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黒竹
2022-06-05 01:27:15
22727文字
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プロセカ
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#5 BINGO!
【プロセカ】【しずあい】【花里先生パロ】みのはるも出ます。
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愛莉がアルバイトをしている小料理屋はメインは夜だが、昼間もランチ営業をしている。とはいえ大通りから外れた半地下にあり看板も目立たないのがひとつだけの隠れ家的な店なので、あまり人入りはなく、常連以外はほとんど訪れないような状況だ。
だからというかなんというか、後輩にはありがたがられている。
「ごちそうさまでした」
丁寧に手を合わせる遥とみのりに食後のお茶を出しつつ、愛莉が近くの椅子に腰かける。
「毎回毎回、ここでデートするのなんとかならない?」
「デートじゃないですよ」
「デートじゃないよ! たまたまそこで会って、たまたま同じお店でご飯しただけだよ!」
両サイドから言われて耳が痛い。もう知っているんだから、こちらにまでそういうごまかしをしなくてもいいのではと思う。
「別にここにはわたししかいないんだし、わたしはあんたたちが付き合ってるの知ってるし、いいじゃない」
「まだ付き合ってないよ!」
「
……
『まだ』、付き合ってはいないですね」
あわあわするみのりに遥が意味深な眼差しを送る。ごちそうさまだ。ご愁傷さまかもしれない。
「うわ、言い方ー
……
」
そんなに気にすることはないと愛莉は思うのだけれど、どうも二人は頑なだ。盗み聞きしていたさっきも、遥はずっとみのりに対して敬語だし、みのりも当たり障りのない話題しか出していない。
とはいっても、ふとした時に遥が柔らかい視線でみのりを見つめたり、テーブルに置かれたみのりの手を軽く指先でつついてみたり、いっそ堂々といちゃついたほうが恥ずかしくないようなことをしてたりもする。
愛莉としてはちょっと勘弁してほしい。
まあいいけどと肩をすくめ、自分のお茶を軽くすする。
「今日の突き出し、わたしが作ったのよ。どうだった?」
「あ、切り干し大根とお豆腐の小鉢だよね? すっごいおいしかった!」
「うん、栄養バランスもいいし、今度レシピを教えてほしいかも」
二人に好評だったので愛莉も気分が良い。まだ簡単な料理しか作らせてはもらえないが、店主の覚えも良いし、いつか自分の店を持つための努力は順調に実を結んでいそうだった。
「そういえば遥、前に炒り豆腐がうまくできないって言ってたじゃない? 小鉢と一緒に、今度うちで作って見せてあげましょうか?」
「いいんですか?」
「ええ、わたしも練習になるし」
お互い、方向性は違えど料理という共通点があるせいか、遥とはよく相手の家に遊びに行く間柄になっていた。遥は甲斐甲斐しくみのりの食事の世話をしているようで、新しい料理を教えてやると「みのりさん、喜んでくれるかな」などと洩らしながら嬉しそうに料理をするから、照れくさいが気分は良い。そうやって気を張らずにいられる相手が今は愛莉しかいないせいか、遥も遊びに来るとなんだか楽しそうだ。
みのりは、なにか思うところはあるのかもしれないが、そこは大人として何を思っているかなんておくびにも出さない。今もお茶を飲みながら口出しせずに静かに教え子たちの様子を眺めている。
雫ともまた違った心地良さだ。彼女とは一緒にお茶をすることはあるけれど、どちらかの家に招いて過ごすということはない。さすがにそれはセキュリティ的な面でマネージャーの許可が下りなかったと、雫が残念そうに言っていた。
ふと考えてみれば雫と同じように、遥とも弁当がきっかけで仲良くなったのだった。学校の屋上で偶然居合わせて。
「あれ? 遥と初めて会った時、あなた急に隣に来たわよね? それまで話したこともなかったのにどうして?」
今さらだけれど気になる。
尋ねると、遥はなんでもないような顔で、
「先輩が私に興味ないのは知ってましたし、料理上手って話は家庭科部の子から聞いてたのでお近づきになりたいと思って」
悪びれなく答えた。
それ、みのりのためにこっちを利用しようとしていたということなんだけれど。それで隣に座るときにやや申し訳なさそうな顔をしていたのか。
今は隠す必要もないからすんなり答えたし、申し訳ないとも思っていなさそう。それを友情と取っておくことにする。
「ほんと一途ねえ、あんた」
半ば感心、半ば呆れて言うと、なぜかみのりのほうが照れた。
「ま、みのりセンセが可愛いのは分かるけど」
「
……
駄目ですよ?」
「そういう意味じゃないわよ。可愛いけどわたしの好みじゃないわ」
にわかに気色ばんだ遥にうわあとか思いつつ、彼女の肩を押さえにかかる。
「わたしの好みはもっとこう、背が高くて、顔が良くて
……
」
身長は168センチくらいで長いサラサラの髪がきれいで涼し気な目元で大人っぽいけれど中身はけっこう天然な感じの、口元にほくろがあるタイプ。
「桃井さん、面食いなんだあ」
「面食いなんですね」
「ちがっ
……
」
前触れなしに浮かんだ顔が、ちょっとそのへんにはなかなかいないくらいの美形だっただけで、別に面食いなわけではない。
いやそもそも、どうしてあの顔が浮かんだんだろう。
好きな顔、といえば、たしかにそうなのだけれど。
先日オープンしたばかりの茶房で、ほうじ茶と練りきりをいただく。茶室をイメージしたらしく、店内は各席が半個室のようになっていて、雫みたいな人が使うにはもってこいのレイアウトだった。
「でね、最近は飾り切りの授業が始まったの。知ってる? 野菜とかをこう、いろんな形にカットする技法なんだけど」
「ええ、料亭のお料理なんかでお膳の隅に飾られたりしてるわよね。すごいね、そういうのもやるんだ」
「飾りとか盛り付けも料理の一種だもの。ちらし寿司なんかは見栄えも大事でしょ?」
やや行儀悪く、座卓に頬杖をついて楽しそうに話す愛莉に、雫もつられて笑顔だ。彼女は夕方から仕事があるらしくてあまり長い時間はすごせないけれど、逆を言うと、こんなふうに少しだけ空いた時間を愛莉と会うために使ってくれる。まあもちろん、他のモデル仲間とかセレブな友人とかとすごすほうが多いんだとは思う。昼間のちょっとした空き時間に捕まるのが愛莉だけなのかもしれない。
生菓子を楊枝で切り分けつつ、雫が小さく息をつく。
「すごいわね、私にはとてもできないわ」
「わたしだって雫みたいにきれいなウォーキングなんてできないわよ」
「ニュースでやってたわ。雫がショーに出てるところ」業界としては低身長に属するはずの彼女が、ランウェイで堂々と歩いているその姿には、画面越しながらうっかり見とれてしまった。雫が照れたようにはにかむ。
「それは、もう何年もしているもの。練習だって他の人よりたくさんしないとうまくできないし」
「たくさん練習してちゃんと上手くなるなら、それは才能よ。頑張ってるんでしょ、胸張りなさいよ」
以前は見た目の良さだけでやっていけるだなんて思ったけれど、話を聞けば聞くほど彼女みたいに努力している存在を愛莉は知らなかった。どれだけスケジュールが立て込んでいても断らず、規模の大小に関わらずショーの出演が決まればそれに向けて毎日ポージングやウォーキングの練習を何時間もしていて、商売道具である身体のケアも怠らない。
無理をすることならできる。無理をしないギリギリで自己を成長させることの難しさは、愛莉にも想像がついた。
「雫は頑張ってる」
「
……
ありがとう」
「わたしもなにか手伝えたらいいんだけどね。なにかわたしにできることってない?」
雫がごくごくかすかに唇を噛んだ。「じゃあ
……
」
「愛莉ちゃんの料理、また食べてみたいなあ」
「なーに言ってるの。こんな素人の料理なんかより、あなたは高級料亭の仕出しとか色々食べてるじゃない」
そんなお世辞はいらないと笑いながら手を振ったら、雫はちょっと困ったように口元だけで笑った。
芸能界なんて聞きかじりの知識しかないけれど、それでもテレビ番組で高級焼肉店の弁当が出るだとか、有名シェフが腕を振るうレストランの料理を食べるコーナーがあったりだとか、そういうのをよく目にしているから、雫もアイドル時代を入れたらきっとそんな経験を何度もしているに違いない。
すっかり打ち解けて敬語もなくなった関係だが、それに反比例して、雫のことを知るに連れ、自分とは住む世界が違うのだと実感している。初対面で自分が作ったものを食べさせたのだって、無知って怖いと今では背筋が冷たくなる思いだ。
「わたしなんて未だに遥を練習台にしてるもの」
「はるか?」
雫が不思議そうに首を傾げた。そうか、話したことがなかったっけ。
「ああ、後輩だった子のこと。色々あって
……
そうね、今では一番仲がいい子かしら」
「
……
そ、そうなの」
「そうそう、最初に会ったときに食べてもらったお弁当あるでしょ? あれも本当は遥と食べるはずだったのよ。なのにあいつったら当日になっていきなり都合が悪くなったって言い出して」
まったく、仕方のない後輩である。あのあときちんと謝ってきたしお詫びに電車で二時間くらいかかる老舗の名店の水まんじゅうを進呈されたのであっさり許したが。
思い出しながらクスクス笑う。雫は合わせるように口元を緩めた。
「その子とは、よく会ったりするの?」
「そうねえ、バイト先に来たりとか、さっきも言ったけど、うちで料理を片付けてもらったりとか。あとは一緒に作ったりもするし、バレンタインとかホワイトデーとかはだいたい一緒にいるわね。そうだ、この前は一緒に具だくさん味噌汁を作ったのよ。雫にも教えたじゃない? お味噌汁だと手軽に栄養バランスのいい食事がとれるって。遥もそういうのきちんとしてるタイプだから」
「
……
そ、う」
「雫?」
どうしたんだろう、なんだか元気がないような。
雫はうつむけていた顔を弾かれたように上げて、慌てた様子で首を振った。
「なんでもないの。そんなふうに仲のいい人がいて幸せね、愛莉ちゃん」
「ま、たまに生意気だけどね。それはそれで面白いっていうか」
「そっか。ふふ、これからもお幸せにね」
「なにそれ、大げさ」
それからしばらく、いつものように近況なんかを話して、いつもみたいに「またね」と手を振って別れた。
いつもと同じだったはずなのに、その日を境に雫からメッセージが届くことはなく、こちらから送ったものにも反応がなくなった。
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