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沁月
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ウ教×ハ♀ 両片想い 読み切り
大賢なる木の花は
MHRウ教×ハ♀。両片想い、から……
微妙に本編ネタバレあり。
花占いの花と、里の桜のお話。
1
2
3
4
5
(
……
あ
……
!)
どくん、と娘の胸が大きく高鳴る。
ウツシの手に包まれながら掴んだ、桜の花びら。
手の中に広がっていた数は、四枚。
娘の中に、昼の記憶がヒノエの声と笑顔と共に鮮やかに蘇る。
『掴んだ花びらが三枚以上の時は、きっと、桜だけが知っている結果なのかもしれませんね』
里の桜は、娘が生まれた時から傍にある。
人の目よりも人を、人の心を正確に、静かに、そして優しく見守り続けている花。
そんな桜たちから与えられた答えは、娘が求めているような、前向きで、単純明快なものではなかった。
(
——
桜だけが、知ってる
……
?)
胸の奥で、娘がヒノエの言葉を復唱した刹那、ふわりと、また花風が流れる。
夜の涼やかな風は、娘の手の平から、四枚の桜の花びらをさらっていった。
彼女は思わず目で追いかけようとしたが、それよりも早く、先ほどまで花びらの乗っていた手にウツシの手が重なる。
「!」
思わず心と一緒に体も震えそうになって、娘が反射的に隣に立ったウツシの顔を見やると、彼は、とても穏やかに微笑んでいた。太陽よりも温かく、月明りよりも柔らかく、金色の瞳の奥には、一途な輝きに満ちた抱擁の輝きが優しく揺れていて。
「行くよ、愛弟子」
翔蟲はわたしも使えるのに、と思った娘だが、それを告げることはなく「はい」と素直に首を縦に振った。
満足そうに笑って娘の手を握ったウツシは、天満月に見守られながらもう片手で、鮮やかに翔蟲を放つ。
彼女の手を引き、一瞬だけ風と同化して、共に集会所の屋根上へ軽やかに降り立つ。
月明りに満たされて昼のように明るい、自分たちだけの特等席のように見える屋根上に、娘は素直に心を弾ませた。ゆっくりと、里の方へ体を向ける。
「
……
きれい
……
!」
天満月に照らされ、柔らかに流れる夜風に乗り、きらきらと輝きながら零れていく小さな花びらは、まるで天の川のよう。
煌めく夜桜に彩られた里を一望する娘の口から零れ落ちた、感嘆の声。
その隣に立つウツシの視線は、桜でも里でも月でもなく、ただひたすら彼女の横顔に向けられていたのだが、当の本人は気付かないまま、大自然の慈愛に目を奪われ続ける。
「すごい
……
里も、桜も、本当にきれい
……
! 月が澄んでるからかな
……
ずっと見ていたくなっちゃいますね、ウツシ教官」
「
…………
。
……
全部
……
キミほどじゃない
……
」
「え?」
風の音が、言葉をかき消す。
娘は言葉こそ聞き取れなかったが、ウツシの声の響きだけは何となく聞こえた。
いつも風を切り裂かんばかりの彼の声は甘やかに低く、魅惑的で、彼女は思わず機敏に、そんな想い人の顔を見やる。
今の彼はとても静穏な、年長者らしい慈愛の笑顔を
湛
たた
え、娘の心を高鳴らせた。
「あ、あの
……
今
……
何て仰いました?」
「
……
ん? そうだね、って言ったよ。誘ったかいがあったなぁって。何もかも
……
とても、綺麗だよね」
さらりと告げたウツシも、緩やかに空を仰いだ。娘が「きれい」と感声を上げた天満月と夜桜を、彼は目を細めて見つめた。
「
……
ねえ、愛弟子」
「はい」
「キミに、伝えたいことがあるんだ」
凛と低く響いたウツシの声に、娘が何事かと景色から師の顔を見やる。
愛おしい金色の瞳は今の夜空よりも眩く、大らかで、一途な想いに溢れんばかりに優しく輝いていた。
どうしたのですか、と紡ごうとした娘の言の葉は声に乗ることはなく、いつの間にか、彼女は吸い寄せられるようにその目を見つめ返していた。
ウツシの明澄な双眸はただ、娘のどんぐり眼の幼子のような表情をを映している。
「
……
我が愛弟子、俺の大切な人よ。
……
愛する故郷の、月と桜が見守ってくれている、今こそ
……
」
「
……
ウツシ、教官
……
?」
「愛弟子。俺は、キミを
————
……
」
刹那、突風のように吹いた、
花嵐
はなあらし
。
ふわりと大きく巻き上げられ、里の桜雲が一斉に、桜色の流れ星のように幻想的に花びらを散らした。
決意と想いの澄声は、風に負けることなく、娘の耳に届いて鼓膜を震わせる。
花びらたちと共に、風に乗るように、彼女はふわりとウツシの腕の中に飛び込んだ。
夢か、
現
うつつ
か。
不思議と体の重さを感じず、自分も虚空を舞う花びらになったような気さえしたが、強く抱きしめてくれた愛する人の香りが、腕の力が、温もりが、これは紛れもない現実だと優しく教えてくれた。
「
————
ウツシ教官、わたし
……
わたしも
……
!!」
夢のように心地良い腕の中で顔を上げ、ウツシの金色の目を見つめながら娘が懸命に口を開いた刹那、再び吹き抜けた、花風。
先ほどよりも優しい風だが、娘の声はその中へとさらわれていく。
聞こえていないでしょう、とばかりに八の字に眉を下げ、もどかしく、切なげな様子で瞳にいっぱいの、長年募らせ続けた想いの雫を湛えながら、再び彼女が口を開こうとした刹那、ウツシが先に動いた。
娘を優しく抱きしめたまま、彼はぱくぱく動こうとする彼女の愛しい唇に、自分自身の唇を重ねる。
娘が
驚喜
きょうき
で小さく目を見開いた時、そこから天満月の輝きに光彩を放つ熱い一雫が、はらりと頬を伝った。
月の瞳を閉じたウツシに
倣
なら
い、彼女もゆっくりと目を閉じる。
重なった屈強な彼の唇は少しかさついて、けれどとても柔らかくて。
ただ重ねているだけなのに、体の芯から至福の喜びが
滾々
こんこん
と湧き上がり、この世に二人きりのような感覚となって、時が止まったように感じた。
『愛しています。誰よりも深く、ずっとずっと、あなたを
……
』
今、胸の奥で唱えればウツシに通じるような気がした娘は、何度も何度も想いの言葉を繰り返す。
ウツシは彼女を優しく抱きしめ続けながら、自らのありったけの想いを注ぎ込むような、静かでありながら情熱的な口付けを続ける。
『
————
愛してるよ、愛弟子
……
!』
ふわりと、また、今度はとても柔らかな花風が吹き流れ、里の
桜木
おうぼく
が穏やかに、意思あるもののように揺れ動く。
舞い上がった花びらは、ようやく通い合った深い想いを祝福するかのように、月光と共に、優しく二人を包み込んだ。
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