大賢なる木の花は

MHRウ教×ハ♀。両片想い、から……
微妙に本編ネタバレあり。

花占いの花と、里の桜のお話。



一陣の風となった娘は果敢に闘志を燃え上がらせ、愛用の得物を手に、大社跡を縦横無尽に駆け回った。

今日の依頼は、大社跡を通行する商人の行く手を阻む、複数等のモンスターの狩猟。

主に天狗獣 てんぐじゅうビシュテンゴと、その亜種の緋天狗獣 あけてんぐじゅうの複数頭の狩猟だった。
どちらの種も大変好奇心が旺盛なため、遭遇したものであれば興味を示し、執拗に追撃し、時に悪辣 あくらつなちょっかいを出す。
相手がハンターであったり、彼らよりも強大な相手ならば良いが、戦う力を持たない者にとって、それは出会いたくない脅威以外の何者でもないだろう。

里を苦しめた百竜夜行、その淵源を、大いなる災厄を、王国の悪魔と原初の騎士たる古龍を討ち祓った英雄『猛き炎』たる娘の敵ではないが、天狗獣と緋天狗獣の群れは、彼女の予想以上の数であった。

狩猟を終えたのは、大社跡の竹林の中。

気付けば周囲には夜闇が広がって、柔らかな月白 げっぱく寂光 じゃっこうが、竹の間から細々と射し込んでいる。

……最悪。結構、時間かかっちゃったな……

顔に浴びた天狗獣の生温い返り血を片手で ぬぐい、娘が深く息を吐いた。

返り血は顔と、腕に少々。
立ち回りが洗練された者であればあるほど、仕留めた獲物の血を浴びることはない。

彼女は竹林から空を仰ぎ、月の高さを確認しながら、手に持っていた得物を一度軽く振るって血を払い、その背中に収める。

このままメインキャンプまで戻り、テントで一夜を明かすのが定石 じょうせきだろうと、歴戦の強者 ツワモノとなった娘の冷静な思考は告げていたのだが、狩猟を終えた今の彼女は、猛烈に里の桜が恋しくなっていた。
桜と共に、想いを寄せ続ける師、ウツシのことも。

…………。遅くなるだろうけど、帰っちゃおうかな。着く頃には多分、里のみんなも教官も寝てるだろうし……

不意に『狩りの基本は食事と睡眠』と、今も昔も自分に教え続けてくれているウツシの声が思い出されて、娘が愛おしそうに目を細めた。

遅くなればなるほど、人目はないだろう。その方が花占いをするのに都合が良いように思えた娘は、たちまち少々そわそわした様子で大地を蹴り、疲労を感じさせない様子で駆け出した。

帰還した頃にはウツシの顔はもう見られず、彼の元気で温かな「おかえり」を聞くことができないであろうことは残念だが、今は自分の中で大きく育ち続けるばかりの、彼への密かな想いが成就するかどうか。一刻も早く、それを桜に尋ねたくてたまらない。

大社跡を訪れた時よりも疾く、翔蟲を操って鮮緑の風となった娘は、迷わずメインキャンプを素通りして愛する郷里へと帰還した。

@acadine