柚鈴
2024-03-13 13:46:50
11446文字
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でぃあぷろ図書館イベント



第3話 🍬📚🍀「風薫る空の下」

◇フウカ・フィデス

 心配で心配で仕方がない。
 そう顔に書いてあるハレリと別れて──分かれて、ミアとシノのあとを、てくてくとついていく。
 ハレリが、隣にいない。
 それは──正直に言えば、不安だった。心寂しくて、少し落ち着かない。
 けれど。
 ミアじゃないけれど、このワクワクした気持ちも、嘘ではないのだ。
 心が躍って、弾んで、浮き浮きしている。
 この感覚は、そう──冒険小説を読んでいるときの、読み進めているときと、同じだ。

 フウカは、冒険小説が好きだ。
 未知の道を切り開き、まだ見ぬ宝物に高鳴る胸をおさえながら、いっぱいのドキドキをめいっぱいに味わう旅路。
 幼い頃のフウカは、目を閉じてから夢へと旅立つまでのその時分、自分だけの冒険物語を空想していたものだ。
 何も知らない、わからない世界へ飛びこむ妄想のなかのフウカは──それを想像しているフウカは──幼いフウカは、どこまでも無邪気だったのである。

「フウカちゃんは、小さい頃から本が好きだったの?」

「…………え、と」
 アイドルに変身したまま、探索をおこなっていた道中。
 少し物思いに耽っていたフウカは、シノにそう話を振られて、ついどもってしまう。ついつい、言い淀んでしまう。
 今、ハレリはいない。
 けれど、シノは──それに、いま一緒に行動しているミアも、やさしくて、あったかい。
 だからと言って完全に前を向けるわけでは、ないけれど──
「は、はい……小さい頃から、好きです」
 ──はじめと比べれば、落ち着いて、自分のことを話せるようになった。
「私のおかあさん、身体が弱くて、ずっと入院してて。それで……私がお見舞いに行くたびに、やさしい声で、絵本を読んでくれたんです。それが……うれしかった」
 母は、フウカが五歳のときに病気で亡くなってしまった。
 だから、はっきりと覚えているわけではない。記憶は、判然とはしていない。
 けれど──本を読んでいると、なんだか安心する。
「本を開けば、おかあさんがそばにいてくれるような気がして……あったかい気持ちに、なって。だから、好きなんです」
 どうにか話し終えたフウカに、ミアが「たしかに」と首肯する。してくれる。
「私も、絵本を見てると、お母さんのことが懐かしくなるんだよね。だから、ちょっとわかるかも」
 そう口にする、ミアの表情は──なんだか、寂しげに思えた。
 ……そういえば、ミアの両親は、サクリファイスの襲撃で亡くなっているのではなかったっけ。
 あぁ……失敗した。
 嫌なことを、思い出させてしまったかもしれない。
 申し訳ない気持ちで、いっぱいになる。
 やっぱり、フウカは……コミュニケーションが、へただ。
 そんなふうに、気持ちを沈ませ、無意識に俯きかけていると──ふいに、ミアが「あれ?」と立ち止まる。
「? どうしたんですか?」
「ここ……小さい頃に、来たことがあるかも」
「小さい頃?」
「うん! お父さんとお母さんが、生きてた頃──みんなで旅行で訪れた場所に、似ている気がします! そのとき、小さな秘密基地みたいな図書館に、連れていってもらったんです!」
……図書館……」
「そう、図書館! まだ、ここにあるのかなぁ……きっと、フウカちゃんも気にいると思うな!」
 にぱっ、と笑いかけられ、そのまぶしさに、狼狽える。
 そう、まぶしさ。
 ミアは──まぶしい。
 まぶしいのだ。
 弱いフウカにとっては、とっても。
 今だって……きっと、母親のことを思い出して嫌な気持ちになったはずなのに、こうしてフウカに笑いかけてくれる。
 ミアは──まぶしい。
「ふふっ……それなら折角ですし、その図書館を探してみませんか?」
 フウカが何も答えられないでいるうちに、シノがくすりと笑いながら、そんなふうに発案する。
 そのアイデアに、ミアは「えーっ、いいんですか!?」と目をきらきらと輝かせて、うれしそうにシノを見る。ご主人様が帰ってきたわんこみたい、と思った。
「あっ、でも、鍵は……
「まぁまぁ。無闇矢鱈と探すよりも、何か目的を持ちつつ探索したほうが、案外見つかるかもしれませんよ?」
「それもそっか! フウカちゃんも、それでいい?」
「あ……は、はいっ」
「やったぁっ! それじゃあ探すぞーっ、図書館!」
 秘密基地みたいな、図書館。
 それは、鍵穴さがしよりも幾分か、フウカの心をときめかせるワードで。
 少しだけ俯いた心がちょっぴり起き上がるようなドキドキに従って、フウカは二人の後を追いかけた。