〈後日談〉紺色彼氏とオートクチュールプラン

7600字ほど〈後日談〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。後日談で名前がわかります。


 大きな仕切りで、半個室になっている店だった。
 案内されたのは変則的な形のカウンターのような、半端に隣り合う席で、三ヶ月ぶりに会ったにしては距離が近くて、スーツの腕が触れそうで、どきまぎする。
 居酒屋チェーンの全体的に騒がしい空間でも、隅の個室席のせいか、酒場の喧騒は遠かった。
 荷物を置いて、携帯をテーブルに、互いに注文を済ませる。
 冷たいお茶のグラスのふちに唇を当てて下ろして、僕は黙って彼が『櫂人』なのが、まだ信じられない気持ちで、じろじろと見てしまっていた。彼は僕の視線をもろともせず、スマートな動作ですい、と名刺入れから一枚出して、ビジネスの場のように腰を上げ、丁寧に渡してくる。
 はっとして、僕も立ち上がって、そっと名刺を受け取った。
 また座り、彼は会社名と所属を言ってから

西能さいのう一真いっしんと申します」
 
 『櫂人』は名乗った。
 名刺と彼の顔を見ながら、僕は名前を胸の内で何回か復唱した。
 
……呼びは一真かずまでもかまいませんが」
 
 よくわからないことを付け足す、と思った。
 でもそのあたり、親近感があるなと僕はまたびっくりしていた。
 名刺の会社名をしっかり見たら僕が働く店舗、隣接して建つ本社と幹線道路をはさんで、斜向かいの位置に建屋がある、文具、ステーショナリー、手帳などを卸している会社であった。
「ご近所さんですね」
 おもわずつぶやいたら、曖昧な、しかめ面よりなんともじっと睨むような表情と、微妙なができた。
 そして僕は自分も本名を名乗らなければ、と名刺入れから真新しい、作ってもらったばかりの名刺を差し出した。
 世界に一店しかない雑貨セレクトショップらしい、美しい箔押しのあしらわれた素晴らしく凝った特徴的な名刺だった。憧れのそれを作ってもらって、いただいた日の夜は、自分の名前の入ったその名刺をずっと眺めていた。
 会社の名前を内心、誇らしげに言ってから

伊志嶺いしみねつづるです。……つづりでもいいです」

 自分も下の名前が、つづるとつづりで呼びが親、家族から安定しないのである。自分としても、どっちでもいいと思っている。
 だから彼がいっしん、かずまでもかまわないというのに親近感を覚えてしまう。
 特徴的な名刺を表裏返して見る西能に
「綺麗な名刺ですね」
 と言われて、僕はまた誇らしく、嬉しくなる。
 名刺交換が済んで、ちょうど配膳ロボがドリンクを運んできた。