夜明 奈央
2024-05-06 08:22:21
5825文字
Public お知らせ
 

DR2023新刊サンプル お砂糖をひとつ

※頒布終了済み
Web再録(一部加筆・修正、改題等あり)+書き下ろし10本のSSまとめ本
A6文庫/会場¥800/P.264(内書き下ろしP.55)
サンプルは書き下ろし部分から抜粋



最初で最後の


 中也が帰宅すると、駐車場に最近ではとんと見なくなった顔がいた。太宰だ。
 かつては嫌になる程顔を合わせていたし、再会後しばらくはお互いの組織の事情でなんだかんだと会っていた。けれどヨコハマが落ち着くとそれもめっきり減って、前回会ったのは数ヶ月は前だろう。もしかしたら年単位かもしれない。どれだけ期間が空こうが昨日会ったかのように喧嘩を繰り広げるのが恒例であるから、あまり実感はない。これが歳を取るということなのかもしれない。
 そんな太宰が、部屋に侵入するでもなく、呼びつけるでもなく、こんなところでただ中也を待っているだなんて、随分と似つかわしくなかった。そんな殊勝なところがあるなら、これまでにも発揮してほしい場面はいくらでもあった。
 まさか「中也を待っていた」以外の用件とも思えない。太宰がいるのは中也が契約している駐車スペースのきっかり目の前だ。この家を教えたことなどなかったが、この男に本気で隠し事ができるとは思っていない。だからこそ、その気になれば部屋に入れるだろうこいつが、こんなところで待っていることが不思議で堪らなかった。
 慌てるでもなくいつも通りに車を駐め、エンジンを切る。ドアを開けると、車内の暖かさとは対照的な冷たい空気が頬を撫でた。地下駐車場は風がない分外よりはマシだが、深夜ともなれば日中よりぐんと気温が下がる。特にこの季節は寒暖差が激しい。建物と車を行き来する僅かな時間なら我慢できる寒さだが、こんなところで長話は御免被りたかった。
 太宰は、一体いつからこんなところで待っていたのか。あまり暑さや寒さをこちらに感じさせない奴だったが、そう見えないだけで本当は暑さも寒さもしっかり感じているのだと知っている。昔はこういう時、手を握って温めてやっていたから。そんな近い距離にいたのは、もう何年前のことになるだろうか。もう手を伸ばすことさえできない。
 相棒として毎日のように顔を合わせ、プライベートでもしょっちゅうお互いの家を行き来していた頃が、最早懐かしい。
「何の用だよ」
「結婚するって聞いて」
「だから?」
「御祝儀持ってきた」
 駐車場の壁に背を預けて座っていた太宰は、立ち上がって雑に土埃を払った。感情の読めない顔をしている。意図が読めずに、ただ太宰の動きを待った。相棒だった頃だって、太宰の考えが全てわかっていたわけではない。それでも、今よりはずっと理解できていたと思う。
 結婚するのは事実だった。相手はポートマフィアが懇意にしている取引先の令嬢で、挙式は一週間後に迫っている。
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