らい
2022-02-25 20:04:50
26508文字
Public こはひめ
 

鍵を拾ったその時に

こはひめ ※オブリ前注意

1.

「おれねェ、こはくっちなら、どんな女の子もお似合いだと思うんだァ。
 ちょっぴり内気で、自己主張がニガテな子を『わしについてこい』って引っ張ってあげたり。はっきりと物を言っちゃうぐらい気が強くて、おれたち男の子を尻に敷いちゃうような子だって、『わしが守ったるわ』って前に出てくれたり。なァんにも考えてなくて、マイペースに生きてるような子にも、『わしが側におらんと、心配やわ』ってお世話を焼いてそうだよねェ。
 あとはねェ、真面目で暴走しがちな子。ドジだけど笑顔がラブ~い子。ネガティブだけど努力を怠らない子……ぴったりの女の子を考えだしたら、キリがないぐらい。
 こはくっちは、将来どんな子と恋をするのかなァ?おれだって、未来のお嫁さんのことは、ぜんぜェ〜んわかんないけどさァ。でも、こはくっちは気配りができるし、頼りになるし、腕っぷしだって強いし、なにより綺麗で、カッコいいもんねェ。だからねェ、きっと絶対に、世界一ラブ〜い恋ができるって思ってるんだァ。
 アイドルの恋って、一体どんな出会いがあるのかなァ?映画、ドラマとかの共演をきっかけに……ってひとも多いよねェ。その日が初めての面識だったのに、渡されたCDに連絡先が入ってたってのも超ロマンチックだなァ。もしかすると、意外と仕事に関係ないところで始まるかもよォ。一般人の女の子と交差点でぶつかりそうになって、運命の出会いを果たすとか───って、昨日のハプニングを思い出しちゃったァ!
 こはくっち、聞いてよォ。こないだ、ヒロくんがねェ。『藍良!いいものを見つけたよ!』って、廊下の角からいきなり飛びだしてきて……

 恋ってなんだろう。
 十数年ほど生きてきて、概念として理解はできても、己の感情に出力できた試しがない。座敷牢生活が長く、姉と母以外の女性とろくに触れてこなかったせいもあるだろうが、こはくにとって恋というものは、異世界の住人が持っている特別な鍵みたいなものだった。扉の位置が見えていても、どれで開ければいいのかちっとも分からない。知識、力技、その双方をもってしても使えない、未知の代物なのである。
 しかし、固く閉ざされた扉の向こうには、軽快なステップを踏んで走り出したくなるような、晴れ渡る青空が広がっているのだろう。藍良の表情を見れば、よくわかる。もっとも恋愛経験は多くないようで、恋の何たるかを説くエピソードは語られなかったけれど。うっとりと目を細めながら、女の子の理想に想いを馳せるその姿は、過去に一度でも恋をしたことがなければきっと出せまい。幼稚園の先生、小学生時代のクラスメイト、その対象は定かではないけれど、たった一瞬のときめきでもなんでも、『好き』の意味を知っているからこそ風呂敷を広げられる。そんな話題であることは、明白だった。
 恋ってなんだろう。
 詳細に辿り着くまえに、収録のOKが出てしまった。今はまだ謎に包まれているが、そのうち理解できる日がくるだろうか。彼氏、彼女と呼び合う親しい関係でありたい、そんなふうに思えるほどに熱く燃える恋ができたら、きっと毎日が楽しいに違いなかった。
 こはくは、単純に憧れていたのだ。せっかく外の世界で生きているのだから、人並みの経験はしてみたい。藍良がざっと並べてくれた、これから出会うであろう女の子の幻想たち。いつか恋したそのときに、ぬしはんが好きやと告げられたら。
 十六歳の、平凡な願いだった。

『例のゲームですが。……HiMERUは、巽と組むことになったのですよ』

 彼に、そう告げられるまでは。