〈後日談〉紺色彼氏とオートクチュールプラン

7600字ほど〈後日談〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。後日談で名前がわかります。


 週明け、今月の取引先との会合ミーティングに新人として連れられて行くと、西能が上司と出席していた。
 いつぞやは、という会社員の顔で言葉を交わす。

 その後、休日の、夕闇に空が染まる時刻に、僕はアパートの最寄り駅に西能を迎えに行った。
 西能は私服姿で、最近会うのは仕事の場と仕事帰りで互いにスーツ姿だったから新鮮で、出会った日を思い起こさせた。六月のあの日の服装と比べると、秋の装いだ。
 僕はアパートに案内した。
「どうぞ。……狭いですが」
 僕が先に入る。玄関スペースも、背の高い、大柄な彼とは並べないほど狭いから。
 無事、1DKに入ってもらい、上着を脱ぐ西能にぼくはどきっとし、湖の桟橋を思い出した。そしてハンガーを貸した。
 狭い部屋の中を見回すこともなく、眼鏡の視線を所在なげにさまよわせてローテーブルを少しどかし、長い足を余らせてあぐらをかく姿は、あの日の青年『櫂人』だったから、僕はやっぱりちょっとシャイなのかもと思った。
 今こうして彼が部屋にいるのがすごく、何かが巡りめぐってきたようだ、と心のなかでつぶやきながら、お茶を出した。耐熱性のグラスに温かいお茶である。お茶うけも出そうとしたら
「差し入れです」
 と西能は駅から手に提げていた小さい紙袋を僕によこした。
……お気遣いなく……ありがとうございます」
 紙袋をのぞいて老舗の銘菓の紙包みを取り出し、西能の顔を見て言った。
 見つめ合って、少し無言の間があった。
 その視線が、僕から部屋の壁へ移る。
 そして僕は、あっと思った。
 タペストリーを外し忘れている。

 壁に飾っているメルヘンチックな夜の風景のタペストリーを、外そうと思っていたのに。
 こんな、もうばっちり見られている状況で外すか僕は迷って、彼の顔とタペストリーのあいだで、立ち上がりそうで立ち上がらない半端な格好で座っていた。
 そうしたら西能は、あの日、割れたカラメルが溶けていくときにも見せた、別にかまわないというような表情になった。
 僕はそれに、今日も甘えてしまう。

 料理はすでに半分ほど作ってあったけど、できたてを食べてほしい料理は今から作る。
 もう好物は聞き出してある。
 交換した連絡先から、メッセージアプリでのやりとりを今日までひんぱんにしていた。仕事の知り合いでありながら、プライベートでも親しい、友人のようなメッセージのやりとりだった。好物は何か、なんていうたわいないやりとり。僕からすれば、相手から好みを聞き出したいという探りだったが。
 仕事帰りに待ち合わせて、いっしょに夕飯を外食することもあった。ビジネス街の飲食店はどこもいつも周りが騒々しい。だから仕事に関する会話と、彼を観察していた。
 今日は二人きりだ。この狭い部屋、静かな部屋で。
 積もる話をやっとできる、やっと二人きりでゆっくりたくさん話せる、と思った。
 そのまえに、棚のディスプレイコーナーから抱き上げて、二匹を見せると、懐かしそうに掴んで表裏と返して眺める。
 ふと、二匹と西能のスリーショットは撮っていないと気づいた。
 それを撮りたいなと僕は携帯をかまえて、すぅっと膝で隣にいざり
一真いっしんくん」
 呼びかけると、一真はぎょっと驚く様子で、近距離に膝をついて寄った僕に身を引いた。
 この二匹と一人で撮らせてほしい、と頼んだら、ああそう……という何か肩すかしをくらったみたいに、ぶっきらぼうに了解だというふうに二匹を見下ろした。
 僕が中腰で携帯を握ってその手の二匹の持ち方と構図が決めていると、むずがゆいという表情がだんだんひくついて、れたようなものになる。
 一真の腕に腰を抱き寄せられる。
 びっくりしたあと、まだ撮っているからだめ、と言うと一真は腕を下ろした。それから撮った後すぐに、腰に腕をまわしてきて僕を抱き寄せたまま、眼鏡をとり、ローテーブルの上に並ぶ二匹の横に眼鏡を置いた。
 大きい手が、もう逃がさないとでも言うみたいに僕の頭の後ろをしっかり持ち、キスしながら、きつく抱きしめられる。 
 僕はちょっとぎこちなく顔を傾け、唇を合わせた。身体も全部重なるように、その肩にゆっくり腕をまわした。
 あの日を思い出す。
 身体を抱え直されるあいだに、唇が離れる。
 体温が上がって、頭がぼうとしてきて「……ぼくと」こころから言葉がこぼれる。
……お付き合い……彼氏にしてほしい」
 見つめてささやくと一真の肩が大きくふるえた。
 はい、という短い返事にくすりと笑うと、それを食べるみたいに深く口のなかまで入ってくる。
 窓の外は夕闇が街を夜に変えて、部屋の内は秘めやかな時間に満たされる。
 彼とお付き合いを始める喜びと初めての深いキスにびくびく身体が揺れて、もう、料理を作らないと、と僕はその太い首元をあやすみたいにつついた。



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