【ファン風】悪趣味にも程がある

わちゃっとさせたかったファン風のお話。無自覚ファン→風子で他風子右CP(フィル風・ジナ風)食い込んでますご注意。※アン風前提のファン→風です。


別段狭くはないトレーニングルームに充満する殺気めいた苛立ち。それが今、自分の姿から発せられているのだから不思議な感じ──、なんて暢気な事をファンの姿をしている風子が内心思ったのが相手に伝わってしまったのか、風子の姿をしているファンからごうっと発せられる勢いが増した。
心なしか室温も数度上がった気がしなくもない。
「何故、馬鹿弟子が此処にいる」
姿形、声質に至るまで風子であるが、細められ冷たさすら感じる眼光の鋭さや地の底から湧き上がるかのような声の出し方、一挙手一投足に置ける立ち振る舞いが彼女ではないと如実に物語る。
肌を刺す威圧感の発露が抑えられているだけで、内包している憤激は未だに沸々としている自分の姿をしているファンに対して素直に申し開きをするべく風子が口を開けるが、深く大息を吐きファン自ら制止させた。
……はっ。今起きている不可思議な現状に比べれば瑣末な事だな。それより、いつまでオレを待たせる? いつになったら元に戻る手立てが分かる? 出雲風子」
「えっと、ですね……
自分の姿で自分に呼ばれる言い表し難い違和感。鏡に映った自分に向かって言うのとは違う感覚にファンの姿をした風子がむず痒さを覚えた。
だが、それは風子の姿をしたファンも同じらしく、鏡写しとは違う己自身が決してしない面持ちや漂わせる雰囲気を目の当たりにした不快感が眉間に谷底を形成させるのと同時に胸の前で腕を組んだ。
「──ジジイ、それやめた方がいいよ」
「何がだ」
未だに苛立ちを隠さない風子の姿をしたファンを見遣るシェンの眼差しは、あり得ないものを見るかのように冷めきっている。
それもそのはず。中身がファンだとしても体は風子のもの、ファンが何んとなしに両腕を胸の前で組めば必然的にたわわに実りに実った女性の象徴がたゆんと腕の上に乗っかりその存在感を増しに増しているからだ。
「いや、それだよそれ。今風子さんの体だけど、ジジイには変わりないんだから気を付けなって」
引かれに引かれているシェンの目にはじめこそ疑問を抱いていたが、何度も指差しされる先にあるものの存在に気付くなり、さして問題無いと云わんばかりに風子の姿をしたファンが胸を張った。
「オレの体と違い重いからな。こうせねば零れ落ちそうで困る」
「その発言セクハラ! やめろよクソジジイ!!」
感触だって分からないわけないだろ。腹の底からシェンが叫べば、何を当たり前な事を言っているんだこの馬鹿弟子はと風子の姿をしたファンの眼差しが余計にシェンの神経を逆撫でる。
「多寡が胸であろう」
「だから問題だって言ってんの! 風子さんも何か言ってやって!!」
わあわあ言い争うもとい、シェン一人がヒートアップしている光景を隣で半ば静観していたファンの姿をした風子は急に話を振られ驚きはしたが、自分の姿をしているファンが胸の前で腕くみしていることに嫌悪感すら抱いていないようで、笑顔で全然気にしていませんからと返したのだった。
その態度に風子の姿をしたファンがそれ見た事かと鼻を鳴らすものだから、シェンは納得出来ずファンの姿をした風子の肩を掴みガクガクと揺らした。
「風子さんっ! これは笑って流しちゃ駄目!!」
鍛えていない一般人であればシェンの加減なき肩を揺さぶる動きで容易く肩が壊れてしまうが、今の風子は長い年月をかけ鍛え抜かれた強靭な肉体を持つファンゆえに僅かに揺れる程度だけで済んでいた。体幹が強い。
ただこのままではシェンが納得いかず自分の姿をしているファンへ何やら強硬手段を行いそうなのを察した風子は、言うか言わまいかギリギリまで悩んで悩んだ挙句、気持ち重たい口を開いた。
「あれでセクハラだったら私もファンさんにして、しまっています、し……
その言葉にシェンはファンの姿をした風子の肩を揺らすのを止め、風子の姿をしたファンもまたピシリと固まった。三人の間に横たわるおかしな緊張感。師匠と弟子の視線は、組織のボスである女性から一切逸らされない。
そんな二人を視界に入れぬようファンの姿をした風子は視線を下に落とした。
「ちょっと、……お花を摘みに」
「やめろ。オレの姿でそんな恥じらいを見せるな」
「じゃあ、ボクと鉢合わせしたのって」
「はい……。摘み終わった帰り道でして……
ポッと音でも聞こえそうな程に頬を赤らめるファンの姿をした風子に、風子の姿をしたファンは自身の見たくない姿の不快感から目くじらを立て、シェンは憐れんだ声色で気遣いの言葉を掛ける。
が、次の風子の一言でトレーニングルームに静寂が降り立った。

「いえ。ある意味見慣れていたと言いますか、そこは大丈夫です。躊躇いが無かったと言えば嘘になりますけど」

あれだけ殺気と苛立ちに熱せられていたトレーニングルームの室温が恐ろしいまで急激に下がっていく。
「見慣れている……?」
「待って風子さん待って。それ以上は駄目。ジジイが違う意味で駄目になる」
無論風子の中で”見慣れている”対象に上がっているのは言うまでもなく≪不死≫であるアンディなのだが、現ループのファンとシェンはそんな事を知る由もなく、風子自身そのことについて当たり前すぎて詳しく説明していないため、自分と二人の間にある認識の差に全く気付いていない。
実際風子の言葉を聞いたファンは胸の前で組んでいた腕が力なくだらりと解かれ、あれだけ強い意志が宿っていた瞳からやや光が消えかけるばかりか視界に映り込む情報を脳が処理していない。
加えてファン自身何故此処までショックを受けているのか理解できておらず、言った風子自身も急にファンが纏う空気がガラリと変わった理由が分からなくて小首を傾げるばかり。
唯一育ての親であり師匠であるファンの心情を何となく察している弟子で息子のシェンだけが、現状を把握しているというおかしな状況になっていた。