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黒竹
2022-06-05 01:27:15
22727文字
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プロセカ
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#5 BINGO!
【プロセカ】【しずあい】【花里先生パロ】みのはるも出ます。
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ちょっと休憩入れましょうか、とカメラマンが気遣うように言ってきたのに、雫は小さく頭を下げる。
自分でも分かるくらい仕事に身が入っていない。アイドルグループを卒業して、これからどうしようか迷っている時に声をかけてくれたのが今の事務所だから、その恩義に報いたいと今までずっと真剣にやってきたのに。
もちろん今だって与えられた仕事をきちんとこなしたいと思っている。ポージングも、表情も、目線も、なにひとつ手を抜いているつもりはない。
それなのにカメラマンのこちらを見る顔は冴えない。体調でも悪いのかと心配されて、雫は力なく首を振った。
「まあ、調子悪い時もありますよ。SHIZUKUさんとは何度も仕事させてもらって、きちんとしてる人だって知ってますから、大丈夫です」
「
……
ありがとうございます。ごめんなさい、迷惑かけて」
「だから大丈夫ですって」
ひとりのほうが落ち着けるだろうからとカメラマンがスタジオの外に出ていき、残された雫は休憩用の椅子に腰かけてため息をついた。
「
……
愛莉ちゃん、年下が好きなのね」
知り合ってからこっち、あんなふうに楽しそうに誰かのことを話すことなんてなかった。同じ学校だったらしいから思い出もたくさんあるだろうし、今でもちょくちょく会っているという。こちらがマネージャーに止められている愛莉のバイト先にも顔を出しているようだし、それは、もう、本当に仲がいいんだろう。
「そうよね。私なんてお料理もできないし、食べすぎちゃいけないから味見係にもなれないし、愛莉ちゃんより七つも年上だし」
自分からモデル仕事を取ったらなんにも残らないのだ。知っていた、そんなこと。
裸足なのをいいことに行儀悪く椅子に両足を乗せて体育座りになる。膝に顎を乗せてさっきより深く嘆息した。
昔から見た目で妬まれることが多く、友人は多くなかった。アイドル時代もあることないこと言われたり、センターに選ばれた時にはつらい思いもずいぶんした。結局、馴染めないまま卒業して、その頃の仲間たちとの付き合いはほとんどない。
モデルに転身しても、他の子たちみたいな華やかな雰囲気や会話に馴染めず、ショーの時も一人でいることが多かった。話をする相手は何人かいるが、一緒に遊びに行くような親しい間柄の人はいない。
だから本当に愛莉が初めてだったのだ。仕事も絡まず、見た目で近寄られたわけでもなく、努力を見て褒めてくれる相手。
けれどきっと彼女はそんなつもりはなくて、ただ友人として接してくれていただけなのだ。褒めてくれるもの単なる彼女の優しさだ。それを勘違いするほうが悪い。
「雫、ちょっといい?」
ドアが静かに開いてマネージャーが入ってくる。手にしているペットボトルにはストローが刺さっていた。それを手渡して、自分はもうひとつの缶コーヒーのプルタブを開ける。
「今日はちょっと調子悪そうだね。どうかした?」
「ごめんなさい。仕事はちゃんとしますから」
「予備日も押さえてあるし、今日中になんとかしようとしなくても大丈夫だよ。あまり無理をしてもいけないし」
しゅんと頭を垂れて唇を噛む雫。
「あの、マネージャー」
「ん?」
「私、好きな人ができたかもしれません」
「え?」
「それで、失恋したかもしれません」
「え?」
口にしてしまったらあんまりつらくて、泣きたかったけれど仕事中だから必死に我慢した。泣いて目が腫れてしまったら、撮影を台無しにしてしまう。
そうだ。彼女のことが好きだったのだ。いつからか、いつの間にか、もしかしたら体育館の裏で一緒にお弁当を食べたあの時から。
マネージャーはぽかんを口を開けて、それをふさぎたかったのか前を向いたまま缶コーヒーを口に持っていった。
大きく喉を鳴らしてコーヒーを飲んだマネージャーは、軽く首を傾げて雫の顔を覗き込んだ。
「今さら?」
「え?」
「失恋はともかく、好きな人って、雫、自分で気づいてなかったの?」
「え?」
マネージャーが小脇に抱えていた鞄から雑誌を取り出した。先日発売されたその雑誌、たしか雫がインタビューを受けたものだ。スナップとインタビューで四ページくらいもらっていた。それがどうしたのだろうと雫が首を傾げる。
「誰のことかは知らないけど」マネージャーの手がパラパラと雑誌をめくり、インタビューが載っているページを開いて指で押さえた。
「これ、どう見てもそうでしょ」
小料理屋のテーブルにぐったりと倒れ込んでいる愛莉の後頭部を、上からみのりと遥が見下ろしている。
「重症だね
……
」
他に客がいないのをいいことにぐでぐでになっている愛莉は、優しく肩を叩かれる感触にも顔をあげない。
相変わらず雫とは連絡が取れないし、その理由も分からなかった。あの日、なにかしてしまったんだろうか。帰り際まで雫の様子におかしなところはなかったと思うけれど、気づかないうちに失礼を働いてしまったのかもしれない。モデルには絶対に言ってはいけないことを言ってしまったとか。なんだろう、全然見当もつかない。
もし怒らせたのなら謝りたい。とはいえメッセージも電話も通じず、彼女がどこに住んでいるか知らないし、事務所の住所はネットに載っているから分かるけれどさすがに押しかけるわけにはいかないだろう。
「それにしても、桃井さんがあのSHIZUKUと友だちだったなんて知らなかったよ」
「しかも文化祭のあの件がきっかけって。何がどうなるか分かんないですね
……
」
「
……
それについては、遥にはちょっと感謝してるわ
……
」
彼女と知り合ってからずっと楽しかったし、これからもそうなんだと無邪気に信じていた。何が悪かったのだろう。それとも、もしかしたらスマートフォンが壊れてしまって連絡が取れなくなったのだろうか。あの機械音痴を思えば可能性としてはなくはない。
手の中に収まる機械ひとつ壊れてしまうだけで、あっさりと切れてしまう縁なのか。
「けど、もう会えないかもしれない」
テーブルに突っ伏していた身体を起こし、けれど顔は下を向いたまま呟く。
「うーん、それまでは普通に話してたんですよね? 桃井先輩、そのお店でどんなことを話してたか覚えてます?」
「全部は無理だけど、ある程度なら
……
」
茶房の前で待ち合わせて合流してから彼女と交わした会話を、順繰りに思い出しながら二人に聞かせる。専門学校の授業の話、雫が出演したショーの話、それから、遥の話。
特になんの変哲もない、ニュースになりそうな要素などなにもない世間話だ。
聞き終えた二人は、同じようなポーズでふうむと唸った。
「幸せだねって言われたの? 桃井さん」
「え? うん、たしかそう言ってた。まあ幸せってのは言いすぎだと思うけど、別にあんたたちといるのも嫌じゃないしね」
きゅっとみのりの眉間にシワが寄る。小さく唸り、首をひねる。
「あのね、先生、桃井さんの国語の成績知ってるから言うけど、それはちょっと、受け取り方が違うんじゃないかな」
「へ?」
「考えて。桃井さんの国語力なら解けるはずだよ」
「もう卒業してるんだから、こんなところで先生ぶらないでよ」
言い返しつつ素直に考え始める愛莉。横では遥が「あー」みたいな顔で自身の額を押さえていた。
みのりは顎に手を当てながらうんうん頷き、乾いた笑いをこぼしている。
「遥ちゃん、桃井さんになついてるもんねえ」
「待ってみのりさんそれは誤解があるよ。桃井先輩とは単に気が合うのとみのりさんとのことを知られてるから気安いっていうだけで、別になついてるわけじゃないし、私が幸せにしたいのはみのりさんだけです」
「しれっとそういうこと言わないで
……
」
うるさくて考え事の邪魔だった。いちゃいちゃするのはよそでやってほしい。
あれ?
さっきの遥のせりふ、なにか引っかかるような。
そんな人がいて、幸せね。
幸せって、なんだろう。どういう意味だろう。
「あ、れ?」
たとえば、誰かに「お幸せに」と言われたら、それはどういう意味になるだろう。
「え、あれ? や、あれは、単に友だちと仲良くねって意味だと
……
」
「後輩だった子で、今でも仲が良くて、バレンタインもホワイトデーも一緒だったって話したんでしょ? それは、たぶんそう受け取られるよ」
膝から崩れ落ちそう。バレンタインもホワイトデーも、遥がみのりにあげたいからと頼まれて手伝っただけだ。
迂闊だった、こっちとしては遥のことは大前提としてみのりがいるので、そういう意味になるだなんてこれっぽっちも思わなかった。けれどみのりのことを知らない相手からしてみれば、すべて愛莉と遥の関係性として解釈されるのか。
悲しいすれ違いだ。
「け、けど、だからって切ることなくない? 別に遥とのことを誤解したからって、なんで雫がわたしのこと無視するわけ?」
「あ、それなんだけどね」
みのりがバッグを漁って一冊の雑誌を取り出す。
「桃井さんから話を聞いて、わたしも思わずSHIZUKUが載ってる本買っちゃった。で、このインタビューちょっと読んでみて」
愛莉と遥がテーブルに広げられた雑誌を覗き込み、小さな字で印字されているインタビュー記事を読み始めた。
──今回のテーマは『週末デート』ということでしたが、撮影してみていかがでしたか?
SHIZUKU:デートをした経験があまりないので、実際にお相手がいたらどんな感じだろうと想像しながら撮影していました。
──このカット(編注:P194右上)なんて、本当に視線の先に恋人がいるような、幸せそうな表情ですね。これも想像?
SHIZUKU:そうですね(笑) 写真を見てくれた人をドキッとさせられたらいいなと思います。
──撮影では港の夜景を眺めながらのレストランデートでしたが、ご自身がするならどんなデートが理想ですか?
SHIZUKU:特別なことはなくてもよくて。一緒にカフェに行ってゆったりお茶したり、和菓子が好きなのでお店で買ってうちでのんびりしながら食べたり、お弁当を持ってピクニックに行ったり、そういうのがいいですね。
──意外と庶民的ですね(笑) お弁当はどんなのを作るんでしょうか。
SHIZUKU:実はお料理が苦手なんです。だから、作ってもらうほうがいいかな(笑) ピクニックして、一緒におうちに帰って、次の日の朝にお味噌汁を作ってくれる人と過ごすのが理想ですね。
──クールな見た目とは裏腹に可愛らしい理想のデートでしたね。本日はありがとうございました。
SHIZUKU:ありがとうございました。
顔から火が出そう。その火で燃え尽くされて消えそう。
うぬぼれでは、と思うが、視線の先にいるみのりと遥の表情がそうではないと訴えている。
「これ、明らかに誰かを想定して話してるよね」
「
……
うぅ
……
」
カフェには何度も行っているし、和菓子が好きなのもお互い様だし、愛莉ちゃんの料理が食べたいと何度も言われていた。
反論できない。
いやしかし、本当に? だって向こうはトップモデルで、周囲にはそりゃあ美男美女が溢れているはずで、顔も身長も社会的地位も平均値なこちらが勝てる要素などひとつもないのでは?
「あったんだと思いますよ」
「うん。桃井さんならあると思う」
「
……
どこに?」
「それは本人に聞かないと分かんないけど。あるよ、絶対」
ふふりと笑いながら言ってくるみのりに苦笑を返す。よくドジをしていたり不運に見舞われていたりするけれど、やっぱり良い先生だと思うし、遥は人を見る目があると思う。
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