〈後日談〉紺色彼氏とオートクチュールプラン

7600字ほど〈後日談〉 一次創作BL「レンタル彼氏」物 社会人CP 眼鏡年下大型ワンコ×紺色が好きな、しっかり者だが変わっているところがある美人 ハンドルネーム上の名前は櫂人(かいと)×透萌歌(ともか)です。後日談で名前がわかります。


 そして仕事に慣れてきて、季節は秋も深まって残業なく帰宅する、ある夜、いつもの道順から店舗のすぐ近くのビジネス街のアーケードの通りに足を踏み入れた。
 今夜はこのあたりで外食してみようか、と初めて見る飲食店の建ち並ぶ通りを見回した。夕飯時を少し過ぎたころで、人が多い。携帯スマホを片手に、どこも、混んでいそうだなと一軒一軒、順に見ていくと、道の向かいに櫂人が立っていた。
 何か、ごく自然に、当然の話みたいにそこに立っていた。
 スーツ姿でも、一目でわかった。背が高くて目立つというか、スーツ姿も格好良くて人の目を惹く。
 あの日、無造作なかんじだった黒髪はスーツに合わせてか、前髪を整えるようになでつけていた。太い縁の眼鏡は同じものだった。
 またなんとも言い難いという、気難しいような、しかめ面のような顔で、しかしそれはあの日見た照れ屋の青年のそれではなく年相応の、二十代後半のビジネスマンの表情であった。
 僕はびっくりして、立ち止まった。しばらくけっこうな距離を空けて見つめ合った。
 なんとなく、後ずさりかけた。全身に血がどくどく巡る。
 すると、こっちに近い位置の蕎麦処から、本社の上階のフロアで見たことがある、上司数人が出てきて、こんな場面でも僕は慌てて挨拶した。
 まだ新入社員の自分は顔を覚えてられていないかと思ったが、名前を呼ばれて二言、三言、話をした。
 最後に礼をして見送り、上司数人は駅の方向へ歩いていった。が、途中、道端で取引先の、面識がある人間をすれちがいざま見つけて話しかけるような調子で、櫂人に声をかけた。櫂人も若い会社員らしく、頭を軽く下げ、何か話している。
 その光景に僕は目をみはった。もしや、あの唐突な「手帳なども」というセールストークみたいな付け足しは、ユーモアなどではなくて単純に事実を言っていたのか。

 それから、こちらから歩いてきた。
 僕は後ずさる寸前の体勢のまま、固まっていた。
 こちらを見下ろして櫂人は、いや、さっき呼ばれていた名前は
 
――ご無沙汰しています」
 
 低く、硬質で、冷静に聞こえるがなんとも含みのある声音で言い、やや鋭い眼差しで睨み、眼鏡のフレームに触れるように大きな手を持ち上げる。
 互いにスーツ姿の再会に僕は動揺して、うろたえて、何と答えたらいいか迷った。
 真ん前に立つと、『櫂人』ではない、彼は周囲の飲食店の看板に目をやり
「立ち話もなんですから」
 と、薄く笑ったような表情で言った。
 まるで何か積もる話でもあるみたいに言うので、うなずくか考えていると、彼の予想より僕の反応が悪かったのか、眼鏡越しでもわかるくらい彼は片眉を動かし、一瞬、目を伏せたが
「ここじゃなんですし」
 気を取り直す、というようにまた薄く笑った表情になって言い直した。
 これは逃がしてもらえない、そしてここで避けたとしても近々きっと仕事で会う、と観念した気持ちで僕は歩み寄り、「この店がいいです」というふうに彼の背後の飲食店のチェーンを指さした。