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豆炭々炬燵
13436文字
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ダークギャザリング
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【あしゅやよ】「それが君の望みならば──」
裏垢ふせったー支部投稿済み分。誰からも教わらず初めて抱き知ったこの想いは何処までも明け透けで、幼いながらこの先ずっとこの者以外に抱かないのだろうと身体に絡みつく確かな熱に目を閉じたのだった。
──要は大人の階段駆け上がるどころか大人のエレベーター乗っかってしまったあしゅやよのお話。その四。ひとまずこれにて一区切り。
次のお話 ( )
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美味しく残さずぺろりと食べ終わったフレンチトースト。踏み台に乗った夜宵は隣にいる詠子から洗い終わった皿を受け取るなり布巾で水気を拭き取っていた。
「私のお小遣いを渡すから、あの子の服を買って着て欲しい」
「服?」
そう、と頷く夜宵に注いでいた視線をナイフとフォークを教えた場所に片付けてくれている黒阿修羅の背中に向けた。
スポンジで洗い汚れと泡を流水ですすぎ落とした皿を夜宵に渡しつつ詠子が続ける。
「別に構わないけど、どうして?」
夜宵は詠子から濡れた皿を受け取り水気を拭き取っては皿を重ねた。
「恐らく長期戦になるのを踏まえて色々試したいことがある」
夜宵が何を試してやりたいのか分からないが、詠子は特に深く訪ねることも疑うこともしなかった。
最後の皿を流水ですすぎ、夜宵に渡した詠子がエプロンで濡れた手を拭き柔和な笑みを称え問い掛ける。
「どんなお洋服がいい?」
「どんな
……
」
気が付けば皿が拭き終わるのを待っているらしく、隣でひょっこり顔を覗かせている黒阿修羅の存在に夜宵が皿を拭いていた手が止まる。夜宵の重瞳がじっと見詰めてくるので黒阿修羅は小首を傾げた。
「普段着用、ちょっとしたお出かけ用、パジャマの三着。出来れば普段着用とお出かけ用に合わせて靴下と靴も別々で揃えて欲しい。あと下着もお願いしたい」
拭き終え重ねた三枚の皿を黒阿修羅に渡し、自身も踏み台から降りて皿を片す食器棚の前まで行きガラス戸を開けつつ話す夜宵に詠子が顎下に人差し指を添え虚空を見遣り考え込んだ。
その間に片付けし終わった黒阿修羅に「手伝ってくれてありがとう」という夜宵に彼は「うん」と頷き自分より小さな夜宵の手を握ったのだった。
「本当にお金いいの?」
「いいのいいの。卒業生ハウスでそこまでお金使っていないからね!」
「
……
詠子っ」
詠子を玄関まで見送りに来た夜宵の眼差しが如何せん表情の起伏に乏しいのは御愛嬌だとしても救世主を称える群衆の一人といっても過言ではない。
大袈裟だなあ、と微笑ましさを感じている詠子だったが、夜宵と仲良く手を繋いで見送りに来てくれている黒阿修羅の姿に少しばかり残念そうな笑みを浮かべた。
「本当は一緒に行って試着とかしてもらいたいけど流石に無理だよね」
「うん、かなり厳しい」
「それじゃあ──」
こなれた動きで肩に掛けたトートバッグからメジャーを取り出すな否や、詠子は黒阿修羅の身長、胸囲、腕の長さに股下、足のサイズや諸々を計測後、数値をスマートフォンのメモ帳に記録していった。
「良さそうなのがあったらビデオ電話繋ぐから好みの教えてね」
内心何てことのないように計測する詠子に若干引いていたが夜宵はそれを表に出さなかった。
「分かった、この子と一緒に待ってる。気を付けて、いってらっしゃい」
「いってきます」
手を振り見送る夜宵を真似て、握っている逆の手で手を振るう黒阿修羅に見送ってもらい詠子は玄関扉を開け閉て鍵を施錠した。
カチャリと響く施錠された音。間を開けず遠ざかる詠子の気配に夜宵の手を握っている黒阿修羅の力がグッと強まった。痛みを感じるほどではないが、決して解けぬ力に夜宵の視線が手元、そして、握っている手の持ち主を見上げる。
「夜宵、お姉ちゃん」
「(きた)」
黒阿修羅の口が弧を描き、夜宵の手を引き寄せ自身のもとに抱き寄せた。握っていた手を解き、代わりに黒阿修羅の手が腕が夜宵の身体に巻き付いていく。抱き締める力は物理的に強くはない。されど、夜宵の身体は彼女の意思に関係なく動けなくなってしまっていた。
それを分かっていてか、丸みを帯びた柔い夜宵の頬をしとどに濡れた舌で舐め上げた黒阿修羅が小さく笑う。
「僕の夜宵お姉ちゃん、僕だけの夜宵お姉ちゃん
……
」
頬同士を擦り合わせ鼓膜を通り越し頭蓋奥に直接注ぎ込む黒阿修羅の顰めた声色は何処までも黒く甘い。
何も約束を破っていない。それどころか守っている黒阿修羅に夜宵はこれから自分の身に起こる全てを甘んじて受け入れる覚悟を決め重瞳を半分瞼裏に隠した。
抵抗も何もできない、否、することすら出来ない夜宵に黒阿修羅の笑みが深くなるに連れ、夜の川のような瞳から黒目と白目が反転した瞳に上書きされていく。
この時、夜宵の剥き出しの魂に取り憑いていた黒阿修羅の分霊が動き始めた。
丸くて柔いあたたかな夜宵の魂に取り憑いた小さな黒阿修羅の分霊の姿はさながら大きなボールを抱き抱え眠る子供のよう。
無抵抗の魂を彼は捕食することはおろか、文字通り魂に至るまで犯し尽くすことも可能だった。
──おいしそう
黒阿修羅の分霊が口を開け、するりと夜宵の魂に足を更に深く絡ませた時だった。
触れ合い続けた箇所から仄かに伝わる、夜宵の記憶と感情。冬の雨のように辛くて悲しくて寂しくて、でも、春の日差しのように優しくてあたたかい。
黒阿修羅の分霊の胸に流れ込んでくる夜宵の想いに彼は緩やかに反転した瞳を瞼裏に隠して大事に大切に彼女の魂を抱き締めた。
先の欲が完全に消えたわけではない。それ以上に上回る想いが黒阿修羅の分霊に込み上がっていた黒い衝動を抑え込んだ。愛おし気に頬ずりしては満ち足りた吐息を漏らし、やおら瞼を開けるなり夜の川のような瞳で夜宵の魂を見つめ続けた。
「
……
夜宵お姉ちゃん。僕、お姉ちゃんの傍に居たい」
黒阿修羅の口から零れる無垢な願い。黒目と白目に反転しかかっていた瞳は夜の川のような瞳に戻り、迷子になっていた子供が親を見付け駆け寄り抱き締めるように、黒阿修羅は夜宵の身体をぎゅっと抱き締めた。
「傍に居させて、お願い
……
」
じんわり身体の内と耳元から聞こえる黒阿修羅の希う想いを聞いた途端、夜宵の指先がぴくりと動いた。指先から徐々に動かせる範囲と認識を上昇させ、完全に自分の意識で動かせることを確認した夜宵の重瞳が一度瞬き、穏やかな眼差しで自分を抱き締めている黒阿修羅を見遣った。
「
……
いいよ」
「ほん、と
……
?」
「うん、君の気が済むまで私の傍に居て」
泣き縋り付く子をあやすように夜宵は大事に大切に黒阿修羅を抱き締める。
時折、頭を撫で背中を擦る夜宵小さな手のぬくもりに黒阿修羅の胸の内が柔らかな熱を帯びていく感覚に目を閉じた。
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