Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
糸冬いずく
2024-05-04 01:43:02
56529文字
Public
二次創作:冠は余らない
Clear cache
Export ePub
冠は余らない
完結、花宮真、黒子のバスケ、Another
夜見山北中学出身の花宮真が誠凛高校バスケ部に入った話。「もうひとりなら殺してた」
ヒトないしヒトのようなものが死にます。
クロスオーバーです。複数の作品の世界観を融合しました。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
秋
誠凛高校バスケ部にはかつて
二十七人
と一匹がいた。カントクが一人、
選手
が二十六人、犬が一匹。二十七人と一匹。
もちろん瀬戸健太郎のことではない。今日も一週間ぶりに顔を出すなり「瀬戸さん今週もいらしたんですね」と他人行儀に扱われた瀬戸は、それもそのはず他校生である。毎週毎週、来るたび来るたび、違う制服とすれ違い、異物を見る目で振り向かれる。愛校精神など考えたこともなかったけれど、ここに通い続けていると、制服を懐かしむことにもなる。
とはいえ今日も制服を隠さず身につけ、瀬戸は堂々と他校の体育館に座り込んだ。数秒遅れて、瀬戸の正面で犬がほえた。テツヤ二号である。が、瀬戸はこの犬の名前を覚えていなかった。いや覚えなかった。犬に会うためにわざわざ通っているわけではないのだ。だから、いくら聞かされても聞く耳を持たない。困ったことはない。ただし二号はしっかり瀬戸を覚え、瀬戸が来るたび彼の胡坐に乗り込んだ。
他校生がここに座り込む条件の一つである。
それから、
「瀬戸さん」
一年生。手にアイマスクとヘッドホン。瀬戸は黙ってそれらを受け取り、それぞれ目と耳に当ててしまう。もたつくと足の間の犬がキャンキャン鳴いてうるさいのだ。ヘッドホンは有線で瀬戸の所持品に接続。たちまち音が流れ込んできて、体育館の喧噪が遠ざかっていく。やがては安らかな眠りに包まれ
——
。
「あの人もう寝たぞ」
「何しに来てるんだ?」
——
べつに、寝に来たわけでもないのである。しかし耳にヘッドホン、目にアイマスク、足の間に小型犬。この犬が一番厄介で、瀬戸が拘束を逃れる素振りでも見せようものなら、キャンキャン鳴いてうるさいのなんの。瀬戸は警戒されているのだ。当然といえば当然に。瀬戸はただの他校生ではない。
霧崎第一高校
はまがりなりにも強豪バスケ部を抱えている。どれくらい強豪かって、冬の大会の予選決勝で誠凛高校と当たったくらい。
その試合がきっかけだった。
十二月のいつか、移動教室で廊下に出たら、前のやつらが横に広がりちんたらちんたら歩いていた。ながら歩きというやつだった。遅刻は恐れることでもないが、邪魔なものは邪魔なのだ。かといって面倒ごとは御免被りたい。事実を伝える程度が無難かと近づいた、そのときだ。
歩きながら
の続きがわかった。携帯端末で動画を視聴していたのだ。男子四人で横に広がって?
——
それは疑問にもならなかった。四人組がバスケ部だったから、ではなくて。
瀬戸はその瞬間から肩を小突かれる直前までのできごとを、まったく何も覚えていない。というか。気づいたら別のクラスの教室にいた。四人組は二人組に。
彼らの試合映像
はすでに再生終了。授業の用意を始めている。瀬戸は若干の注目を集め、教室前方の戸が開き、ふと手に持った道具を見下ろす。次の授業は化学らしい。鐘の鳴る音に背を向け、瀬戸は歩いて教室を出た。バスケ部のクラスを頭に刻みつけて。
その日それから瀬戸は一度も寝なかった。授業中も、休憩中も。バスケ部の試合が繰り返し繰り返し脳裏に再生されるのだ。ウィンターカップ予選決勝最終日、対誠凛戦。有り体に言ってひどい試合だった。ティップオフ早々、繰り出されるラフプレー。間抜けな審判。負傷するどころか逆にファウルをもらう誠凛高校。度重なる選手交代。得点はわずかに自校が優勢。インターバル。挟んでなおもラフプレーは続く。しかし花宮真が、指を鳴らした。
「おはよう、瀬戸くん」
瀬戸はゆっくり覚醒する。
「あー、もう休憩?」
「外しなよ、それ」
聞きながら、とっくに瀬戸は外していた。まぶしい視界に、入り込んだ花宮の影。足元が急に軽くなる。小型犬が降りたのだ。それを、どうやら花宮が抱えた。持ち上げ、診察するように体を見ていく。
「ひっでーな。俺のこと何だと思ってんの?」
「君はうちの部員じゃないから」
「俺に動物虐待の趣味はないよ」
「そうだろうね」
花宮は素っ気なく、犬の
診察
と解放を優先する。いやまあ瀬戸も気にしてはいないが。何せ初日からして「犬を殺したいと思う前に遠慮なく申し出て」だ。犬を傷つける許可ではない。警告である。体育館を追い出すぞという。そのときも瀬戸は否定したが、そのときも花宮はうなずかなかった。「君はうちの部員じゃないから」
さて犬を放すと花宮は、
「それで瀬戸くん
——
」
「おまえとゲームメイクの話がしたい」
「
——
バスケ部でもないのに?」
「花宮の頭脳に興味がある」
「だってさ、カントク!」
ステージに向かって呼びかけた。
「ダメに決まってるでしょうが!」
即座に女子生徒の声が返る。
「だってさ、瀬戸くん」
何度来ても同じだよ。花宮は再び瀬戸を見た。瀬戸は今日も食い下がらなかった。やがて違う三年生が来る。
「あっ瀬戸くん今週も来たんだ」
小金井である。人間の名前も大して覚えなかった瀬戸だが、小金井の名前は覚えることになった。
「うちの闇宮がお世話になってます」
こういうわけだ。毎週どんな話をするか、瀬戸はまったく覚えていない。小金井との会話は、生産的ではない。こいつは花宮とは違う。
花宮はこいつらとは違う。
あの試合で花宮が何をしたか。何をしていたか。絶対に小金井にはわからないだろう。自校のバスケ部の人間も、実際のところは何もわかっていなかった。おまえらの監督がかわいく見えてくる。瀬戸がそれを説明したとき、バスケ部の連中には鼻で笑われた。
霧崎第一高校バスケ部監督は諸々の罪で逮捕、解雇されている。生徒への体罰、違法薬物の所持、後ろ暗い連中との交際、エトセトラ。やっぱり瀬戸は関心がなかった。ただ学校は大事件として扱って、数度の集会も発生したから、さすがに時期は記憶している。秋の終わり、冬の初め、バスケ部のカレンダーに合わせるならば、ウィンターカップ予選終了直後のことだ。
あの試合の花宮はポイントガードのポジションだった。そして、その役割以上に、緻密に
伏線
の糸を張り巡らせていた。あたかも蜘蛛が巣を構築するように。花宮はあの監督のやることなすこと、その罪状まで織り込み済みでコートに立っていた。
「瀬戸くんって、やっぱ頭いいんだね」
「うん、いいよ」
何の話をしていたのだったか、アッと言って小金井がいなくなった。休憩が終わったらしい。小型犬が戻ってくる。キャンキャン鳴かれる前に、ヘッドホンを耳に当て、アイマスクを下ろす。犬は乗り込んでこなかった。
いつまでたっても。
重量を感じられないことの違和感で、瀬戸はアイマスクを再び上げる。犬は体育館を出て行ってしまった。小型犬は戻ってこない。かわりにキャンキャン鳴く声が聞こえる。ふと静かなコートを見ると、誠凛生の視線が突き刺さった。ここは無罪を訴えるべきか。とりあえずヘッドホンも下ろし、立ち上がっておく。ゆっくり両手の平も見せると、見事な無抵抗宣言。あとは、あちらが銃を向けてきて、ゆっくり地面に伏せなさいなどと言ってくれれば完璧だが。
小型犬は戻ってきた。当然だけれども五体満足で。二年か一年が犬に駆け寄る。
「二号、何があったんですか」
犬はワンともキャンともほえない。かわりに、
「あっ、ワンちゃん!」
見知らぬ女子生徒が駆け込んできた。当然だけれども誠凛生で、十中八九、泣いていた。彼女は瞬間的に状況を把握し、泣きはらした顔を慌てて隠す。呆然となるバスケ部の中から、しかし一人が彼女を呼んだ。その声に、彼女は肩を震わせた。
尋常ならざる事態である。瀬戸は気づかれる前にと場所を移した。気づかれなかった。女子生徒が嗚咽を漏らす。先の部員が走って彼女の前に立つ。
「えっ、あの、何かあった?」
女子生徒は一段と大きな嗚咽で答える。
「体育館は今、男バスが使ってて」
大きく首を縦に振って返事。
「お、俺に用事
——
ってこと?」
再度、首が縦に振られる。
「降旗、だけど」
「わ、わっ、わかって、る」
「もしかして、あいつと喧嘩にでもなった?」
女子生徒は再び黙りこくった。ただ大きくしゃくり上げる。いや。
「ち、ちが、ううぅうぅうううううぅ。ふ、ふり、はたくん。違うの。違う。違うの。あのね。降旗くん。あのね、あの、ひと、
——
死んだって」
おっと。これは急展開。
練習再開は遅れに遅れた。そのことをとやかく言う者は、このバスケ部にはいなかった。
「う
——
、だって、風邪で休みって」
降旗は体育館を出て行った。誠凛の監督はとがめなかった。彼女自身、女子生徒に付き添って外に出た。
瀬戸の元には花宮が来た。花宮が来て「瀬戸」と呼ばれた。瀬戸は思わず瞬いた。「瀬戸くん」ではなかったから。
「
——
わかってる。今日は帰るよ」
「『今日は』じゃない」
花宮は言った。
「二度と来るな」
かくして瀬戸は体育館を追い出された。走り去ったバスケ部員、泣きじゃくる女子生徒、それらと同じ出口を通った。他校の敷地を悠々と歩いた。校門の向こう、さらに横断歩道の向こう側に「交通事故がありました」の看板。
「なに最後にノスタルジー出してんの」
「言うほどノスタルジーあったか?」
「いや何か言い忘れたと思って」
「事故の看板に?」
茶化された。瀬戸は返事をしなかった。この場で特に重要視されるような問題ではない。案の定、
連中
は早々に興味を失って、退屈げに本題に戻っていく。そして責めるような視線を瀬戸に向けた。
「だって、そうでしょ。なんにも収穫がないってことじゃん?」
「当然。誠凛の監督はバカじゃない。
気づいてた
よ」
ハァ。連中はため息をついた。何を今さら。瀬戸は無視した。人選からして無理があったのだ。口で何を取り繕っても、瀬戸の身長は百九十センチ。これで青瓢箪ならよかったが、残念ながら火神と大差ない体形である。つまり。
「じゃあ火神が
——
」
「
火神を失った
誠凛でも、霧崎第一には勝てるだろうね」
「
——
かぶせんなって」
まあこの場で最低身長を見たところで、百八十前後の
正センター
が出てくるわけだが。そのセンターは不満ぶってこう言った。
「せっかく
体罰
我慢したってのに」
「まったくだ」
バスケ部レギュラーその二が続いた。
「またやるか?」
「暴力監督探し?」
「いやラフプレー」
瀬戸は何も言わなかったのに、注目は瀬戸に集まった。瀬戸は感慨なく告げた。
「通用しない」
「IQ160はどうした、IQ160は」
関係ないね。とは返事をしない。
知能
I
指数《Q》の何たるかも、もう説明などしてやらない。バカにつける薬はない。
結論は夏とほとんど同じまま。誠凛に勝つためには無冠かキセキが必要だ。バスケという競技には才能が必要で、誠凛は火神を失ったところで相変わらずそれほどのチームである。そこに頭脳で立ち向かおうったって、べつに悪くない着眼点だが、それには最低でももうひとり瀬戸が必要だった。
「瀬戸ちゃん今から双子になーれ」
「無理、いない、諦めて」
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内