【あしゅやよ】「それが君の望みならば──」

裏垢ふせったー支部投稿済み分。誰からも教わらず初めて抱き知ったこの想いは何処までも明け透けで、幼いながらこの先ずっとこの者以外に抱かないのだろうと身体に絡みつく確かな熱に目を閉じたのだった。
──要は大人の階段駆け上がるどころか大人のエレベーター乗っかってしまったあしゅやよのお話。その四。ひとまずこれにて一区切り。
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ソファに座りスマートフォンの小さな画面を夜宵と黒阿修羅は頭をくっ付けながら覗き込んでいた。
『こっちとこっち、どっちがいい?』
画面の向こう側。子供服売り場で良さそうなのを見繕って映す詠子に夜宵と黒阿修羅は目配せした後、同時に口を開いた。
「青い服」
「青いの」
奇しくも同じ服を選んだ二人はまた目と目を合わせた。
「お姉ちゃんもこっちがいい?」
「うん、断然こっちの方が似合っててかっこいい」
……かっこいい」
夜宵の言葉を小さく反芻している黒阿修羅を画面越しに見詰める詠子は朗らかに笑い「じゃあ、お会計してくるから」と言い、通話ボタンを切った筈だったが如何にもラグがあったようで「次は下着かぁ、ビデオ電話しながらだと怪しまれるよね流石に……」と少々不安げな声を残し切れたのだった。
通話が切れ待ち受け画面が表示されたスマートフォンを上着のポケットに入れた夜宵は、ぽすんっと軽い衝撃が自身の肩に走ったので意識と視線を其方に向ける。
果たして、そこにいたのは目を閉じている黒阿修羅が肩に寄り掛かっていた。
「よ、……
夜宵がハリのある黒髪を撫でようとするも、彼女の左手は黒阿修羅の右手と指を絡ませ合い繋いでいることを思い出し、空いている方の右手で彼の頭を撫でた。手櫛で髪を梳き、頭のかたちに沿って手のひらを滑らせていく。
頭を撫でる手のぬくもりと心地よさからか、黒阿修羅の糸目が緩やかな弧を描き、繋いだ手をぎゅっと力を込めた。指を交互に絡め折り畳み重なった二人分の手。ぎゅっと握りしめる黒阿修羅の手を夜宵がぎゅっと握り返し、肩に凭れ掛っている彼の頭にコテリと自身の頭を寄せたのだった。



いつの間にか一緒寝てしまっていたようで、夜宵の意識は遠くから聞こえる車のエンジン音で目が覚めた。
「ほら、起きて」
「むう……
肩に頭を乗せ寝入っていた黒阿修羅を起こし、夜宵は彼の手を引きながら玄関先に歩を進めた。
「たっだいま~!」
「おかえり、詠子」
「おか、えり……
大きなショッパーを掲げ上機嫌で帰宅した詠子は出迎えてくれた二人にまた機嫌が良くなっていき、今回のある意味主役である黒阿修羅はまだ眠いのか目を擦りつつも詠子を出迎えた。
早速、着替えてみよう。意気込む詠子が靴を脱ごうとしたが、夜宵がそれをやんわり止めた。
「今から人気の無いところかつ、火を使っても平気なところに行こう」
「ん? ん??」
何だかよく分からないが、まだ家に上がってはいけないこと理解した詠子が笑顔のまま玄関で立ち尽くしているのを横目に今度は隣にいる黒阿修羅に夜宵の意識が向いた。
「君も連れて行きたいから形代に戻って欲しい。戻れそう?」
「戻る? この中に入ればいい?」
そう言うや否や黒阿修羅は自身の胸に手を置き目を閉じた途端、霧のように彼の身体が透けたかと思ったらライオン人形がお行儀よく廊下に座り込んでいた。それをいつものように大事に大切に抱き抱え、靴を履くなり夜宵は終始頭上にクエスチョンマークを浮かべていた詠子の手を取り彼女の車に乗り込んだ。
「れっつごー!」
「すと?」
いつもの合いの手も疑問塗れだったが、それでも詠子は夜宵に言われた通り人気の無い火を使っても誰も迷惑にならない場所へと車を走らせた。

体よく人気の無い小石が犇く河川敷。火の後始末もバッチリ用意した夜宵はテキパキと乾燥した枝を組み合わせ即席焚き火セットをこさえたのだった。
「何するの夜宵ちゃん?」
「この子に新しい服を着させる」
「だったら家でも良かったんじゃ……?」
「住宅街で火を焚くと通報される恐れがある。だからこういう場所が最適解」
「そ、そうなんだ……
「準備完了。──出て来れる?」
焚き火の準備をしていた夜宵が詠子に持ってもらっていたライオン人形に語り掛ければ、詠子の腕から抜け出し白い霧の中から黒阿修羅が姿を現した。諱も言霊も使わず呼んだことに疑問を抱く詠子に夜宵は今度説明するといい、一先ず彼女が買ってきてくれた服の一着をショッパーから取り出すなり、焚き火セットの上に置いた。
「夜宵ちゃん?」
何となく嫌な予感がする気配に詠子は声を掛けるが、夜宵は気にせずいつもの白いポシェットに手を突っ込み何かを漁り始めた。
「や、夜宵ちゃん?」
いよいよもって逸らせられない嫌な予感に詠子の口調が強まるも、変わらず夜宵は気にせず取り出した小さな缶の蓋を緩めるなり中身を豪快にぶちまけ──、知らぬ間に火を点けたマッチを服の上に落とした。
「夜宵ちゃーん!?」
勢いよく燃え上がる光景に詠子は叫び狼狽える。なんで、どうして。そんな彼女の疑問を答えるべく夜宵は燃え上がっている服だったものを指差しながら黒阿修羅に言った。
「あの煙に触れて」
「分かった」
詠子と違い特に疑いもせず、黒阿修羅は夜宵に言われ服が燃えた煙を触れるべく手を翳した。
刹那、彼の衣服が燃え灰になる前の衣服に変わったのだった。その光景を見て詠子は益々混乱するが、少し考えれば分からなくもなかった。故人を火葬する際、あの世で困らないように生前愛用していた物などを入れ共に灰にすることを夜宵は今簡易的に行っているのだ。
轟々と燃え盛る火の勢いが消える前に衣服を燃やし続けていれば、如何やらちょっとしたお出かけ用一式の服が燃えたらしく黒阿修羅の服装がまるっと小洒落た感じになっていた。
首を捻り自身の服装を確認した後、黒阿修羅が夜宵に問い掛ける。
「かっこいい?」
「うん、バッチリかっこいい」
完璧と言う夜宵に黒阿修羅がはにかみ照れている光景を詠子は微笑ましく思っている反面、致し方ないとは言え如何にもこうにも勿体ない気持ちが浮かんでしまうのだった。

全てを燃やし尽くし火の始末を終えた三人は家路に着く途中、運転している詠子に夜宵が何気ないことを訊ねた。
「そういえば詠子。この子の下着どうやって決めたの?」
実際問題何の当たり障りもない無難なものだった。ものだったが、何故という疑問が浮かんで仕方なかった。
「(小さい頃の螢くんの下着姿を参考に買ったなんて言えない!)お、お店の人に聞いたんだよー」
「そっか。買いにくいもの頼んでごめんね」
「ううん、平気平気」
「今度買うことがあったら螢多朗を連れて行くといい」
「け、螢くん!?」
横断歩道手前、黄色信号になり速度を落としていたが危うくアクセルペダルを強く踏み込みそうになったのを意地で耐えきった詠子の心臓はバクバクになっていた。
「どどど、どうしてかなあ?」
「二人で行けば店員さんが”ご夫婦一緒に息子さんのお買い物ですか”って言ってくれること間違いなし」
「ん~~~~っっっ」
結局赤信号が変わるなりアクセルをベタ踏みした詠子は、隣で形代を大事に大切に抱き抱え涼しい顔をしている夜宵を家に着くまで一切見れなかった。