氷紀
2024-02-28 18:46:01
12365文字
Public 迷い込んだ彼らの話
 

こうして僕は248年を彼に捧げることにした

当初は純粋に高沢を書きたかった筈……だったんだけどなあ。
そこに墓くん〓くんちび鬼くんが混ざった結果のただの暴発。
CP的には高沢で間違いないです。一応。


……いや、今は僕のこたァおいといて」
 床に何か明かりが灯る。扉の鍵の術式と似たような模様の魔法陣が、部屋全体の床にも書いてあるらしい。
「僕の見た限り、アナタはゲタ吉とも沢城とも、ちいさいのとも、かなり離れた時間軸からやってきている」
 思わず息を呑んだ僕に向かって、墓のは冷静さを取り戻した声で続けた。
「だったらアナタは、あの三人にそこまで深入りする必要は、本来はない筈……と、思うンですがね」
 魔法陣の中心から、紫の光が一本、立ち上った。太さは僕の腕くらい。天井まで貫く、はっきりした光だ。
「この紫が僕、『墓場の鬼太郎』だとしたら」
 ついで、その右隣に少し離れて、同じ太さの金色の光。これも天井まで届く……かと思いきや、その半分くらいの位置で止まる。
「この金色が沢城」
 墓のの言いたいことが分かってきた。
 次に出たのは白い光。
 沢城くんを表す金色の線の更に右隣だけど、出だしは金色とほとんど重なるように――でも途中からほんの少しだけ折れてやがて金色と別れて、紫と交差し、そこから紫と寄り添うように伸びて、天井に当たって途切れている。
「この白がゲタので、」
 そしてもう一本、鮮やかな青。
 位置は沢城くんの金色と、墓のを示す紫の間。太さは他の線と同じで、青の三分の二くらいの範囲は、金色と白の二色と重なっている。でも高さは、僕の身長と同じくらいで止まってしまった。
「青がちいさいの。……わかりますかね」
「うん」
「ここに高山の線を加えると、」
 鮮やかな橙色の光が浮かんだのは、金色から紫を挟んだ左側。沢城くんの金色より少し上に伸びたところで、止まる。
……これくらいには離れてんですヨ」
 交差して寄り添う紫と白、重なっている金と白と青。だけど橙はただ一本、離れてまっすぐ伸びているだけだ。
「ゲタ吉とちいさいのと沢城は出元がほぼ一緒で、元々、何かの偶然とか天地の気まぐれでも引き合うくらいには近いんですよね。けど高山はこれだけ離れてる。このまま帰らないなら、」
 橙色の光が伸びた。紫の光と交差して、金色と寄り添う方へ向かいかけて、止まる――それを把握したら、不意に頭に閃くものがあった。
 この伸びる方向と高さは、まさか。
……こうなるでしょうね」
「これ、曲がってるところって、あと高さ……もしかして生きた時間の、」
「鋭いな。そう、高さはそれぞれの意識が経験した『時空と繋がった記憶』の量、折れた場所が脱線箇所。……ゲタ吉と沢城とちいさいのは、元は『ほとんど同じところ』から始まってる。だけどゲタ吉は、あっちの父さんの力で生きる時空をねじ曲げられて脱線して、その先にいた僕が捕まえました。ちいさいのは……本来生きてる時空で、己の時を進めることを拒んだンでしょうネ。だから線はあそこで止まってるし、今も……喋らないでしょ、あいつ」
「ああ。刺されても、悲鳴すら上げなかった……

 少し前、妖怪に襲われたとき。ちいさいのは牛鬼の脚並みの大きさの爪で腹を刺されても、声を上げなかった――悲鳴の代わりに体内電気を放って妖怪を黒焦げにしたけれど。ちなみにその直後、激怒したゲタ吉の手でその妖怪は粉砕された。
 文字通り、跡形もなく。
 あの瞬間のゲタ吉の目には、地獄の業火さながらの光が宿っていたのも、僕はよく覚えている。

「つまりちいさいのは、この世界の大気に自分の意志の音を刻んでない。だからあいつの意識の時間はあいつの中でしか流れてなくて、どこの時空にも『つながってない』。だから線がのびない……ちいさいのが謎の根性みたいな力でゲタ吉にしがみついてるのと、ゲタ吉が『過去の自分』を重しにしつつフン捕まえてるのとで、辛うじてこの時空に留まってンですよ」
 この世界は思ったより大変なことになってたのか、もしかして……内心によぎった言葉は声にはならなかったけど、どうも伝わったらしい。墓のは深い深いため息をついた。
「ついでに、何で僕が『墓場の鬼太郎』なのかといえば、この時空が幽霊族の意志で歪んだ代物の、最終的な引き受け手になってるからですヨ。つじつま合わせ役ってのはまだマシな表現で、言っちゃアなんだが、実に正しく幽霊族的時空の墓場ってやつだ。いっそ墓守鬼太郎とでも名乗ってやろうかと思ったよなァ、こいつに気づいたときにャア……
 ほとんど愚痴のような口調だった。
 でも今の僕が考えるべきことは、別にある――沢城くん、は。
 僕を示す橙色の光より少し低い位置にある、金色の先端に視線をやると、墓のは僅かに眉をひそめる。別に不快というのではなく、単に、難しい、と言いたいだけらしかった。
「沢城がこの先どうなるかは、僕には分かりません。あいつの世界の……沢城の父さんが、時間を巻き戻す力を持ってるんでねェ」
「そんなことあり得るのか?!」
 僕の父さんからは聞いたことがない。
 というか、世界と時空の話だって、通り一遍聞いたことがあるかな、くらいだ。何をどうしたらそんなことができるのか、僕には見当もつかないことだった。
 墓のの声は冷静なままだ。
「ちょっと信じがたいですが、前にソレを観測したことがあるもんで、その観測を否定する根拠がない限りは、そうとしか。……実は今、僕が一番気を揉んでるのもそこです。今はまだ、沢城はこの世界の『訪問者』です。アナタもですけど、この時空の住人じゃない……僕が引きずり込まない限りは、ですけどネ」

 つまりゲタ吉は引きずり込んだんだな、と光る線を眺めて察する。
 紫に寄り添う白。

「だけど、沢城がここにいる状態で、むこうの父さんが時間を巻き戻したらどうなるか。……答えはこれです」
 金色の線が先端だけ残して、下へ向かって消えていく。少しずつ、少しずつ、まるで侵蝕するように――本能的な寒気が走る。それが意味することは。
「こうなれば、今ここにいる彼は……あのTNT火薬の数百ktみたいな莫大な霊力を持った状態で、時空の迷子です。危険すぎる。僕としては、可能なら高山より先に沢城を帰したいくらいなんですが……
「できないのか、それ。地獄の鍵を使って、沢城くんや、ちいさいのを帰すのは」
 墓のははっきりと、首を横に振った。
「その鍵は、あくまで高山の世界のものですから。それに帰せるんだとしても、……沢城はともかく、ちいさいのはなァ。正直僕ァ迷ってる、仮に手段が見つかったとして、ちいさいのを帰すべきなのか」

 金色の線が根元まで消えた。
 あとに残るのは、紫の隣、白と重なる青。

「ちょうどいい、ひとつ聞かせちゃくれませんかネ」
「なんだよ、」
……高山ははっきりと『妖怪側』の鬼太郎でしょ。ゲタ吉より沢城より、どころかヘタすると僕よりも」

 視線の気配が変わる。真剣な、真摯な目線。
 墓ののこんな顔を、初めて見た。