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戸倉
2024-05-19 21:42:24
16812文字
Public
終わらない牧台シリーズ
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終わらない牧台④
【もう二度とせぇへんから編】
・現パロ W23歳 会社員 × V23歳売れない役者
・高校時代からのともだち
・4年前に失踪したVと再会して同居してる
・付き合ってない
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「またしたくなったら、してもええか?」
あの意味深な囁きから二週間。ウルフウッドは普段通りの振る舞いそのもので、何か言ってくる気配すらなかった。ヴァッシュとしても、あからさまにぐいぐいこられても困る。好都合といえばそうなのだが、若干生活に支障を来たすほど、ウルフウッドと一緒にいる時はそのことばかり考えてしまう日々が続いていた。
そもそも、またしたくなったら
――
という曖昧な表現がヴァッシュを惑わせる。したくなるかならないかはウルフウッド次第で、それがいつなのかも分からない。完全に相手の掌の上。本音を言えば、理不尽だ! とウルフウッドの目の前で喚き散らしてやりたいくらいだが、仮にも役者を生業としている身。ここはぐっと耐えて、ウルフウッドの普段通りに合わせようと心がけた。いつもの笑顔、いつもの軽口、いつものようにウルフウッドのネクタイをダサイと言って選び直す。なんにも気にしてませんよ、の体を装って
――
。
「今日は結んでくれへんのか?」
爽やかな色味のグリーンのネクタイ。クローゼットから取り出したそれをウルフウッドへ手渡し、二度寝するため踵を返したところで引き止められた。ヴァッシュがここ最近もやついていることなど知る由もない飾り気のない黒の瞳。ここで断るとむしろ怪訝に思われるだろう。ヴァッシュは「はいはい」とやる気のない返事をして、ウルフウッドの手からネクタイを引ったくった。
距離が近い。ヴァッシュは自分でも気づかないうちに呼吸を止めていた。就寝時も距離が近い方だが、お互いに目を瞑っているしすぐに眠ってしまうから今のところは問題ない。問題は今だ。ネクタイを結んでいる時、ウルフウッドは一度も瞬きをしていないのではと疑ってしまうほどヴァッシュのことをじっと見ている。身長がほぼ変わらないせいで視線は近く、じりじりと太陽が照りつけるように刺さる。しかし、ここで見ないでくれと頼むのもおかしい。早く結んでしまおうと考えれば考えるほど手元が狂って余計に上手くいかない。結び目のバランスを誤り、途中から結び直していると、ウルフウッドは小首を傾げた。
「どないした? 調子悪いんか? なんや顔が赤なったり青なったりしとるけど」
「なんでもないよ。それよりじっとして」
動揺が露呈しないようヴァッシュはこれも一種の役なのだと思い込むことにした。シーンその一、ヴァッシュ、ウルフウッドの問いかけを淡々と躱し、無表情を保ったままネクタイの結び目を引き上げる
――
。
「なぁ、おどれ今度の休みいつ?」
「え、あー、日曜日」
「予定ないんやったらちぃっとワイに付き合うてくれへん?」
「え、あー、いいよ」
意識を他所へ飛ばしていたせいで、ウルフウッドの話の内容は頭に入ってこない。生返事もいいところ。ネクタイを結び終え、ようやくウルフウッドから離れようとした時、鼻の頭同士が軽くぶつかった。
「
――
っっ⁉」
「ほんなら、日曜日空けといて」
眼前には穏やかに笑みを浮かべる男。ヴァッシュは今が「また」なのかもしれないと咄嗟にぎゅっと目を瞑りうつむいた。
真っ暗な視界の中、どうして自分は待ちの姿勢を取っているのかと自問する。これではまるで自分を差し出しているようなものだ。
窓の外からは登校中の子どもたちの笑い声が聞こえ、鼻に纏わりつくのは嗅ぎ慣れた煙草の匂い。身体は強張り、脚は鉛のように重くて動かない。
数秒経っても何も起こらないことを不審に思ったヴァッシュが恐る恐る目を開けると、ウルフウッドはとっくにヴァッシュから離れ、靴箱から革靴を取り出しているところだった。
「日曜日、ワイの育った施設連れてくから、みんなに紹介させてくれ。まぁ悪ガキもぎょうさんおるけど、賑やかで楽しいところやから」
ヴァッシュは鼻の頭を押さえつけながら靴を履く男を恨めしげに見つめる。意識しすぎる自分が恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だというのに、ウルフウッドはそんなことお構いなしに声を弾ませ「いってくる」と破顔する。学生の頃みたいな無邪気さと幼さすらあるその笑顔に、ヴァッシュは力なく微笑み返した。
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