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黒竹
2022-06-05 01:27:15
22727文字
Public
プロセカ
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#5 BINGO!
【プロセカ】【しずあい】【花里先生パロ】みのはるも出ます。
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駄目元で何度もメッセージを送ってみる。どこにいるの。話がしたい。お願い。会いたい。
それでも返事はひとつもなくて、焦燥ばかりが募っていく。
「もおおぉぉ、会ったら一発ぶん殴って
……
いや無理だわ。あの顔を殴るとか無理無理」
思い出は美化されるものだけれど、あの顔は現実以上に美しくしようがない。雑誌をめくるまでもなく、動画を再生するまでもなく、細部まではっきりと思い出せるあのかんばせ。
それでも褪せない記憶だけじゃ足りない。見たいし、今はもう触れたい。
考えて考えて、愛莉はスマートフォンのキーを操作する。
『卵焼きは甘いのとしょっぱいの、どっちがいい?』
数分してポコンと通知音が鳴った。飛びついて通知からアプリを開く。
返答はどちらでもなく、さらに言えば文章ですらなかった。
写真が一枚添付されているだけだ。小さい池の淵で撮ったらしい、なんら特別なところのない風景写真。
しかし愛莉は一瞬で気づいた。近所だからというだけではない、この池の写真、これは。
初めて会った日に送ってあげた、あの公園の。
矢も盾もたまらず家を飛び出した。間に合うのかは分からない。行ったところで関係者ではないからと追い返されるかもしれない。けれど動かなければ。今は動け動け動け。
彼女はきっと運命の人だ。
写真を撮ろうと思っただけだった。近々、SHIZUKUとしてSNSのアカウントを開設することが決まって、それに載せる写真をいくつか準備しておいてほしいとマネージャーに言われていた。
それで慣れないカメラ操作に四苦八苦していると、画面の上部から通知が下りてきて、うっかり指で触ってしまった。
「あ、あら、これはどうしたら
……
あ、カメラマークがあるからこれで戻れるのかしら」
アイコンに触ってみると、写真を撮る時の画面になったから安心してシャッターボタンを押す。よく分からないまま撮ったせいで、なんの面白みもない池の写真になったけれど、日常風景でもいいとマネージャーがアドバイスをくれていたからきっと大丈夫だ。
雫は安心してホームボタンを押し、それからはてと唇に指先を当てた。
「さっきの、卵焼きがどうとか見えたけど、なんだったのかしら」
それっぽい集団を見つけて駆け寄ると、案の定スタッフらしき若い女性に止められてしまった。「すみません、撮影中なのでここからはご遠慮ください」立ちふさがるスタッフに焦れながら背伸びして雫の姿を探す。
「あの、雫の友だちなんです! どうしても雫と話したくて
……
!」
「そういうふうに言われるかた、多いんですよ。とにかく、関係者以外はお通しできませんので、お引取り下さい」
当然というかなんというか、厄介な押しかけファンだと思われている。しかしこれ以上説明のしようがない。彼女とは友人で、しかし今は連絡を取り合うこともできず、気を遣って二人で出かけても写真一枚撮らなかった。
どうしよう、そこにいるはずなのに。せっかく分かったのに、ちゃんと伝えたいのに。
焦るばかりでどうすればいいか全然分からない。雫との関係を証明するものはなにもなく、この中に入れるような資格も持っておらず、どうにかできるツテもコネもない。
「っ、雫! いるんでしょ! 出てきなさいよ!!」
ファンどころか喧嘩を売りに来たみたいになってしまった。スタッフが慌てて愛莉を押さえ込みにかかる。強行突破すら阻まれて愛莉はその場に膝をついた。
「あ、愛莉ちゃん!?」
いっそ懐かしささえ感じる声だった。しっとりとして少しだけ甘い、奥底に幼さのある独特な声。顔を上げると驚きに目を見開いた雫がこちらを見下ろしていた。
「雫
……
」
「ごめんなさい、本当にお友達なんです。通してあげてもらえますか?」
雫がスタッフに頼み込んで愛莉を解放させる。雫の手を借りて立ち上がった愛莉は、気が抜けてしまって呆然と雫を見つめるしかない。雫の顔を見た瞬間、身体のどこにも力が入らなくなって、唇すら動かせなかった。
雫だ。
本当に、本物の、会いたくて会いたくてたまらなかった、世界でいちばんきれいなひと。
わたしの。
へそのあたりから喉元まで一気になにかがせり上がってきて、全身の脈動が倍の速さになる。
「なんで!」
「わっ、は、はい」
「なんで無視するの! メッセージ送っても既読もつかないし! 電話しても出てくれないし!」
雫が気まずそうに目を逸らした。かばうように肩に触れていた手を離して、両手の指を軽く絡める。
「
……
その
……
私なんかと会っているより、大切な人といるほうがいいと思って」
「それならそう言えばいいじゃない」
「
……
言えなかったの。だってそれを言ってしまったら、私が」
ふつふつと首の頸動脈が脈打っていて、耳の後ろが痛いほど引き攣れている。怒り、なのかもしれない。
雫は愛莉と目を合わせないままでいる。
「愛莉ちゃんを諦めるって、愛莉ちゃんに伝えることになるもの」
「
……
なにそれ」
「
……
ええと」
「諦めないでよ」
「え?」
「遥はただの後輩で、わたしじゃない年上の恋人とラブラブだし、わたしはそういう相手いないから!」
「そ、そうなの?」
呆気に取られている雫の首元を引っ掴んで自分のほうに寄せた。やってしまってからこの服は撮影用のお高いものなのでは、とちょっと思ったけれど、勢いを削がれるわけにはいかないので突き進む。
眼前に迫ったひどく美しい顔を真正面から見据えた。
「わたしを諦めないで。どうしたいのかちゃんと言って。
──わたしに何をしてほしいの、雫」
「
…………
」
雫は迷うように何度か喘ぐと、泣きそうな目でこちらを見てきた。
ああ、本当に、雫だ。泣きそうなだけで泣いてはいない。たとえ桃井愛莉のためであっても、涙を落とすことのできない彼女。それは美しさだ。彼女は顔立ちだけでなく何もかもが美しい。
物事を美醜だけで語るのは愚かなのかもしれない。けれど彼女にはそれほどの価値があった。
この顔を褒められないなら、誰かに愚かだと罵られたほうがよっぽどマシだ。
雫は涙をこぼさないまま、幼子のような瞳で愛莉を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「──愛莉ちゃんのご飯が食べたい」
「うん」
「毎日、愛莉ちゃんの作ったお味噌汁が飲みたい」
まるで古い時代のプロポーズみたいなその告白に、桃井愛莉は思わず笑った。
「分かった。約束」
「本当?」
「ええ。ピクニックにも行きましょ。雫の好きなものだけ入れたお弁当を作ってあげるわ」
雫が困り笑顔でごまかすように首を傾げた。「見られてたの?」「雫が載ってるのは全部見てるもの」まああのインタビューに関してはみのりが持っていたものだけれど、あのあと自分でも買ったからいいだろう。
愛莉が鼓動を治めるために一度目を逸らし、ふっと息をついた。
雫の肩をそっと撫でて、目を合わせる。
「雫が好きよ」
「
……
うん。私も、愛莉ちゃんが好き」
いつからだろう。
もしかしたら、出会ったあの日から。
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