佐藤
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P4 chapter6:清濁併呑

8月頃の話。行き着いた恋の形(全5話)


04.花は綻び愛でるもの

「お祭り、もうすぐだね」

昼下がり、ほんの少しだけ遅めのランチタイム。いつもは図書館に飲食物を持ち込んじゃいけない決まりになっているけれど、何故かそれを注意する人目はなく、密かに過ごすこの時間にはなんとも言えないワクワク感があってとてもいい。
そんな胸が軽やかに踊っているような気持ちで、このところ私の楽しみにしていることの一つであるイベントについて真向かいに声を投げかけてみると、数学の教科書を眺めていた三琴の視線がこちらに移ってぴたりと交わった。それはいいものの、どうにもきょとんとした顔をしている。

「ん、……そっか、もうそんな時期か」
「何、その気のない感じー。行かないの?」
「いや……一人で行ってもな」
「なんだ、別に行きたくないわけじゃないのね。じゃあ一緒に行こうよ、センパイ達や完二と約束してるんだ」

ずず、と汗をかいた長方形の紙パックからカフェオレを啜り上げる音がなんだか間抜けに響く。あまり上品とは言えないそれに気が引けたのだろう、三琴はストローから口を離しつつ苦笑いして教科書の頁を捲った。いまいち浮かない様子で私は若干口を尖らせていたけれど、続く言葉に突破口が見えたのですかさず勢いに任せて誘い文句を謳いあげた。こういうのはテンポが大事だ。流れを止めずに引っ張り込むのが所謂定石。実際三琴の目は真ん丸になっているけれど、嫌だと言っているようには見えないし。

「は、……え、いいの?」
「もっちろん。賑やかな方がお祭りって感じで楽しいでしょ、皆も絶対歓迎するって!」

ばっちり、狙い通りだ。おまけにウインクまでしてみせて、私は持ち前の明るい空気を全面に押し出す。こっちが誘ってるんだから悪いわけないじゃない、というところなのだけれど、私の一方的なお願いが発端とはいえこうしてしばしば二人で勉強する仲になっても三琴はまだまだ変に気を遣っているようなのだ。その一歩引いたところにいる感じがどことなく堅苦しいというか、もっと気軽に親しく接してほしいというかで、無性にむずむずしてきて放っておけない気分になる。……中学の頃からアイドルをやっていて、どちらかと言うまでもなく可愛がられて甘える側の立場だった自分のことをよくよく考えてみれば、考えてみるほど、すごく不思議な話だと思うけど。(……でも、もっとよく考えてみればなんだかんだと色々あったし、もしかしたらこれが成長ってことなのかも?)
それはさておき、とにかく、嫌がってないようなら――やたらと遠慮ぶかーい三琴には、少々強引なくらいでも大丈夫。仲良くなってほんの二週間だけど、それくらいはしっかりわかってる。

「そだ、男子たちにはナイショで、女子皆で浴衣着ていってびっくりさせちゃおうって計画もしてるの。あ、ちなみに着付けは雪子センパイんちでやる予定!言っとくけど、行くからにはトーゼン三琴も強制参加だからね?
……ま、たぶん雪子センパイも千枝センパイも、みーんな結局鳴上センパイ狙いなんだろうけど」
「あはは……それはそれは、なんともすごい関係だ」
「なーに、他人事みたいに言ってくれちゃって。そーいう三琴はどーなの、浴衣見せたい相手の一人や二人」
「は、」

女子間で示し合わせているだいたいの計画内容を話しながら、三琴がひょっとすると辞退などと言い出しそうなので途中で予めはっきりと封じつつ、私は最後に目下のちょっとした懸念事項を呟いた。鳴上先輩は皆に優しいし頼られてるし、そこが素敵なところなんだけど、恋する乙女になってしまえば実にもどかしくてたまらないところだ。たぶん三琴もそういう部分を察してくれているのだと思う、少しだけ眉を下げて苦笑している。けれど、――おそらくは実際本当に他人事なのだろうと思っていたからこそ、――なんとなくもやもやとした気持ちになった私が、なんとなくカマをかけてみせたら、見事なまでにその表情がびしりと固まった。
私は思わずつい一秒前までの憂鬱を忘れて思い切りにんまりとする。

……おやおや~、どうやら三琴さん、なにか心当たりがあるようですねぇ?」
「いや、……あー、いや、そういうわけじゃ」
「うっそ、その反応で何もないって方が無理ある。なになに、ウチの学校?それともこっちに引っ越してくる前の人とか?」
「え、……えー、……ああうーん。………そうだな、
――まぁ取り敢えずそれは置いといて、そろそろ休憩終了して、りせちゃんの明日からの補習のためにもうひと頑張りしようね」
「あっ、ここでそういうこと言うー!?もう、三琴の意地悪!」

三琴は何かを考える時口元に手をやる癖がある。今はそれに加えて目も完全に泳いでいるし、歯切れの悪さに至ってはもう明らか過ぎる。無理やり話を逸らすのだって怪しさ満点、弁解の余地は一切なしだ。
……なのだけど、苦し紛れに笑って誤魔化す三琴の、全然隠れてない照れ顔がすごく魅力的に見えたので――今日のところはそれに免じて、おとなしく明日のための勉強を再開することにした。


<了>