夜明 奈央
2024-05-05 13:55:38
10159文字
Public 中太小説
 

クリスマスカウントダウン

付き合ってる(っぽい)中太がそうなって初めて迎えるクリスマスまでの約1ヶ月のお話
2022年12月1日〜25日の間にTwitterで連載していたアドベントカレンダー企画


12/7 駅前

 駅前には煌びやかなイルミネーション。街中の装飾は赤を基調としたものに変貌して、店内に目をやればお洒落な筆記体で書かれた「Merry Christmas」のポップが踊る。
 クリスマスの時期がやってきた。と、いうにはまだ少し早いけれど、商売人たちの頭の中はもうクリスマス一色のようであった。実際にはおせちや年賀状の予約受付なんて文字も見え隠れするので、一色ではないのだが。
 クリスマス
 どうするべきか、と、隣を歩く長身の男を見やる。すぐに目が合って視線だけで用件を尋ねられる。そう簡単に聞けるなら、苦労はしないのだが。そうでないのが困る。聞けないまま、なんでもないという風に首を振った。
 4年振りに再会して、気づけばセックスする仲になっていた。たぶん、付き合っているのだとは思うが、いまいち自信がない。始まりは曖昧で、当然「俺たち恋人だよな?」なんて小っ恥ずかしい確認をしたことだってない。
 でもそんなこと以上に、気になることはたくさんある。例えばずっと今の連絡先を教えてもらえないままだとか、事前に会う約束をしたことがないだとか、何週間も音沙汰がなくても、何をしているか聞けないことだとか。
 もう1度太宰の横顔を窺うと、今度は「なあに?」とはっきり声に出された。誤魔化そうとしたところで「クリスマスケーキ予約受付中!」の文字が目に飛び込んでくる。
 予約、いるよなぁ。
 存外甘い物を好む恋人(仮)のことを考える。一緒に過ごすだけならともかく、何かそれっぽいことをしようとすればどうしても事前準備が必要になる。だが今まで1度だって「次にいつ来る」だとか「この日は空けておいて」だなんて約束をしたことはない。かといって約束もないのに2人分のクリスマスディナーを用意して、結果1人で過ごすなんて言う事態はごめん被りたい。
 悶々と悩む中也の葛藤など当の本人は露知らず。視線の先を追って、不思議そうに首を傾げた。
「君、甘い物苦手じゃなかった?」
 こいつ本当はわかって言っているんじゃないだろうか。そんなことを思いながら、半分やけくそで切り出した。
「手前さぁ、クリスマス、どうすんの?」
「どうって?」
「うち、来んの?」
「それはデートのお誘いってこと?」
「いや、誘ってはねぇけど」
「じゃあなに」
 太宰の声がワントーン下がった。どうやら機嫌を損ねたらしい。これで機嫌を損ねるということは、多少なりとも期待しても良いのだろうか。
「ケーキとかチキンとか、頼むなら予約しといた方がいいし、どっか行くにしても予約いるだろ。ディナーはこの時期じゃもう良いとこ取れねぇかもだけど」
「それ、お誘いじゃなくてなんなの?」
「来るならなんか準備するけど、って、いう……
 だんだん自信がなくなってきて、尻すぼみになってしまう。来ないかもしれない、とは思っていたけれど、改めてそれを言葉にすると居た堪れなかった。
 気を抜けば足が止まってしまいそうだ。
「あっそ。じゃあ特に決めてなかったし、探偵社の飲み会にでも参加しようかな」
「なんかあんの?」
「独り身ばっかりだからね。毎年相手のいないメンバーで集まって朝まで飲み会」
「へえ」
 自分と似たようなものか、と思う。去年までは同じような部下を誘って飲み会を開催していた。今年は太宰と過ごすのなら、きっと誘ってくれるだろう部下にお断りをしないといけないな、と考えていた。太宰がそうなら今年もそれでもいいかもしれない。あれはあれで好きなのだ。
「あーあ、今年は一抜けできると思ってたのになぁ」
 わざとらしく残念がり、ちらりとこちらに流し目を寄越す。太宰の意図を理解して、ため息を吐きたい気分になった。
「じゃあ俺が抜けさせてやるよ」
「最初から素直にそう言えばいいのに」
 拗ねたような口ぶりだが、太宰の頬は緩んでいた。普段なら喜んでいても中也に悟らせないよう必死になって隠すくせに、今日は諦めたらしい。くすくすと楽しそうな笑い声まで漏れ聞こえる。
「いいよ、お誘い、受けてあげる」
 無邪気な微笑みが輝いていた。
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