柚鈴
2024-03-13 13:46:50
11446文字
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でぃあぷろ図書館イベント



第5話 ❀「街」

◇ミア・フィオリーレ

「レイラさ〜ん!」
……! ミア」
「姉さん! 大丈夫だった?」
「あ、えと……う、うん」
「それで……こちらが、見つけたという地下への階段ですか?」
「うん。みんなで、降りてみよう」
 レイラからの連絡を受け、ミア達は、伝えられた場所へ向かい、レイラ達と合流した。
 そして、一言二言交わすや否や、早速、とんとんとん、と、軽やかに地下への階段を降りていく──否、ハレリはとても警戒していたし、フウカもおそるおそるといった感じだから、全員が軽やかな足取りだったわけではないけれど。
 階段の先。
 突き当たった場所にあったのは──扉だった。
 先頭──ミアの目の前──を歩いていたレイラが、警戒しながらノブを回す──が、その手がかたい抵抗によって回転を妨げられたのが、見ているだけのミアでもわかった。
……ダメ。鍵がかかってるみたい」
「じゃあ、これの出番ですね!」
 そう言ってミアが取り出したのは、もちろん、今回の話の発端である鍵だ。
 フィクションとノンフィクションのあいだみたいなデザインと存在の鍵。
「まぁ、流石に合うわけないと思い、ます……けど…………
 わざとらしくニコニコ笑って、冗談めかしてそんなことを言いながら、レイラの隣に立ち、その鍵穴へ、鍵の先端を滑りこませる──滑りこませる?
 するり、と。
 何の抵抗もなく──気持ち良いぐらいあっさり、吸いこまれるかのように、鍵は、鍵穴へ入り。
 かちゃり。
 ほとんど無意識に、手首をひねれば──そんな音をたてて、扉は開錠された。
……え?」
「あ……開いちゃった」

「──ここ、知ってる!」
 ドアを開いた瞬間、飛びこんできた景色に──あふれてきたのは、懐かしさだった。
 決して広くはない空間に、ところせましと並べられた背の高い本棚。鼻腔をくすぐる、紙と埃のにおい。
 そこにあったのは──小さな図書館だった。
 しかも──さっき、フウカとシノに話した、探していた図書館!
「ここ──私の、思い出の場所なんです」
「あ……もしかして、さっき話していた?」
「はい! ──レイラさん、ありがとうございます! レイラさんが──見つけてくれたんですね」
……どういたしまして。ミアが探していたものを、見つけられたなら──よかったよ」
 レイラの微笑みに頷きを返し、あらためてぐるりと図書館内を見渡す。
 個人の、私設図書館だろうか? 本棚の中身はジャンルごとに整理されていて、子ども向けの童話集が多い印象を受ける。
 ミアを筆頭に、他の四人も、図書館のなかへ入っていく。きょろきょろと見渡したり、興味のある本棚へ向かったり、それを追いかけたり、楽しみかたは様々だ。
 ミアも、郷愁に浸りながら、ただただ眺める。
 此処は、ほんとうに素敵な場所だった。
 幼心が掻き立てられて、とってもワクワクしたのを、よく覚えている。今も、浮き足立つような心地だ。
 だけど。
…………
 がらんどうの館内と、埃のにおいは──此処がもう、あのときのように人で賑わう場ではなくなっていることを、ひしひしとミアに実感させた。
 この地域は、とっくに居住区域から外されている。だからきっと、経営者の人も、別の街に移ったのだろう。
 あぁ──怖いな。
 世界がこうしてどんどん荒れ果てていくのが。
 ミア達にとっての『世界』と呼べる面積が、ちいさくなっていくのが。
 どうしようもなく、怖くて。

「──この、図書館」

 ふ、と。
 突如かけられた声に、反射的に振り返る。
 そこには──とある児童文庫を抱えたフウカが、床を見つめていて──否。
 ゆっくりと、ミアのほうを向いた。
 抱えているのは──あの、ミアが大好きだった、冒険小説。
「この図書館は、きっと……ミアさんのことを、待ってたんだと、思います。私は……来られてよかった、って、思いますよ」
 そう伝えてくれる姿は──やっぱり、及び腰ではあるけれど。
 それでも──初めて会った頃と比べると、ずっと、ぐっと、距離が縮まっているような気がして。
 それが──とっても、うれしくて。
 サクリファイスの襲撃は止まない。
 世界はきっと、これからも小さくなっていく。
 それでも──ミア達なら、なんとかできるような気がした。
 みんなが笑顔の世界を、作れるような気がした。


 かちゃり。
 微かな金属音を奏でて、扉は閉まる。
「この鍵……私が持ってても、いいですか?」
 おそるおそるした質問。
 けれど──四人とも、すぐに頷いてくれた。
「ミアが見つけた鍵で、ミアの思い出の場所なんだから。ミアが持つのが、正しいと思うよ」
「あ──ありがとうございます! また絶対、みんなで来ましょうね!」

 和やかな笑顔と共に、少女達は去っていく。
 お別れだとしても、決して寂しくなんかない。
 この素敵な思い出は、いつだって冒険の先で、鍵の向こうで、待っていてくれるから。