05-29 09:53:05
7210文字
Public
 

Pretender

WEBイベント「クリームソーダ同人オールジャンル」様にて展示と無料配布させていただいた短編集。
これまでに企画やプレゼントで書かせていただいた話の中から「擬態」をテーマにした😈👹を5編まとめています。


玉の緒


 皆で海へ遊びにきた昼下がり。泳ぎ疲れて砂浜に上がったアカネは、海の家のパラソルの影からブラックがこちらを見ているのに気づいた。
 本おじのように胸や脚を眺め回して鼻の下を伸ばしているなら一発くれてやるところだが、どうもそういう様子ではない。視線に応えるように軽く片手を上げて、ジュースを買いがてら傍へ寄る。強い日差しのせいか、ブラックの黒い眼差しは目を合わせていてもどこか遠くを見つめているように思えた。

「何ジロジロ見てんだよ、アタシの水着がおかしいか?」
「いいえ、素敵ですよ。特にアンダーバストからウエストのラインが。お臍舐めさせてくれません?」
「ぶッ!?」

 唐突なマニアック発言にアカネがジュースを吹きそうになる。しかしすぐ気を取り直して、逆にきっちりと着込んでいるブラックのラッシュガードに手をかけた。

「臍なんていつも出してるしアンタにもあるじゃん!ほら、自分のでも舐めてろ」
「ええ、隠さないデザインの水着で来て下さって嬉し……やめて下さいよ〜、アカネさんみたいに綺麗なお臍してませんから」

 ブラックも巧みに身を捩って、たくし上げられかけたラッシュガードを引き下ろす。明る過ぎる海辺では、あけすけな際どいじゃれ合いも却って誰の注意も引かない。

「臍に綺麗とか綺麗じゃないとかある?」
「ありますよ。お臍は胎児期にお母さんから栄養や酸素を受け取っていた名残りでしょう、生き物全てにとって尊いものですが、これのおかげでアカネさんがこの世に産まれて来てくれたと思うと愛おしくて仕方ないです」
「ひゃっ……急に触るなよくすぐったい!」
「オレちゃんは悪魔ですから親のお腹から産まれたわけじゃありませんし、お臍も造形上ついてるだけのただの飾りです。オレちゃんの肉体自体がそういう性質のもの、とも言えますがね」

 おちゃらけた調子でブラックは続ける。天邪鬼な悪魔は、自分の本質に関わることを語るときに決まってこういうていをするのだった。さとしのお墨付きだ。

「ブラックってたまに難しいこと言いながら寂しそうにするよね。今その体でアタシ達と一緒に居るんだから良いじゃん」
「カカカッ!それもそうです」

 モモとマゼンタの両親は天使と悪魔で、ブラックのかつての同僚は父親が神だったらしいから、天使や悪魔にも普通は親が居るのだろう。ただ、ブラックとその前身である天使Bにはいなかったということだ。

「アタシの母さんに会いたい?」
「何でそうなるんです?」
「じゃあ、たまにはアタシを母さんだと思って甘えていいよ、っていうのは?」
「おっぱい吸わせてくれるんですか?」
「何でそうなるんだよ

 そうこうしているうちにモモとタローがおやつの時間を知らせに来た。松林に敷かれたレジャーシートの上では皆が持ち寄った軽食を開いている。さとしやアッシュとパープル達はとっくに宴もたけなわになっているようだ。バニラちゃんに全てを食べ尽くされてしまう前に、二人は白い砂を蹴って友人達が待つ松の木陰へと向かった。