夜明 奈央
2024-05-05 13:55:38
10159文字
Public 中太小説
 

クリスマスカウントダウン

付き合ってる(っぽい)中太がそうなって初めて迎えるクリスマスまでの約1ヶ月のお話
2022年12月1日〜25日の間にTwitterで連載していたアドベントカレンダー企画


12/12 自宅

 太宰がいつも通り気まぐれに中也の家を訪れた時、本人は不在だった。真っ暗でしんと冷え切った部屋に灯りを入れると、見慣れない物が目に飛び込んできた。
 赤と金で煩く主張するそれは、見慣れない上にキザな中也がモノトーンで統一したこの部屋にも似つかわしくない。こういったものはすぐに捨ててしまう中也が珍しい。不審に思っていると、聞き慣れた足音が近づいてきて、すぐに玄関の扉が開いた。
「おかえり」
「おう」
 もう突っ込まれることもなくなった挨拶を交わす。中也はテキパキと暖房のスイッチを入れ、外套を脱いでラフな格好になる。「手前、飯は?」と短く尋ねられてまだだと答えると、すぐに台所へと消えていく。それを見送って、後でいいかと思い直し、太宰も自分のマフラーを外してスツールに引っ掛けた。
 
 〝それ〟が話題に上ったのは、2人で向かい合って食事を始めて、すぐのことだった。
「クリスマス、ケーキとチキンどうする? それかどっか行くか?」
 〝それ〟とは、近隣のデパートやケーキ屋からもらってきたチラシだった。よくぞまあこんなに集めた物だと言いたくなるような数のチラシを太宰の方に押しやってくる。
 それにちらりとだけ目線をやって、質問の答えを考える。けれど興味がないので意識はすぐに食事の方へ向かってしまう。
「ケーキはいらないかなぁ……どうせ君食べないでしょ? チキンも、別に……どっちでも?」
「じゃあなんか他に食いたい物あるか?」
「うーん」
 中也が苦心してくれているのは伝わって、考えを巡らせる。「なんでもいいがいちばん困るんだよ」と口癖のように言っているので思いつく限りの料理を脳内であげていく。たぶん、今なら何を言っても大抵のリクエストは聞いてくれるのだろうが、食べたい物など思い浮かばない。
「そもそも、クリスマスって普通なにするの?」
「今まで何してたんだよ?」
 逆に問いかけられて困る。自分が真っ当なクリスマスを送っていないことぐらいはわかるのだ。
……街で寂しそうにしてる美人に声掛けてお持ち帰りかな」
「手前クリスマスなんだと思ってんの?」
「ナンパの成功率が1年で最も高い日」
「最低だな」
 案の定馬鹿にされた。こっちが質問しているのに、結局正解は教えてくれないらしい。罰の悪い気持ちで味噌汁を啜ろうとして、危うく舌の先を火傷しそうになった。誤魔化すようにふーふーと息を吹きかける。
「イエス・キリストの生誕祭だとか、良い子にはサンタクロースがプレゼントくれるとか、そんなのはもちろん知ってるよ」
「まあそうだな」
「あと1年で最もセックスするカップルが多い日」
 中也が何の気負いもなく味噌汁を啜ったのに少しだけ腹が立って、ぼそりと付け加えた。狙い通りにごほごほと咽せているのを見てざまあみろと思う。
「しないの?」
……そんときの気分だろ」
 ある程度収まったのを見計らって、下から覗き込むと、さっと視線を逸らされた。まあ、たぶんすることになるんだろうなとは思う。だが、よく考えたら予めこんなことを予告するなんてなかなかない。今更中也相手に照れ臭いなんて思う時がくるとは思っていなくて、自分で話題にしたくせになんだか落ち着かない気分になってしまった。
「じゃあさ、気分盛り上げるためにツリー買おうよ。ツリー!」
「なんでだよ」
「だってこの家ツリーないでしょ」
「ねぇけど」
「ツリーがあればさ、いつものごはんと同じでもクリスマスっぽくなると思わない?」
 実際のところ、クリスマスに何をするかなんてこだわりはない。イベントに興味はないし、今までだってそれっぽいことをした記憶はあまりない。なんとなく1人で過ごすのは寂しいような気がするし、どうせ誰かと過ごすなら、相手は中也がいいなと思う。ただ、それだけ。
……あんまでかいのはやめろよ」
 あまり納得はいっていないようだが、今日のところは折れてくれるらしい。太宰がクリスマスメニューを丸投げしたことは、きっとバレている。
「えー、どうしようかなー」
 ふふふと笑うと中也は嫌そうに顔を顰めたが、それがただのポーズだということはわかってしまった。

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