沈黙の数秒のあと、墓のは笑みを引っ込めて、低く呟いた。
「じゃあ、戦い終わったあとでもいいんで、考えておいてください。
……沢城をどうしたいのか」
「
……沢城くんを?」
「さっき言ったでしょ、沢城の父さんは時計を左回しにできるって。今はまだ
……あっちの世界は、沢城と続いてるようですけど」
墓のは魔法陣の中空をじっと見つめる。
さっき金色の光が切り離されて浮いていたあたり。
「もしどこかの時点で、沢城の父さんが時間を巻き戻してしまったら、今ここにいる沢城は帰れなくなって、いずれ時空の迷子だ。ここの時空に留めようにも、僕の両手はゲタ吉とちいさいので埋まっちまってるんで」
沢城までは抱えられない、と墓のはためらいがちに呟いた。
「マア、前提として、帰す方法があるのかないのか、って話でもありますけどね」
沢城くんを帰す方法は、未だに見つかっていない。もう彼がここに来てから結構経っているというのにだ。僕もそうだった、さっき話を聞くまでは。
「現時点で僕に考えられる範囲だと、沢城が帰る時空を失ったとき、アナタの選択は三つ。一つ目は沢城がどうなろうが構わず傍観して、248年待って、元の世界に帰る。そういう選択をしたとしても、誰も咎める筋合いなんかない
……まあでも、アナタは嫌でしょう、これ」
「当たり前だろ」
「二つ目は、沢城とこの時空に留まること。アナタの魂を錘にこの時空へ沢城をくくりつければ、時空の迷子だけは避けられます。ただそうなると
……アナタが沢城を抱えてる間は、帰れなくなっちまいますね。何せ錘ですから。マア僕としては正直、これが一番手間かからないんですけど
……」
「三つ目は?」
「248年後、沢城を連れて、自分の世界へ帰る道です。それまでは二つ目の手段で時間を稼ぐってことで」
僕は軽く目を見開いた。そんな道があり得るのか。
沢城くんと一緒に、横丁で暮らせたら。
……幸せな幻想だけれど、同時に、そんな上手い話があるか、という警戒も働く。
そしてその警戒は、見事に当たっていた。
「これは、条件を極限まで整えればできなくはない、くらいの道です。地獄の鍵はそれだけ強力で、アナタの魂にもそれくらいの強度はある。ただ確実に成功させられるかは分かりませんし、失敗すれば二人揃って時空の藻屑です。あと沢城がそれを望むかどうか、ってところも懸念ではありますか」
よどみなく語る墓のの言葉を、頭の中で整理する。
「待ってくれ。それって、沢城くんの帰る方法が見つからないうちに、父さんが時間を巻き戻してしまったら
……って話だろ?」
「ええ」
「そうなる可能性って、どれくらいあるんだ?」
「沢城の父さんが、“息子が帰ってこない”ことを確信したら、ほぼ確実に
……でしょうね。前に観測したときがそうでしたし、それに僕にその力があったなら、」
墓のが目を伏せる。数秒の沈黙。
「
……父さんが姿を消す前日に戻るだろう、って思うので。きっと沢城の父さんも同じことを考えると思うンですよね」
数秒かけて考えて、僕は息を呑んだ。
つまり
――墓のはもう、自分の父さんをほとんどあきらめてるってことか。
「
……墓の、」
再び開かれた墓のの目は、いつも通りの、曲者めいた光を湛えている。
「そんな顔しないでくださいヨ、辛気くさい。
……実は、アナタと沢城の意志によって、僕の手が届く範囲が変わってくるんで。だから先に、アナタの選びたいものは何なのか考えておいて欲しいってことです、高山」
墓のの唇の端が、軽くつり上げられた。
それが本音なのか建て前なのか、僕の目から分からない
――でも。
「そもそも、沢城に帰る方法がすぐ見つかって、沢城も帰りたいって言うなら、こんなのはタダの取り越し苦労ですよ。ゲタのの性分が移っちまったよなァ、ほんと
……」
深い苦笑が宿る声。
ゲタの、という呼び方に宿った深い情は、僕の耳でも聞き取れた。
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