しろくまたたくはくしゅんさん
2023-10-04 20:46:23
8734文字
Public
 

【アルカヴェ】31回目の朝のこと

ねぼすけさんなお話



 少し夜更かしをした朝。やや体は重たい。今日はほどほどに仕事をするとしようと肩を回す。キッチンから音はしない。疲労で深く寝入っているか、二日酔いで動けないか。こういう朝はゆっくりできない。さっさと身支度をして簡単な朝食を作らねば。
 ポットに水を入れコンロの火が安定するまでの間、野菜棚を覗く。トマトにレタス、ニンジンのピクルス。必要な分だけ取り、洗い、切る。フライパンを温め油をひき、まずはベーコン。それから卵を割り焼く。ベーコンを裏返し弱火にすると昨日酒のつまみにしていたナッツを砕きそこにソースを混ぜた。ピタパンに野菜、ピクルスを詰めフライパンを火からあげる。焼きたての目玉焼きとベーコンを詰め、最後にソースをかけた。この時点で同居人が起きる気配は無いので、湯が沸いた時点で火を落とす。コーヒー豆を挽き、フィルターに入れ上の容器に湯を注げばゆっくりと注がれる音がした。カーヴェが設計したものだが半自動で美味しいコーヒーができる装置だ。
「いただきます」
 ちょうど良い温度に冷めたピタを頬張る。昨日の夜、メラックはそのままリビングの棚に収まっていたらしい。浮遊しやって来ると「ピポポ!」と元気に挨拶された。
「おはようメラック。この間さしたオイルの調子はどうだ」
「ピッピポ~♪」
「そうか。よかったな」
 食後のコーヒーを飲みつつメラックの話(電子音を鳴らし設計図を展開するだけだが、非常にわかりやすい)を聞きつつ意見を述べていると、もう少しで家を出る時間となった。
「君の主人はまだ起きてこない。具合が悪いのかもしれないな」
「ピポ~」
 単なる皮肉であったが、メラックは心配そうな顔をして廊下を飛んでいく。食器を片し、歯を磨いている間も廊下から聞こえる電子音。やれやれと首を振りながら足を向ける。
「カーヴェ、そろそろ起きたらどうだ」
 耳を澄ませばわずかな物音。起きているじゃないか、と叩きつけようとした拳を控える。
「────っ、もう少し、寝る!」
「そうか。勝手にしろ。俺はもう出かける」
「い、ってらっしゃ、い!」
 酒に焼けた言葉。途切れ、掠れ、出しにくそうな声色だ。どれだけ強い酒を飲んだんだ、帰ったら問い詰めてやろう、と予定を埋めつつ身を翻す。メラックは安心したようで、ふわふわと浮きながらついて来た。見送ってくれるらしい。
「行ってくる」
「ぽぽ~!」
 リビング側、外からギリギリ見えない位置で音をなるべく小さくしたメラックは非常に賢い。持ち主は見習ってほしいものだ。
 シティは今日も晴れ、穏やかで、平穏そのもの────日常がはじまろうとしていた。



31回目の朝のこと