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糸冬いずく
2024-05-04 01:43:02
56529文字
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二次創作:冠は余らない
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冠は余らない
完結、花宮真、黒子のバスケ、Another
夜見山北中学出身の花宮真が誠凛高校バスケ部に入った話。「もうひとりなら殺してた」
ヒトないしヒトのようなものが死にます。
クロスオーバーです。複数の作品の世界観を融合しました。
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卒業式
目を開けた。布団を脱いだ。朝日が部屋に差し込んでいた。食卓にはいつもの朝食が並んでいた。家族が外を見て喜んでいた。黒子は決まりきって両手を合わせ、何ともなしに顔を上げた。両目に写真が飛び込んできた。黒子は言葉も食事ものみ込んだ。家族も何も言わなかった。だって、あれは親戚が集まった時の写真で、今日は先輩の卒業式だ。
黒子は家を出る前に携帯端末を拾い上げ、荷物に含めた。直後、振動を感じたけれど、そのまま靴を履いて、家を出た。少し道路を歩いただけで卒業生に遭遇した。
「花宮先輩」
朝がかぶることも、よくあった。
「おまえ、いるならいるって言え」
この一、二週間は行きも帰りもご無沙汰だったが。
「
もうひとり
なら殺してましたか」
よりにもよって今朝かぶるなんて。
「ふうん」
卒業生が歩みを緩めた。
「今吉さんと電話でもした?」
黒子は無言で横に並んだ。
「聞かされたな。三年三組のミサキの話」
黒子はまだ覚えていた。
「先輩とはまるで真逆の人だったと」
今吉が話していた。ミサキはなんでもできて人気者だった。比べると花宮は不気味で根暗で陰気で、どこにいても独りで、そして、
「
いないもの
だったんですね」
ミサキを失った三年三組は、ミサキに挨拶をして、名前を呼んで、話しかけ、話しかけられた。ミサキを
いるもの
として扱った。現象で増えるもうひとり
——
死者
——
はいわば彼らの一年の具現化である。だからある年の「いないもの」は挨拶をされない、名前を呼ばれない、話しかけられない、話しかけない。
「いいもんだぜ。遅刻しても早退しても、登校しなくても皆勤賞。模試は免除、行事も免除、むしろいなければいないほうがいい。無視されることはストレスだが、無視することもストレスだ。失敗した年の半分は、いないものの扱いに失敗してる」
しかし花宮の年は成功した。今吉の言うには、そういう人選だったらしいが。本人の性格、校内での立ち位置、家庭の状況。友人が多い人間は向いていない。急な単独行動が不自然に映るから。部活のエースも向いていない。単純にチームが困るから。学年一位も向いていない。かといって最下位には教員の支援が欠かせない。校内には兄弟がいるべきではない。家族が熱心だと都合が悪い。消去法だ。
——
ワシの知っとる花宮は勉強も運動も平凡な成績やった。
「先輩が
二号を嫌っている
のも三年三組が理由ですか」
「おまえが考えてるのとはたぶん違うぞ」
花宮は黒子を見ずに答えた。
「三組に転校生が来た年がある。なんでって思うだろ。学校としても入れたかなかったろうが、三組にだけ入れない判断もできなかったって話だ。
——
まあ問題が起きた。ある年かない年かわからなかった。いないものの説明ができなかった」
「『誰それがいないものの役を担っている』と説明することで、その人をいるものとして扱ったことになりうる
——
?」
結局、当時の三組は転校生に事情の一切を伝えなかった。うまくいけば、いないもののことは幽霊だとして通してしまえる。が、諸事情により転校生は幽霊でないことを確信しており、折に触れて話しかけ、名前を呼んだ。その月のうちに生徒が死んだ。実は転校生のせいではなかったのだけれど、それはまた別の話。いろいろ特別な年だったのだ。
「だから、途中で部員の数が増えるから」
「そういう苦手意識は俺の中にもあったらしい」
黒子は花宮の顔を見た。
——
ある年の三年三組は、新学期の朝、教室の席が足りないらしいで。
今吉の声が脳裏によみがえる。
「おまえマジで全部聞かされたんだな。悪趣味。からかわれてるって思わなかった?」
黒子は口をつぐんだ。
「俺はべつに平気だぜ。元からこういう性格だし、俺らの年はうまくいった。先輩みたいに目の前で死なれたこともない。何よりここは夜見山じゃない」
三年三組の経験則。たとえ三組の関係者だとしても、夜見山の外にいれば現象では死なない。
「だからこそ恐ろしくはありませんか」
ところで、黒子が入部してすぐのゴールデンウィーク明け、降旗が練習に来なかった。後から忌引きだったと聞いた。冬の大会が始まる前には学校の前で交通事故が起きた。部員のクラスメイトだった。大会が終わったら病気がちだったクラスメイトが亡くなった。
——
祖父母は二月に亡くなった。子供と孫に会いに来る途中で。
「コガの家は四月だったな。六月の水戸部も忌引きだった。七月は土田、八月は相田、九月は日向。十一月にまた水戸部。伊月の家も年明けだったっけ」
三月には木吉の祖父が亡くなった。黒子は胸中で付け足して、
「今年も毎月、誠凛の
関係者
が亡くなっています」
「忘れちゃいねーよ。秋には降旗の友達が死んでる。覚えてる。
——
だが、偶然だよ」
花宮も黒子を見た。僅かだけ。
「夜見北というか夜見山って土地が、そもそもよくないんじゃねえかって説がある」
「
黄泉
だから、ですか」
「そういうこと。誠凛はそんな場所じゃないだろ」
「でも
——
」
黒子は反射的に口を開いたが、続く言葉は失われていた。
「俺らは木吉を
いるもの
として扱ったことはない」
バスケ部の部室には一つ、不自然に使われていないロッカーがある。先輩のロッカーの並びに一つ。一年の夏、青峰に負けた直後だったか、誰かが気づいて教えてもらった。誠凛高校バスケ部を創った人間、木吉鉄平のことをである。
一年前、一年生だけの学校でバスケ部を創るために奔走したこと、日向の勧誘に多少の時間をかけたこと、屋上で全国進出を宣誓したこと、花宮が木吉に誘われたこと、最後に土田が入ったこと。夏の予選の快進撃。木吉が膝を壊して、そして、子供を助けて溺死した。
戦線離脱を余儀なくされた木吉は、入院したり通院したりと膝の回復に専念していた。亡くなったときも、病院の帰りだったらしい。その日は夏特有の豪雨だった。
——
足を滑らせて川に引き込まれた。死を覚悟した。だが、誰かに助けてもらった。それが、その子供の証言だ。
黒子はまだ覚えていた。
先輩方はいつも、いつでも、このチームでのプレーが最後である可能性を覚悟していた。三年生の有無は関係ない。知っていたのだ。経験していたのだ。木吉と二度とプレーできなくなった、あの夏に。いつも、いつでも、優勝してもできなくても先輩方は悔やんでいた。どうして忘れていたのだろう。黒子も立ったコートの上に、いつも木吉はいなかった。木吉はもう生きていない。だって木吉は亡くなっている。
「いいか黒子、今吉さんの話は忘れろ。あれは人の混乱を楽しんでるだけだ。写真を見てみろ。部室にあるだろ、ウィンターカップで優勝したときの、十三人と一匹で写ったやつが
——
」
黒子はまだ覚えていた。
木吉の顔を覚えていた。はっきり思い出すことができた。先輩方が写真を見せてくれたのだ。創部当時の集合写真を。そこには、まだ黒子と出会う前の、一年生だった頃の先輩方が写っていた。その中でひとりだけ、わからなかった。後で思い出したんだっけ。中学バスケの有名選手、無冠の四将、鉄心の木吉。
いつしか地面の水たまりを数えていた。
謝らないと。思考することができたときには、学校に着いていた。
「またな、黒子」
花宮が涼しい顔で黒子を見る。校舎に背を向け、足元に水たまりが見えて、あたりまえに桜の木は薄ら寒い。
「ご卒業おめでとうございます」
伝えた黒子に、先輩は「ありがとう」と口元を緩める。「二年前の俺に伝えてくれよ」
「殺した、って」
教室を目指す廊下の途中でクラスメイトとすれ違った。人手を探していたので名乗り出たが、案の定、驚かれた。「いるならいるって言ってよ」って、先輩にも言われたけれど難しい話だ。
「それで、僕でよければ力になりますが」
「うん、全然お願いしたい!」
椅子が余ってしまったのだと、クラスメイトは困り顔だ。大急ぎで卒業生の席を数えなおしているらしい。黒子は二つ返事で承諾して、その場で行先を変更する。何か忘れているような気もしたが、体育館に着く頃には気にすることもなくなっていた。
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