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豆炭々炬燵
15044文字
Public
訳アリ心霊マンション
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【カミ東】神さま心
🔪🍮で🔪様異文化行事にかこつけて🍮さんを自身の領域内に連れていく神隠しなお話。
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瞬きする間の短い浮遊感のあと、マンションの外で香っていた金木犀の香りが遠ざかる。
軽い着地音がふたつ人気の無かった玄関内にしみ込み溶ける。履いていた草履を脱ぎ、いつもであれば綺麗に揃え直すところだが気持ちが逸って疎かになってしまう。
先に部屋に上がったカミキリは掴んだ東雲の手を緩く引っ張り部屋に上がってと促し、頭の上に疑問符を浮かべているものの東雲は大人しくカミキリに引っ張られ部屋へと上がった。
「大家サん、おカえり」
「え? あ? うん? ただいま?」
未だ混乱している所為か普段の東雲であれば恥かしくて言えない言葉にカミキリの胸があたたかくなる。片手で掴んでいた東雲の手を両手で握り直したカミキリがぐいぐい彼女を部屋の奥、畳が敷かれている和室へと連れていった。
ふたり分の足音。握っている手のぬくもりとやわさ。込み上がるもっと触れたい気持ちが長さの違う指同士を互い違いに絡ませ合う。紛れもない感触がこそばゆさを引き連れ絡ませている指を更に深く折り畳ませる。
だが、東雲の薬指に嵌められている指輪の無粋な硬さにカミキリの火照っていた頬から熱が引いた。
「
………
」
絡ませた指を解き東雲をちゃぶ台の前に座らせ、自分は台所へ歩を進める間も睨み一瞥してしまう。
「あー、そういやこのマンション1階は和室があったんだっけか」
和室をきょろきょろ見回す東雲の気配を背中で受け止めつつ、カミキリは電気ポットからお湯を茶葉を入れた急須に注ぎふたり分の湯飲みと共に盆に乗せ東雲がいる和室へと戻っていく。
和室はベランダ側に接している為、掃き出し窓から外を見上げることが出来た。カーテンに遮られず透明なガラス越しから見た外の風景はとっぷり暮れており、昏いガラスに映り込む自身の顔、そしてカミキリの姿に東雲は意識と視線を外から戻した。
カミキリが当たり前のように東雲の隣に腰を下ろし、色違いの湯飲みを彼女の前に置き静かに急須を傾け煎茶を注ぐカミキリに問い掛ける。
「ここカミキリさんの部屋?」
一瞬東雲を横目で見遣ったあと、カミキリは自分の湯飲みにも煎茶を注いでいく。
「ソウだよ」
「ふーん」
殊更驚くわけでも取り乱すわけもない。ただ現状を把握しようとする東雲にカミキリが交互に淹れ終わった煎茶をすすめる。
「どうぞ」
出された物を何も疑わず湯飲みに口を付ける様子をカミキリは眺め続け、煎茶を飲みホッと一息つく東雲との距離を静かに狭めた。拳ひとつ分も開いていない。どちらかが身動ぎでもすれば容易く触れ合う距離。引いていた熱が再びカミキリの頬と耳に宿り、そわそわする気持ちを誤魔化すため彼もまた湯飲みに口を付けた。
カミキリが喉元を通り過ぎ胃に落ちていく煎茶の熱さに心を落ち着かせている時だった。
不意に感じた視線。湯飲みを口に付けたまま、目だけを動かせば視界いっぱいに広がる東雲の顔にカミキリの肩が跳ね上がった。
すわ外でエンジンが掛ったバイクでも停まってるんじゃなかろうかと思うくらいの心臓の音がカミキリの体中に響き渡る。
「大家サん
…
どうしたノ
……
」
カミキリの方へ体を完全に向け神妙な面持ちで夜明けを告げる東雲の瞳が真っすぐカミキリを射抜いていた。
視線を全く逸らさずカミキリの手元から湯飲みを掴みちゃぶ台の上に置き、その手を東雲はそのまま彼の肩の上に乗せた。
「カミキリさんこっち向いて」
淡々と言う東雲にカミキリが彼女と向かい合うよう座り直す。膝が触れ合うどころか両膝を立てた東雲の間にすっぽり正座した状態で収まってしまった。双方向かい合う態勢になったからか東雲がカミキリに顔を更に寄せていく。眇められた東雲の瞳。ふざけているとは到底思えない真剣な眼差しにカミキリは息を飲んだ。
「(こういうのハ
……
)」
ただやぶさかではない事をカミキリの未成熟な右手が東雲の上着の裾を控えめに掴み表していた。やおら瞼を閉じれば鼓膜を擽る顰められた東雲の声。
「目、閉じないで」
閉じていた瞼を開け、目の前に東雲の顔が広がるもカミキリは逸らさず視線を交差させた。
「(見ながらシタイ?)」
互いの呼吸が聞こえる程の近さ。だが、東雲はそれ以上距離を詰めることはせず、ただただカミキリの瞳を見続けている。もどかしさと恥ずかしさ、何より思っていた以上に期待していたようで、カミキリの左手が東雲の頬に触れたくて動き出す。
「(僕からスルべきなのかナ
……
)」
閉じていた口を微かに開けば、震えながらも熱を孕んだ吐息がカミキリの薄い唇から零れ落ちた。
東雲の夜明けを告げる瞳に映り込むカミキリの姿は実に”待ちの顔”そのもの。瞳に映り込む自身の姿が大きくなるに連れ鼓動が速くなり、やや躊躇しているが東雲の頬に触れ撫でようとするカミキリの指先に明らかな意志が宿る。
少しだけ触れ引っ込むも改めて東雲の頬に触れた指先。指先から伝わるすべすべと柔らかな頬に沿って掌を添えた。カミキリの掌がするり東雲を頬を撫でるが、彼女は一切動じず変わらずカミキリの瞳を見続けている。
心をざわつかせる衝動に身を任せたカミキリの口から想いが小さな声となって溢れた。
「大家サん──、ス、ヴッ!?」
「ちょっと動かないで」
だが、残念極まりない事にカミキリの想いが最後まで綴られる事は叶わず。何の突拍子もなく東雲の両手がカミキリの頬をむぎゅっと挟み、彼の零れ落ちそうな瞳を凝視続けていた。
一体何が起こったのか皆目見当がつかないカミキリが東雲を見上げ、その小さな手を添える形で彼女の手を掴んでいる間も、東雲はカミキリの瞳を覗き込み漸くひとつの答えに辿り着いたのか表情をパッと明るくさせた。
「カミキリさんって目の色、前と違うよね?」
「
……
?」
「カラコン、じゃねえよな。一番最初に会った時は真っ暗な黒って感じで、そっから深い青みがかった夜空の色になってさ。最近つーか、さっき玄関先で見た時にカミキリさんの目の色変わってるなって思ったわけ。で、今よくよく見たらやっぱり目の色が全然違うのよ」
大分興奮気味に話す東雲が自身の親指の腹でカミキリの目元を緩く撫ぜる。
「晴れ渡った空の色だ、何処までも雲一つない吸い込まれそうなくらい明るくて綺麗な青空の色」
我ながらいい表現だ。そう頷いた東雲がカミキリの頬を挟んでいた手の力を緩め、わしゃわしゃ癖っ毛で柔らかいカミキリの白髪を撫で笑う。
「ま、目の色が変わってもカミキリさんはカミキリさんだし」
「
……
どの色が、イイ?」
頭を撫でているカミキリからの問いに東雲は少しばかり耽りあっけらかんと答えた。
「どの色もなにも全部いいとしか。私、カミキリさんの目の色が変わるのも含めて好きだぜ?」
俯いていた顔を上げるや否やカミキリの大きな目が瞠られ同時に癖っ毛の髪がぼわっと広がり、体の向きと顔を東雲に向けたまま器用に後退り部屋の間仕切りにもなっている格子状の襖の影にその小さくなった身を隠した。そろりと顔を半分だけ覗かせ此方を窺うカミキリの姿に東雲が「猫じゃん」と言おうとした瞬間──。
ぐぅうううううう~~~~~
東雲の腹が鳴った。思えばお腹が空いている。空腹を宥めるように腹を擦る東雲の姿にカミキリの瞳の色が空色から宵闇の色へと変わり、そのまま台所へと歩を進めた。
「夕飯ハ白菜と豚バラのミルフィーユ鍋だよ」
「んじゃ、私もそろそろお暇しないとな」
「大家サんの分もアル」
東雲に背中を向け既に下準備を終えた鍋諸々を取り出しコンロの上に乗せるカミキリ。
「え、悪いって。それにツヅミが夕飯準備してっから」
数回点火する音を立てコンロに火が点いたのを見るなり、顔だけ振り返ったカミキリの瞳は全ての光を飲み込むほど黒く染まっていた。
「管理人さンには僕カラ言う。大家サん、食べテ」
「でもなぁ」
「食べテ」
絶対に引かない有無を言わせないカミキリが纏う重苦しい空気にわざと気付かない振りをして東雲は申し訳なさそうにされど明るい声色で言葉を紡ぐ。
「それじゃあ今回はカミキリさんのご厚意に甘えて食べていこっかな」
でも、それはカミキリの瞳の色を黒から宵闇色に戻す程度の力しかなく。
「大丈夫。コレからもずっと大家サんの分含め二人分作るカラ」
遠慮なく食べテ。
うっそりと告げるカミキリの声音は明けぬ夜の色を称え、東雲の周りに絡み纏わりつき離れなかった。
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