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戸倉
2024-05-19 21:42:24
16812文字
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終わらない牧台シリーズ
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終わらない牧台④
【もう二度とせぇへんから編】
・現パロ W23歳 会社員 × V23歳売れない役者
・高校時代からのともだち
・4年前に失踪したVと再会して同居してる
・付き合ってない
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4
5
ウルフウッドは定期的に育った施設を訪れている。社会人になってからもそれを続けているというのは、それだけこの場所がウルフウッドにとっての大切な場所なのだろう。特に深く考えずついてきたヴァッシュは、素朴な白い門の前まで来たところで、はたと気づく。みんなに紹介とは
――
?
「ニコ兄、おかえり!」
「あっ、この前テレビに出てた人だ!」
「かっこいい~!」
「きれい!」
「この人と一緒に住んでるってほんと?」
「名前は?」
建物の入り口に辿り着く前に、ウルフウッドとヴァッシュは自分たちの膝丈にも満たない子どもたちに一気に囲まれた。
ヴァッシュは一人ずつ返事をしようとしたが、到底追いつかない。わたわたと首を右へ左へ振っている男を見て、ウルフウッドは声を上げて笑い出した。白い歯を大胆に見せ、目元には薄い笑い皺。初めて見る顔に思わず釘付けになっていると、子どもたちもヴァッシュと同じように腹を抱えて笑う男を見上げていた。
「ニコ兄どうしたの?」
「ニコ兄たのしそう~!」
「ニコ兄あそぼ! かくれんぼしたい!」
「やだー、お絵描きしよ!」
ウルフウッドは目尻に浮かんだ涙を拭い、慣れた様子で近くにいたいちばん背の低い少年と少女を腕に担ぎ上げる。
「この兄ちゃんはワイのともだち、ヴァッシュっていうてな、役者やっとんねん。すごいやろ? エリカはこの前のドラマ見てくれたんやな。また出る時は教えるからみんな応援したってな。ノア、かくれんぼ久しぶりにしよか。ただしもうオマエも兄ちゃんやから今回は探す方やで、ええな? ソフィ、かくれんぼ終わったらお絵描きしよな」
ヴァッシュがぽかんと口を開けている間にかくれんぼが始まるようだ。ウルフウッドの周りに集まった二十名ほどの子どもたちがわっと沸き立ち、年長と見受けられる二人の少年が鬼役を買って出る。
横目でウルフウッドを見上げると、完全に童心に戻った、わくわくという表現がぴったりの顔をしていた。ふたりの家では絶対に見せない顔。ヴァッシュはウルフウッドから顔を背けてこっそり笑った。
「トンガリ! はよ隠れへんとすぐ見つかってまうで。ワイらデカくて不利なんやから隠れる場所は慎重に選ばんと!」
ウルフウッドはそう言い残し、この場所を初めて訪れたヴァッシュを置き去りにして建物の中へと走っていく。少しは隠れる場所のヒントをくれるとかそういう気遣いはないのだろうか。そんな不満もありはしたが、ウルフウッドがあまりにも楽しそうなのでそんな考えも吹っ飛んでしまう。ヴァッシュは鬼役の子どもたちから離れ、ウルフウッドとは反対の方向へ隠れる場所を探しに走った。
子どもたちの遊び場、教室、食堂、教会。一通り回ったが、既に誰かが隠れていたり、長い脚を仕舞いこめそうにない場所だったり、ヴァッシュが隠れられそうな場所は見当たらない。
もういっそ外の樹の影にでも隠れようか。後ろに回り込まれればすぐに見つかってしまうが、子どもたちとの遊びだし、そこまで真剣に取り組まなくてもいいだろう
――
。そう考えたところで、脳内のウルフウッドが騒ぎ出す。子どもとの遊びだからといってお前は手を抜くのか? それでは子どもたちに失礼だ
――
と。
脳内のイメージを消したくてパタパタと手で仰ぎ、足早に施設内をもう一度歩き回る。きっとどこかにまだ見落としている場所が、長身の大人でも隠れることのできる場所の一つや二つあるはずだ。
医務室の隣に小さな部屋を見つけ、音を立てぬようそっと扉を開ける。使われていない机や電球、清掃用具の置かれたそこは、人の出入りが少なそうな場所だった。
薄暗い部屋の中、縦長の大きなロッカーを見つけ、ヴァッシュはやっと良い場所を見つけたと一安心して扉を開ける。が、そこにはあろうことか先客がいた。暗闇の中でギラリと獰猛な光が走る。悲鳴を上げようとした瞬間、大きな手のひらに口元を塞がれ、扉の内側へと引きずり込まれる。ガチャン
――
。金属同士がぶつかる音と共に目の前が真っ暗になった。
「アホ、もうガキども探し始めとんで。静かにせぇ」
「う、ウルフウッド
……
なんでこんなとこに、せまっ、出ていくから、手、はなして」
「アカン」
ウルフウッドと向き合う形になったヴァッシュは背を丸め、黒いティーシャツの肩口に顔を埋める状態でどうにか立っている。引きずり込まれた時に掴まれた手首がじりじりと熱い。どう動いてもウルフウッドや金属の壁にぶつかってしまい、少しの身動きを取ることも許されなかった。
「トンガリ、苦しいやろ。顔上げ」
低音が耳元で響き、ヴァッシュはもぞりと内腿を擦り合わせる。どんなに小さな音も狭い箱の中では反響し、ウルフウッドの声はまるで直接脳内に響いてくるかのよう。暗闇の中、仕方なく言われるがままに顔を上げると、互いの湿った息が顔の前で混ざり合い、頬が濡れた感覚に背筋がぞくぞくと粟立つ。ヴァッシュは口を開けたまま咄嗟に息を止めた。
「体勢きつないか?」
ロッカーの隙間から差し込むわずかな光の筋だけが視界の頼り。ウルフウッドはヴァッシュを労わるようにニコリと口角を上げているように見えた。そんな風に気遣うくらいなら今すぐここから出してくれ。そう言ってしまいたいのに、今この奇妙な状況がヴァッシュの判断力を鈍らせている。
ウルフウッドの右手は、不安定な前傾姿勢になっているヴァッシュの腰に。もう一方の手で苦しげに下を向いた顎を上に向かせる。鼻はぎりぎり触れない距離、しかし唇が目の前にあることがヴァッシュを余計に動揺させた。逃げ場がないと分かっているのに身体は後ろへ下がろうとし、踵がぶつかる音がごうんと虚しく響く。
「なぁ、トンガリ」
さっきまで子どもたちの前で朗らかに笑っていた男の出す声じゃない。いつものあだ名を呼ばれただけで金縛りにあったみたいにヴァッシュの身体は動かなくなる。
「してもええか?」
何を、と言わなくてもヴァッシュが理解することを知っている、そんな甘えを含んだ声色は、ヴァッシュの頬を一気に熱くさせる。
「おまえほんとに正気じゃないとは思ってたけど、こんなところで
――
」
「静かにせんとガキどもに見つかるで」
「んっ」
左手の人差し指を立て、ウルフウッドはヴァッシュの唇に蓋をするように宛てがう。腰に添えられた右手の力が明らかに強くなり、ヴァッシュは観念してぎゅっと目を瞑った。
沈黙を肯定と取ったウルフウッドの気配がぐっと濃くなり、吐息がぶつかる。しかし予想していた場所ではなく、柔らかい感触はヴァッシュの唇の端を掠めただけだった。
「あ
……
れ?」
「アカン、暗くて外したわ」
ふっと緊張の糸が解け、ふたりの間の空気が揺れる。気が抜けたヴァッシュがくすくす笑い出すと、今度は左手で顎をしっかり固定され、息を呑む間もなくゆるく開いた唇の隙間から熱の塊が差し込まれた。
ヴァッシュは身体を大きく跳ねさせウルフウッドの腕にしがみつく。ねっとりとした苦味が咥内に広がり、鼻にかかった声が漏れた時、ヴァッシュはようやく自身の咥内を蹂躙しているのがウルフウッドの舌だと理解した。口を閉じたくてもそれは叶わず、耳を塞ぎたくなるような音がヴァッシュの体温をぐんぐん上げていく。息ができない。熱い。苦しい
――
。
唇からこぼれた唾液が顎に伝い、襟元を汚す。上手く息継ぎのできないヴァッシュは黒いティーシャツの胸元を必死になって引っ張り上げた。しかし、ウルフウッドの勢いは止まらず、息遣いは荒さを増す。
ヴァッシュはかくれんぼをしている最中であることも忘れて、ロッカーの内側から勢いよく扉を蹴り飛ばした。金属が凹む音が部屋中に響き渡ったが、そんなことを気にする余裕はもはやなく、床にへたり込んで大きく深呼吸を繰り返す。興奮と動揺で首から顔全体を真っ赤に染め上げたヴァッシュを見下ろし、ウルフウッドは濡れた唇に触れながら不思議そうに目を屡叩く。
「おどれこの前は反応薄かったやんけ」
二週間前、初めて唇を触れ合わせた時、あまりにも淡々とした反応に内心面白くないと感じたことをウルフウッドは覚えている。大袈裟な反応をする価値もないくらいヴァッシュにとってウルフウッドとの触れ合いは取るに足らないものなのだと思っていた。
「この前、は、びっくり、して
……
、でも、今日は
……
」
薄青からぼろりと大粒の涙が溢れ、ヴァッシュの頬を濡らす。ウルフウッドは慌ててヴァッシュの前にしゃがみ込み、涙でびしょびしょに濡れた頬を両手で包み込んだ。いくら親指で拭おうと、次から次へとこぼれてきて指では到底間に合わない。挙句の果てに声を上げて泣き始めたヴァッシュ
――
、その涙を見るのは初めてではないのに、ウルフウッドは心臓が縮みあがるような心地でいっぱいだった。
ズボンのポケットにハンカチが入っていると思い出した時には、涙はウルフウッドの肘まで濡らし、地面に吸い込まれるように滴り落ちていた。
「トンガリ、スマン。こんなに嫌がっとるとは思わんくて
……
」
ウルフウッドが止まらない涙を指で拭い続けていると、場にそぐわぬ朗らかな声が集まってきた。
「ニコ兄とヴァッシュここにいたー!」
「あれっ、ヴァッシュどうしたの?」
「泣いてるの?」
「ニコ兄いじめたんだ⁉」
「えっ、ニコ兄とヴァッシュ喧嘩⁉」
子どもたちに取り囲まれ、ヴァッシュは慌てて服の袖で雑に涙を拭う。ウルフウッドは咄嗟にポケットからハンカチを取り出し差し出したが、ヴァッシュは決して目を合わせようとはしなかった。
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