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柚鈴
2024-03-13 13:46:50
11446文字
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でぃあぷろ図書館イベント
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第2話 ❀「ワンダーランドと羊の歌」
◇ハレリ・フィデス
「そろそろ、休憩にしましょうか」
ぱん。
掌と掌が合わさる軽やかな音と、穏やかなシノの一声で、はりつめていた空気がゆるむ。
ハレリも、ミアも、レイラも、動きを止め、構えていたそれを下ろした。
「──つかれた〜!」
「おつかれさま、ミア」
ぽすん、と、ミアがその場にそれなりの勢いで腰を下ろし、だらんと脱力して上を見上げる。そんな休憩モードのミアの隣へ、至極ナチュラルにレイラが座った。
そんな二人を見るともなく見つつ、ハレリはといえば、シノとともにハレリ達を見ていたフウカの元へ向かう。
「お
……
おつかれさま、ハレリ。これ
……
お水」
「ありがと、姉さん。姉さんは、のどかわいてない?」
「う、うん
……
大丈夫。見てただけだし」
まるい眼鏡の奥の瞳が不安げに揺れて、ハレリではないどこかを見る。フウカとアイコンタクトをとれる時間が短いのはいつものことなのでさして気にせず、受け取ったペットボトルに口をつけた。 「あっ、そうだ!」
ぱん! と。
先ほどのシノのものと比べてかなり大きく手を叩いたミアが、突然がばりと勢いよく立ち上がる。
「ひゃ
……
」
その、あまりの突然さに、隣でフウカがびくりと震えた──のを認識すると同時に、
「ちょっと、ミアさん!」
と、思わず声をあげる。あげてしまう。
「びっくりするじゃないですか! 急に大きい声出さないでください!」
「あっ、ごっ、ごめん!」
「あ
……
だ、大丈夫。大丈夫だよ、ハレリ」
「もう
……
姉さんはやさしすぎるよ?」
眉を下げ、へにゃりとへたくそに笑ってみせるフウカ。
ハレリは心配で心配で仕方なかったけれど、フウカの望んでいない行動がしたいわけではない。ので、おとなしく口を噤む。
「
……
それで、何が『そうだ!』なんですか? ミアさん」
停滞した話題を、シノが押し進める。
その言葉に、ミアは「あっ、えっと!」と、少し慌てた様子で、がさがさと、ごそごそと、がさごそと、自身のポケットを漁り、
「これ!」
何かを取り出して、掲げた。
話題となる、そのキーアイテムは──
「──鍵?」
だった。
鍵と言われて思い浮かべるけれど、実際にこの形として現実に存在していることは珍しく感じるような、リアリティとファンタジックのあいだみたいな外観の鍵。字義どおりの、キーアイテム。
「そう、鍵! このあいだ、一人で残って訓練してたときに見つけたんです!」
「へぇ
……
どこの鍵なの?」
「それが、わからなくって
……
でも、なんだか、とってもワクワクする、っていうか」
きらきらと、煌々と、爛々と。
そんな表現が似合いそうなほどまぶしく、ミアの瞳は輝いていた。
まるで、遠足の前日の小学生みたいに──それこそ、本人の言っているとおり、『とってもワクワク』している、といった表情で、愛おしそうに鍵を見つめている。
「
……
だったら
……
探してみませんか? 何の鍵なのか」
少しの沈黙のあと、それを静かに破ったのは、シノだった。
やさしい彼女のやさしい提案に、ミアの瞳は、いっとう、輝きを増す。
「い、いいんですか
……
!?」
「私はいいですよ」
「私も。嫌って言っても、ミアは一人で行っちゃいそうだしね」
「二人は、どうしますか?」
シノに続いて、レイラも賛同し──六つの瞳が、こちら──ハレリとフウカに、集まる。
「
……
姉さん、どうする?」
その視線を一身に受け止めてから、ハレリはいつも通りのできるだけやわらかい声音を奏でつつ、隣に立つフウカを見やった。
「
……
私、も
……
探したい、です」
お、と思う。
おずおずと──けれど確かに、実に確実に、そしてどこか期待に満ちた瞳でそう言うフウカ。
このグループは、フウカが、そんなふうに自身の意見を言える場になっている──その事実を、とてもうれしく思った。心配なのは、変わりないけれど。
「姉さんがそう言うなら、私も手伝います」
「やったー! ありがとう!」
片手に鍵を握りしめたまま、めいっぱいばんざーい! と両手をあげるミア。
そんな大はしゃぎな姿に、大袈裟だなぁ、と、思わず苦笑する。
「じゃあ、早速
……
」
「あっ、待ってくださいっ!」
善は急げ──というわけではないだろうけれど、話が決着してすぐに立ち上がったレイラを、ミアは制止した。
「せっかくだから、二手に分かれて探しませんか? グーとパーで分かれるやつで!」
「「えっ」」
ミアの無邪気なプランに、間抜けな声が漏れる──レイラも同じように驚いていることに気づいたのは、数瞬あとの話。
グーとパーで分かれるやつって、あれ?
地域によってかけ声が全然違う、なんなら地方によってはグーとチョキで分かれるっていう、あの?
完全な──運任せ?
「いきますよー? せー、のっ!」
ハレリ──と、レイラもか──が戸惑っているうちに、ミアがかけ声をして、それに合わせてリズミカルに反応する。
なんて言ったかは、聞き取れなかった。そんな余裕は、なかった──いや待って、えっ? ほんとうになんて言った? 呪文? パラリラパラリラみたいなこと言ってなかった? などと、余計なことばかり考えていたハレリは、どこか遠い世界の出来事のように、自身の拳を見つめる──そう、拳。
無意識のうちに出したのは、グーだった。
まだ回っていない頭で、集合した掌と拳を確認。
集まったのは──パーがみっつと、グーがふたつ。
もうひとつのグーは──レイラだった。 「ね、姉さん、大丈夫っ!?」
「え
……
あ、えと
……
」
「ミア、その
……
」
「
……
? どうしましたか?」
ついつい叫んでしまい、フウカを困らせるハレリ。
何か言いたげに声をかけ、ミアにきょとんと首を傾げられるレイラ。
レイラの心情はなかなか読めないが、今だけは、以心伝心できる気がした。たった今サクリファイスが此処を襲ったとしても、完璧なチームワークで息ぴったりに討伐できると思う。不謹慎か。
「はい。それでは、レイラさん・ハレリさんチームと、ミアさん・フウカさん・私のチームで分かれて、探索しましょうか」
空間に漂う微妙な空気を浄化するように、シノが仕切る。まとめる。
そこには「任せてください」と言わんばかりの、頼もしい笑みがたたえられている。
ミアはいい子だし、シノも頼りがいがある。二人ともとにかくやさしいから、フウカが傷つけられることはないだろう。
でも、だけど──ハレリは、心配で心配でしょうがなかった。
胸裡がざわめいてしょうがない。ざわざわざわざわ、いつまでも揺れ動いて騒がしくて、落ち着かない。
──姉さん、大丈夫かな
……
。
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