柚鈴
2024-05-10 18:09:41
9640文字
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でぃあぷろ夏イベ

夏霞デイドリーム


第5話 ❀「あの夏のいつかは/フル」

◇ミア・フィオリーレ

「お〜い」

 は、と。
 呼びかけられる声で、ミアの意識は浮上する。
 取り戻した視界に、夕焼けのオレンジが沁みる感覚──あれ?
…………?」
 さっきまで──何を、していたんだっけ。
 判然としないぼんやりした意識のなか、曖昧であやふやな記憶をどうにか手繰り寄せる。
 ……あぁ──そうだ。砂のお城が完成したから、海の家に行って、それで、ごはんを食べようと思ってたんだっけ?
 なんだか、白昼夢を見ていたような心地がする。
 不思議だ。不可思議だ。
「ねぇ、大丈夫?」
……あれ、精霊さん……?」
「うん、精霊さんだよ〜! アイドルのみんなで海水浴とは、グループ制度も大成功かな? かなっ?」
 いつの間に来たのだろう──いや、ついさっきか。彼女に呼びかけられて、意識を取り戻したのだから──意識を取り戻した?
 つまり、意識がなかった?
 ……どうして?
「にしても、焼きそば2パックなんて、いっぱい食べるね? おなか空いてるの?」
「え?」
 そう言われて咄嗟に両手を見れば、どちらの手にも焼きそばの詰まったパック。
……私、なんで2パックも買ったんだっけ」
「えぇ〜!? 無意識〜!? だったら精霊さんにちょーだいっ♪」
「う〜ん……そうだね。2パックも食べられないし、あげちゃう!」
「わ〜い♪」
「ところで、みんなは……
「あっち〜」
 早速パックを開封し焼きそばに食らいつく精霊が指してくれたほうを見やれば、四人が海の家の外のテーブルについていた。二人ずつでわかれている。ハレリ・フウカと、レイラ・シノといった感じで。
「にしても……もぐもぐ、ごっくん。ほんとに大丈夫? 精霊さんは、焼きそばゲットでうれしいけど……
……大丈夫! じゃあ、私もあっちに行くので!」
「はいは〜い」
 大丈夫かと言われれば、そうではないのかもしれない。
 なんだかふわふわで、もやもやで──釈然としないというか、腑に落ちないというか。
 そんな、上手く理解も納得もできない靄が存在しているのは、事実だ。
 けれど……不安そうな顔をしてたら、みんなを心配させてしまうから。
 せっかく、遊びに来たのである。わざわざ違和感を口に出す必要はないだろう。
 ただ──なにか、大事なものを置いてきてしまった、みたいな。
 そんな想いの残滓だけが、胸の表面にこびりついている気がした。
「あ、ミア」
「遅いですよ〜、ミアさん」
「何、してたの……?」
「精霊さんと話してました!」
「あら、いらっしゃってたんですね。……もう陽も沈みそうですけれど、どうしますか?」
「あ、私、やりたいことがあって!」
 レイラ達のほうの席に座り、机の上に焼きそばを置きながら、会話を交わす。
 訝しがられないようにニコニコと笑顔を見せることを意識しつつ、ミアは、持ってきていた鞄から、を取り出した。
「花火、しましょ!」

 夜闇を、極彩色の火花が彩る。
 ぼんやりと手元を照らすカラフルな火の粉は、まさに夏そのもので、ぱちぱちという音とともに心が浄化されていくような心地があった。
「あのさ……ミア」
「はい!」
 ふと、おそるおそる、といった様子で線香花火を慣れない手つきでつまんでいるレイラが、おずおずと声をかける。
「海……提案してくれて、ありがとね。楽しかった」
……!」
 目の前が、ぱあっと明るくなるような感覚──それこそ、勢いの強い手持ち花火みたいに。
 夕方に感じていた違和感が吹っ飛ぶぐらい、うれしくて──ミアは、心から笑いかけた。
「レイラさんがそう言ってくれるなら、提案してよかったです! また、来ましょうね! 絶対!」