夜明 奈央
2024-05-05 13:55:38
10159文字
Public 中太小説
 

クリスマスカウントダウン

付き合ってる(っぽい)中太がそうなって初めて迎えるクリスマスまでの約1ヶ月のお話
2022年12月1日〜25日の間にTwitterで連載していたアドベントカレンダー企画


12/19 本部

 中也が喫煙室に入ると、見知った面々が同じように休憩をしていた。挨拶を交わしながら煙草を1本咥えると、隣の男がすかさず火を差し出す。煙を深く吸って吐き出すと、それを待ち構えていたように向かいから声が掛かった。
「中也さんも恒例のクリスマス呑み、来ますよね?」
「あー、悪い。今年はパス」
 中也が答えると同時にその場にどよめきが走った。そして、衝撃が落ち着いたのと同時に、今度は隣同士「お前が聞け」と目配せが始まる。
 だがいくらそれなりに親しくしているとはいえ仮にもマフィア。弱みにもなり得る幹部のプライベートについて突っ込んで聞ける者などその場には誰ひとりとしていなかった。結局中也は気まずい思いを抱えながら、ほとんど吸ってもいない煙草の火を消し、喫煙室を後にすることになった。
 1人になると同時に深いため息が溢れ落ちる。いつか聞かれるだろうとは思っていたが、まさかあんなにも大勢の前でとは。遅かれ早かれ噂が広がるのは止められないだろうとは思っていたが、これは予想していた以上に早いかもしれない。
 
 と、覚悟を決めたつもりではあったのだが。
「聞いたよ。今年のクリスマスは太宰くんと過ごすんだって?」
 広津がちょっとお茶でもと休憩を促し、そう切り出したのはあれから1時間も経っていない頃だった。あまりにも早い。じろりと睨みつけると、わざとらしく戯けて肩を竦めて見せた。
「毎年参加している呑み会を断ったと聞いたよ」
「誰から」
 名前が上がったのは、あの場にいた2人だった。そりゃあ早いに決まっている。もう少し体裁に気を配れと思わなくはないのだが。
「誰かと過ごすとは言ってねぇけど」
 どうせ悪あがきだとわかっているが、一応肯定はしないでおく。
 出された茶で口の中を湿らす。適温で淹れられたそれなりにいい値段のお茶は普段なら甘くすっきりと喉を潤すのだが、今日は苦味ばかりが口に残る。
 広津は自分の分の茶をゆっくりとひと口飲み込むと、ほうとひとつ息を吐く。
「いやあ、感慨深いものだね。あの喧嘩ばかりだった2人がこんなに丸くなるなんて」
「年寄りくさいこと言ってんじゃねぇよ」
「はっはっは。君らからすれば十分年寄りだよ」
 落ち着いた笑みを浮かべる広津にはもう何を言っても無駄な気がする。昔からこの件では散々揶揄われているのだ。「上手くいっているみたいで何よりだよ」と続けられ、てっきりこの話は終わるのかと思っていたのだが。
「それで、プレゼントはもう用意してあるのかね?」
 ぐさりと目下の悩みを真正面から言い当てられた。反応ですぐに答えが分かったのだろう。先程までの楽しそうな響きが鳴りをひそめた。
「そろそろ間に合わなくなるのでは?」
 中也自身そろそろまずいだろうとわかっている。だから何も答えられなかった。
 それでも踏み切れずにいるのは自信がないからだということも、自信がないのははっきり言葉にすることをずっと避けてきたからだということも。
 広津は中也の様子を見て、それからごくりと茶を飲み下した。
「これはひとつ、年寄りからのアドバイスと思って聞き流してもらっても良いのだが」
 そこで言葉を切った広津が気になって視線をやる。広津は孫を慈しむような笑みを浮かべ、それからゆっくりと言葉の意味を噛み砕くように言った。
「言葉にしなくても伝わることは確かにあるがね。言葉にしないと伝わらないことも確かにある」
「そんなこと、わかってる」
 わかっていたって、そう簡単にできないことだってあるのだ。ずっと見ていた広津ならわかるだろう。
 そんな気持ちが見抜かれていたのか、続いた言葉は鋭い刃のようだった。
「本当かね?」
 切っ先を首筋に押し当てられているかのような威圧感は、流石歴戦の猛者とでも言うべきか。立場はとうに中也の方が上であるし、実際に戦ったとて、100回戦って100回勝つ自信はある。だというのに。
「我々のような仕事は、いつ言葉にできなくなるかわからないと、ちゃんと理解しているかな?」
 広津は残った茶を一息で飲み干し、席を立った。反射で警戒態勢に入ったが、中也の手の中でほとんど飲まれずに冷え始めている茶を回収にきただけだった。いつもの好々爺然とした笑みで「淹れ直しますか?」と丁寧に問いかけてくる広津からは先程までの威圧感はない。それでもこれ以上対峙する気にはとてもなれなくて、丁重にお断りした。
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