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夜明 奈央
2024-05-06 08:22:21
5825文字
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お知らせ
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DR2023新刊サンプル お砂糖をひとつ
※頒布終了済み
Web再録(一部加筆・修正、改題等あり)+書き下ろし10本のSSまとめ本
A6文庫/会場¥800/P.264(内書き下ろしP.55)
サンプルは書き下ろし部分から抜粋
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猫を飼い始めた
「最近随分早く帰ってるみたいっすけど、どうしたんすか?」
ちょっとした雑談の流れだった。たった今立原が持ってきた仕事は、本当は昨日渡すつもりで持ってきたものだったらしい。それ程遅くない時間であったのに俺がもう帰宅済みで諦めたのだと言う。それで、どこかから俺がここのところ早く帰るようになったという話を聞きつけたようだった。
立原は「もしかして女っすか?」と歯に衣着せぬ物言いで続けた。
「そういうの、あんま他の奴には言わねぇ方がいいぜ?」
「大丈夫っすよ。ちゃんと言う相手は選んでますから」
からりと笑う姿はいっそ潔い。少しばかり口を滑らせただけで最終的に処刑された輩を多数見てきた。そこまでするつもりはないが、俺にとってもこれはあまり突っ込んでほしくない話題だ。無視したり否定したりしても良かったが、目の前でにこにこと期待する視線を向けてくる立原がそう簡単に引き下がってくれるとは思えない。「話題にするな」とでも告げて「幹部命令だ」と付け足せば引き下がるだろうが、そうすればこいつの中では俺に女ができたというのは確定だろう。
原因となった男を脳裏に描く。気まぐれで、俺が構おうとすると嫌がる癖に自分が構ってほしい時には俺の都合なんてちっとも聞きやしない自分勝手な男だ。勝手に出ていって、許可した覚えもないのにまた俺の下に戻ってきた。腹立たしいが、それ以上に戻ってきたことに安堵した。今度こそ逃すまいと心に誓っている。悔しいから、絶対に本人に言うつもりはない。
女ができたと思われても、大きく不都合はない。けれどどこからともなく情報を仕入れてくるあの男の耳に下手な噂が流れ込むのも不本意だった。
「あー、その、なんつーか、猫、飼い始めて」
「猫? え、名前は? 写真とかないんすか?」
適当に誤魔化すつもりで口にした言い訳に、立原は想像の数倍興味を示した。たぶん俺が「女ができた」と言ってもここまで食いついてくることはなかっただろう。精々「そうなんすか」程度の反応だったはずだ。
「名前はつけてねぇ。写真も撮ってねぇし、っつーかあったとしても見せねぇよ」
「えぇ! なんでっすか!? 猫飼いって自分の猫自慢したいものじゃないんすか!?」
あいつもこいつも、写真見せてって言ったらこっちがうんざりするぐらい見せつけてきますよ! と続けられた名前は、確かにマフィア内で猫飼いとして有名な奴らだった。
猫、と表現したのは失敗だったかもしれない。
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