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戸倉
2024-05-07 21:20:05
19130文字
Public
終わらない牧台シリーズ
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終わらない牧台③
【ともだちって、キスしてもいいんだっけ?編】
・現パロ W23歳 会社員× V23歳 売れない役者
・高校時代からのともだち
・4年前に失踪したVと再会して同居してる
・付き合ってない、付き合ってない
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時間も匂いも気にすることなく煙草を吸える休日。静寂に包まれた昼下がり、ウルフウッドは紫煙を燻らせささやかな幸せに浸っていた。ヴァッシュは昼前に美容院の予約を入れていると言って出かけていったので、今は自宅に一人。口には出さないものの、吸い過ぎだと顔にありありと書かれた男がいないので、ウルフウッドは今がチャンスとばかりに一箱開ける勢いで煙草を吸い続けていた。
思う存分肺の中を煙で満たし室内に戻る。ヴァッシュが帰宅する前に消臭しておけば問題ないだろうとソファに寝そべり怠惰を楽しんでいると、ふと目に飛び込んできたのは、リビングのホワイトボード
――
、ヴァッシュの欄に書かれた「夕食、外で食べます」の文字にウルフウッドは口の端を歪めた。
今週だけで三回目。外食が悪いとは言わないし、ウルフウッドとて会社の付き合いの飲み会には参加する。毎回一緒に夕食を食べる約束もしていない。だが、一週間に三回は多い。しかもおそらく三回とも同じ相手との約束だとウルフウッドには謎の確信があった。
嘘か本当かは定かではないが、例の撮影はスムーズに進んだとヴァッシュから聞いている。一度も台詞を噛むことはなく、何パターンか撮影をしただけでダメ出しはされなかったと。ゲスト出演で二話分だけの出番だったが、和気あいあいとチームに参加できたことを嬉しそうに話してくれた。ヴァッシュが仕事の話をしてくれるのはかなり珍しい。それだけ意義のある仕事だったのだと思うと、ウルフウッドは自分のことのように嬉しかった。
特に相手役の女性についてはベタ褒めで、ヴァッシュよりも二つ年下の彼女は、静と動のスイッチの切り替えが上手く学ぶところの多い役者だったと力説してくれた。
そう、おそらくヴァッシュが今週三回会っているのは彼女。一緒に暮らし始めて二か月経つが、ヴァッシュはこれといった趣味もなく、仕事がない日には家で無為な時間を過ごすことが多い。友達に誘われても、行ったり行かなかったり。かなり自由だ。そんなヴァッシュが毎回誘いを断らない相手というのはきっとそれなりに重要な相手
――
。あくまでも推測だが、ウルフウッドの勘は大抵当たる。好ましいことも、そうでないことも。
燻った気持ちで天井を見上げていると、インターホンが鳴った。ショートヘアが印象的な黒髪の女性が画面越しに真っすぐこちらを見つめている。見知らぬ顔。警戒心を滲ませて応答すると、鈴を鳴らすような芯の強い声が返ってきた。
「わたくし、ヴァッシュさんの所属事務所のマネージャーをしておりますメリル・ストライフと申します。ヴァッシュさんの忘れ物を届けに来たのですが
――
」
彼女に少し待つように告げ、ウルフウッドは急いで一階まで降りる。エントランス前で背筋を伸ばし凛とした佇まいで壁際に立つ彼女を見ただけで、ウルフウッドはヴァッシュに良い味方がいるのだと即座に理解した。
忘れ物だという書類を渡して早々に立ち去ろうとするメリルを引き止め、近くの公園で話せないかと頼み込む。役者としてのヴァッシュを知る人物と話ができる滅多とない機会。それを逃してはいけないという焦りが休日のウルフウッドのスイッチを瞬く間にオンにしてしまう。
「アイツの仕事の話、よかったら聞かせてくれへんか?」
「
……
普段おふたりでお仕事の話されないんですの?」
「基本的にワイがおる前で台本読みの練習もせぇへんし、役者としての仕事はほぼないからあんまりしたくないって言われとる。まぁ今度出るドラマの撮影は上手くいったようで安心しとんねんけど」
「そう、なんですの。この前撮影したドラマは来週放送予定ですわ。一緒にご覧になって感想でも伝えてあげたらいかがですか? 身近な方の率直な感想、嬉しいものですわよ」
「ワイはええねんけど、アイツがなぁ。最近よう夜出かけとるし」
「あら、ヴァッシュさんお家で過ごすの好きな方ですのに」
「ほー、そら初耳やな。せやったらウチに住み始めてから家で過ごすん居心地悪くなったんやろか
……
」
じわりと黒いものが胸に溜まったような感覚。ウルフウッドはポケットに忍ばせた煙草の箱をスウェットの上から握り締めた。
「あ、いえ、あの、貴方のお家にお引越しされてから
――
」
突然メリルは口ごもり、小さく咳払いをして姿勢を正す。視線がぶつかると、失言をしたかのように顔を背けた。
「
……
家で取る食事が美味しいし、料理を作るのも楽しいと
――
話してくださいましたわ」
「そうなんか。せやったらやっぱり誰かと付き合い始めたんか
……
?」
「えっ⁉ な、なんですのそのお話⁉ 聞いてませんわ! 誰と誰が⁉」
急に興奮したメリルが身を乗り出すのを、ウルフウッドは手でやんわりと制す。
「ただのワイの推測、ちうか勘やな。ワイよりアイツの交友関係のこと詳しいのは嬢ちゃんの方とちゃうか?」
「基本的にプライベートには介入しないようにしてます。ヴァッシュさんは売り出し中の身ですので、仕事が軌道に乗るまでは色恋沙汰はひっそりやってほしいんですけども
……
。あぁ、もしかすると、ドラマの現場でご一緒したあの女性と? いえ、想像で物事を推し量ってはいけませんわね。直接聞いてみましょうか」
「え、聞くんか?」
「えぇ。直接聞いた方が早いですわ」
「なんか分かったら教えてくれへんか?」
「個人情報ですし
……
」
「嬢ちゃんがこの情報なら喋っても平気やと判断したことだけでもええから、どんな小さなことでもええから! 誰にも喋らん。口は堅いで」
本人のいないところでその人の話をするのは正直言うと性に合わない。だが、どうしても気になる。なりふり構っていられない。ウルフウッドは自分の声に緊張が混じっていることに気づかなかった。
「ヴァッシュさんのことを心配されているのはよく分かりましたわ。まぁ、少しくらいなら」
心配というのは、誰かのことを想うが故に気がかりを抱えたりすること。これはそんなやさしいものといっていいのだろうか
――
。
妙にそわそわした気持ちを抱えながらメリルと連絡先を交換し、ウルフウッドは強力な味方をつけることに成功した。
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