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夜明 奈央
2024-05-05 13:55:38
10159文字
Public
中太小説
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クリスマスカウントダウン
付き合ってる(っぽい)中太がそうなって初めて迎えるクリスマスまでの約1ヶ月のお話
2022年12月1日〜25日の間にTwitterで連載していたアドベントカレンダー企画
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12/24 自宅
太宰が探偵社でのクリスマスパーティーを終えて中也の部屋を訪れると、そこには探偵社に負けず劣らずの〝クリスマス〟が広がっていた。
暖房で十分に温められた部屋には控えめにジャズ調のクリスマスソングが流れ、間接照明とキャンドルで幻想的に照らし出されている。絞られた光源でははっきりと視認できないがダイニングテーブルには所狭しと皿が載せられ、隅ではクリスマスツリーが星の瞬きのように輝いている。息を吸い込めば食欲を唆るバターの香りが鼻腔をくすぐった。
まさかここまでとは。
中也のことだから、きっと気合を入れて準備するだろうとは予想していたが、予想以上だった。扉を開けて固まってしまっていると、まだ準備の途中だったのだろう中也が台所から顔を出した。
「おかえり」
「た、だいま」
穏やかに微笑む中也がなんだかいつもよりかっこよく見えて、どきりとした。それを「雰囲気の所為だ」と言い聞かせて、努めていつも通りを装った。
「気合入りすぎじゃない?」
「手前が気分盛り上げろっつったんだろ」
「そうだけど、やりすぎでしょ」
「あー、はいはい。そうかよ」
中也がぞんざいに壁に近づき、すぐに照明がパッと部屋を照らし出した。これで少しはましになるだろう。だが照明によって露わになったものを見て、太宰はもう1度同じ台詞を口にすることとなった。
「
……
気合、入りすぎじゃない?」
「普通のチキンだと探偵社と被んだろ」
中也も多少やり過ぎたという自覚はあるのかもしれない。罰が悪そうに目を逸らす。
太宰の視線の先。テーブルには、七面鳥が1羽載っていた。
「ここまでしなくても、探偵社はコンビニチキンだったよ」
中也の考えがなんとなく読めてしまって笑いが込み上げる。大方クリスマスにチキンは外せないが、2食連続は申し訳ないとでも思ったのだろう。言ってくれれば、そのくらい教えたのに。だが結局メニューを中也に丸投げしたのは自分なので、これは自分の所為でもある。
逆にいえば、そんなの気にせずに中也が好きな物を作れば良かったのにとは思うが、太宰が少しでも多く食べるように色々と工夫をするのはいつものことだ。
テーブルに目をやると、七面鳥の他にも様々な品が並んでいる。ビーフシチューに何かのワイン煮込み、パスタ、これでもかと蟹が載った海鮮サラダ。クラッカーには手作りらしいソースが添えられている。流石にピザは買ってきたようだが、他は全て手作りのようだった。
一体いつから用意していたのか。
「これ、2人で食べる量じゃないでしょ」
「明日もクリスマスなんだから余ったら明日食えばいいだろ」
「えー、そういうとこ雑だよね君」
文句を言えば不貞腐れたようにそっぽを向く。だが太宰が本気で言っていないことは伝わっているのだろう。すぐに立ち直って「いいから食おうぜ」と促した。
「一応シャンパンとワイン両方用意してっけど」
「じゃあとりあえず乾杯はシャンパンで」
中也の用意した食事は大層美味しかった。普段の料理にだって十分満足しているが、今日のは格別。聞いても教えてはくれなかったが、きっと遅くとも3時には作り始めていただろう。いくら中也が手際がいいと言ってもあのワイン煮込みの牛肉の柔らかさは1時間やそこらで出せるレベルではない。
ただどんなに美味しくても食べられる量には限界がある。結局半分近くは明日へ回すことへなりそうだった。
食事も落ち着き、2人、程よく酔っていた。会話が途切れたのでゆるりと目許を緩めてじっと見つめる。中也が立ち上がって手を伸ばす。頬に指先が触れたのを感じて目を閉じると、唇がそうっと落とされた。すぐに離れて、じっと熱い視線が注がれるので目を開ける。
「なあ、クリスマスプレゼントがあるんだ」
ぱちり。瞬きをひとつ。てっきりそろそろ寝室へ誘われるのかと思っていたが、違うのか。
正解なんてものがあるのかどうかは知らないが、まさかこのタイミングでプレゼントとは。
中也はそそくさと部屋の隅に行き、鞄から小さな紙袋を持って戻ってきた。
「ありがとう」
素直に礼を言って受け取って、渡された紙袋を観察する。中には箱が入っている。手のひらよりは少し大きくて、それなりに重量もある。顔を上げると目線で開けるように示される。
箱を取り出し、ゆっくりと包装紙を剥がすと、中には携帯電話の写真が印字された箱。
「手前、何遍聞いても連絡先教えねぇから。手前の事情もわかるけど、連絡手段ぐらい寄越せよ」
太宰が何かを言うより先に、中也の緊張した声が降ってきた。
もし何かあった時に、現マフィア幹部と繋がっている証拠なんて残っていた日には何を疑われるかわかりやしない。それはもちろん、裏切り者と繋がっている中也だって同じだ。
太宰はしょっちゅうこの家に訪れるが、その度に尾行や監視カメラに逐一注意を払っているし、何度訪れようと私物の類を置いていったことは1度もない。
探偵社でもマフィアでも、今は見て見ぬ振りをされてはいるが、いつ事情が変わるかわからない。いつか突然終わるかもしれない。これはそういう綱渡りの関係だ。
それを忘れないための戒めのつもりだった。
「じゃなきゃ『会いたい』の一言だって伝えられねぇじゃねぇか」
ぽつりと落とされたのはきっと、紛れもなく中也の本音だった。
「会いたい時、あるの?」
「あるだろ、そりゃ」
じわじわと心の奥に何かが忍び寄ってくるのを感じる。それがぎゅうっと胸を柔らかく締め付ける。抱えきれなくて俯くと、中也の手が伸びてきて、顔を胸に押し当てられた。
「恋人なんだろ?」
中也の心臓が普段のほとんど倍の速度で走っている。絶対これはお酒の所為なんかではない。顔を見られないようにしたかったんだろうけれど、これでは逆効果じゃないだろうか。
そう思ったけれど、太宰だって顔は見られたくなかったし、自分の体内で鳴り響く心臓には気づかない振りをしたかったので、ただ頷いてその背に手を回した。
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