しろくまたたくはくしゅんさん
2023-10-04 20:46:23
8734文字
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【アルカヴェ】31回目の朝のこと

ねぼすけさんなお話



「ねーアルハイゼン。こっち、むいて……?」

 一度目の口づけはそうしてもたらされた。避けられるくらい緩慢な所作であったのに、見とれて、誘われるように唇を合わせた。キツいアルコールの匂いに眉が寄ったが、それでも良かった。すでに花開いていた気持ちに、一滴の水が与えられたのだから。
 そして翌朝、絶望する。カーヴェは昨晩の甘い記憶など覚えてはいなかった。酒に弱い体質で、今まで記憶を保ったまま翌朝を迎えたことがないのだ。
 二度、三度と重ねていくうちに、期待値は0に近づいていく。合わせるだけで、心が伴わない空しい行為の繰り返しだ。楽しそうに笑っているときもあれば、ぐずぐずと泣きながら奪われることもある。酔っ払いの行為だ。酒場でも誰かれ構わず接吻をしているのかとランバドに尋ねたこともあるが、「むしろ酔ったときのほうが触られるのを警戒している」と苦笑された。
 自分にだけ許している行為。繰り返せばいずれは、と期待することは、十を超えたあたりであきらめている。惚れた腫れたの弱みを握られている以上役得と思うしかない。
 二十を超えたあたりで、いっそのことなにか衝撃的な出来事で分からせてやろうかと考えた。翌朝まで同衾する、あるいは酒場でわざと唇を奪わせ周囲に見せつける。いくつか案が浮かんだが、もしそれでカーヴェが深く傷ついたとしたら。根は誠実な男だ。危害を加えたと思い込んで家を出ていこうとするかもしれない。
 結論が出ない、さして急を要するでもない問題をずっと脳に留めておくことは非効率だ。そもそも酒に逃げる行為をする時点で相当なフラストレーションを抱えているのだから、その部分から少しずつ改善していくしかなかった。
 酒に酔う回数も減ればこうした戯れのような儀式も減る。フラストレーションが堪らない程度に酒の頻度を減らすのはなかなか骨が折れた。結果的に家で飲むことが多くなり酒に酔いつぶれることは無くなったが、唇を奪われる頻度は増えた。
 不本意ながらこの酒臭い微熱のやり取りに慣れるほうが早い気がする。口づけの度に踊り締め付けられる胸の痛みを無視すればいいだけの話だ。溺れても沈んでしまえば、ほとんど波は立たないのだから。
 今日も目を瞑る。恋に目覚めている心を眠らせるように深く。深く。
 たとえ、寝ぼすけと言われようと、この心を目覚めさせることなどあってはならない、と────