夜明 奈央
2024-05-06 08:22:21
5825文字
Public お知らせ
 

DR2023新刊サンプル お砂糖をひとつ

※頒布終了済み
Web再録(一部加筆・修正、改題等あり)+書き下ろし10本のSSまとめ本
A6文庫/会場¥800/P.264(内書き下ろしP.55)
サンプルは書き下ろし部分から抜粋



深夜の公園で


 セックスをした後は、中也とあまり顔を合わせていたくない。そのまま一緒にいると距離感がバグってしまって、相棒以上の何かになったような錯覚を起こしてしまうから。それは中也だって同じようで、なるべく視線を合わさず、会話もせず、そそくさと部屋を出るのが常だった。
 セックスをしてしまったのが、そもそもの間違いだったのだろうとは思う。思ったところで、してしまったものは今更どうにもできない。する前の関係には戻れないし、かといって相棒以上の何かにもなれない。なりたくない、が正しいかもしれない。後にも先にも進まずに、ずっと同じ場所で足踏みを続けている。
 四年振りに再会してからも、ずっと。

 中也が部屋を出て、扉が完全に閉まったのを確認してから、動き始めた。おそらくシャワーを浴びに行ったのだろう。寝台の下に散らばった服を拾い集める。中也が戻って来ないうちにそそくさと身支度を整え、部屋を出た。
 外に出ると、真冬の夜の冷たく澄んだ空気が頬に突き刺さる。深夜に出歩くのが厳しい季節になってきた。マフラーで鼻まで覆い、ポケットに手を入れて歩を進める。行き先は、いつもの公園だ。
 中也の家から自宅までは、歩いて帰るのは少しばかり遠慮願いたい距離だ。昔は徒歩圏内に住んでいたし、深夜だろうと電話一本で呼び出せる部下がいた。それら全てがなくなっても、中也との間の暗黙のルールを変えることはできなくて、あの頃と同じように、中也の部屋を後にする。
 この関係を始めた頃は、まだ夏だった。だから公園で時間を潰すのだって、大して困らなかった。深夜になっても気温はあまり下がらなかったけれど、日差しがないだけでも随分と過ごしやすい。だから別にいいか、と深く考えずにそこで夜を明かした。昂った身体を冷ますにも、ちょうど良かった。
 季節が巡るのは、なんと早いものだろうか。時刻を確認すると、まだ始発が動き始めるまでには四時間近くある。流しのタクシーが脇を通り抜けていって、少しだけ誘惑に駆られる。冬の間ぐらいは、贅沢しても許されるだろうか。けれど一回のタクシー代を考えると、そう何度も使えるものではない。あの頃とは違って安月給なのだ。タクシーが見えなくなるまで見送って、結局いつも通り公園へと足を向けた。
 ブランコに座って、ぼんやりと空を見上げる。ブランコの鎖は氷のように冷たくて、握る手からはすぐに感覚がなくなった。明るくてほとんど星の見えないヨコハマの街でも、月だけは綺麗に輝いている。
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