柚鈴
2024-05-10 18:09:41
9640文字
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でぃあぷろ夏イベ

夏霞デイドリーム


第6話 ⚓️「コバルトメモリーズ/ラスト」

 ──少女の両親は、殺された。
 惨殺、といっても過言ではないほどの殺され方だった。惨い殺され方だった。
 焼け爛れた肌──引きちぎれた手足──貫かれた心臓──濁った瞳──視界いっぱいの、赤、赤、赤。
 両親をそんな姿にしたのは──煌びやかな衣装を身に纏った、自分よりも歳上の少女達だった。

「精霊さんに、報告しないと!」

 そんな声だけが、彼女の脳の裏をあたためた。脳裏に焼きついた。
 精霊。
 精霊、精霊。
 それは──自分の知っている『精霊様』と、同じ存在なのだろうか?
『精霊様』の、せい?
 おとうさんとおかあさんは、『精霊様』のせいで、殺された?
 精霊、精霊、精霊────
……せい……れ、い」

◇◇◇

 少女の想いはまた、空っぽになってしまった。
 想いも想い出もなにもない。
 残っているのは、原初の記憶。
『両親がいなくなってしまった』ということだけ。
 真っ赤な情景は、それほどまでにショッキングで──幼い少女の過去を封印するには、じゅうぶんすぎた。
「ぱっ」
 と。
 効果音を口にした精霊によって、繋がれていた手が離される。
「も〜、こっちまで来ててびっくりしたんだからね? ちゃーんとそっちにいてよね!」
 ぷんぷん、とでも言いたげな精霊は、それだけ告げると、こちらに背を向ける。
 自由になった。
 もとい──ひとりになった。
…………
 少女──レーテは歩く。
 何も履いていない足の裏に、直接、地面の感触が伝わった。

「あら、どうしたの? こんなところに一人で……

 知らない女性の声が、レーテを引き止める。
 反射的に顔を上げれば、夫婦と思われる二人が顔を覗きこんでいた。
 下げられた眉と、やさしい目元。
 心配されているのが、幼いレーテにも、一目でわかった。
 ──あったかい。
 ぬくもりが、心に触れる。
 その一触だけで──レーテのなかで、何かが崩壊した。決壊した。
……おかあさんも、おとうさんも……いなく、なっちゃった……!」
 喉の奥からは嗚咽が、瞳の奥からは涙が、あふれてあふれて止まらなくなる。
 視界はびしょびしょに濡れて、憂いを帯びた表情が見えなくなって。
 声もぐしゃぐしゃに濡れて、しゃくりあげるのみで、言葉なんて紡げやしない。
 レーテは、泣いた。泣きじゃくった。
 幼子らしく。
「そうか、そうか……僕たちと、同じだね」
「そうね……あのね、お話聞いてくれる?」
 顔を見合わせた夫婦は、やさしくやさしく、ゆったりとした口調で、レーテに語りかける。
「私たちも、娘を殺…………娘が、いなくなっちゃったの」
 ぬくもりを宿した瞳が、やわらかく細められる。

「ねぇ……よかったら、私たちの家族にならない?」

 答えは抱擁をもって返された。
 何もかもを失った幼い少女が、絶望の次に知ったのは、ぬくもりで。
 その、ぬくもりに──どこか、両親とはちがう懐かしさを感じた気がした。