吾妻
2023-12-31 22:28:41
10125文字
Public アークナイツ
 

Short Story log03

SNSなどに投げ込んでいた短い話のまとめです。
基本的にいちゃついています。
お相手がバラバラですが、それぞれ別の世界線の話ということでひとつ……


甘い酩酊

「ドクター、逃げないでください」
「逃げるわけじゃない。とにかく君は水を飲んだほうが……!」
「平気です。……平気だから、ちゃんと顔を見せて」
 細身に見えて大きな掌が、頬を両側から包み込んで固定する。
 鼻先が触れそうな距離から橙色の瞳にじっと顔を覗き込まれて、思わず腰が引けそうになる。
 ただでさえ整った顔立ちなのに、今日の“彼”はどこからどう見ても酔っ払っており、灯火を思わせる穏やかな瞳にとろりと潤んだ熱を宿している。
「ドクターは綺麗ですね」
 ふにゃ、としか形容できない表情の崩し方をしてルーメンが微笑むので、ドクターは「う、ぐ……」と格好のつかないうめき声を上げてしまった。

 久しぶりに本艦を訪れたルーメンが、顔なじみのエンジニアたちに捕まって飲み会に連行されたのは数時間前のこと。
 ようやく帰ってきたかと思えばこの有様だ。酒に弱いと聞いたこともないので、長距離移動の疲れとエンジニアたちの熱烈歓迎が重なった結果なのだろうが、予想だにしない酔い方に戸惑いを隠せない。
 確かにドクターとルーメンはいわゆる“恋人同士”と呼ばれる関係にあるし、夜を共に過ごしたこともある。それでも、常に穏やかで紳士的な態度を崩さない彼がこれほどふにゃふにゃになったのを見るのは初めてだ。
 優しい物腰の裏側に、少年のような好奇心を隠し持っていることも、自分で決めたことは何が何でもやり通す意志の強さもきちんと知っている。知ってはいるが――
……やっぱり君、酔ってるだろう」
「少しは酔ってるかもしれませんが、嘘でも冗談でもないです」
 少し? これで? そんなはずはない。
 こんなふうに顔を近づけると、いつも困った顔をするのはそっちのほうなのだが。
「ドクターはいつも、僕のことを綺麗だと言ってくれますけど……ドクターのほうがずっと綺麗です」
「そんな……ことは……
「赤くなってる……。かわいいですね」
 男のものでしかない掌が、額にかかる前髪を掻き上げて、あらわになったそこに優しくキスを落とされる。
 思わず驚いた猫のように飛び上がりそうになったが、その動きすら、上から抱き込まれて封じられてしまった。
……会いたかったです、ドクター」
 青年の頭が肩に落ちてきて、埋まった顔からくぐもった声が体に直接響く。
 同時に、上から覆うように回された腕に、強く抱き締められた。
 腕に込められた力は息苦しさすら感じるほどで、離れていた間彼がどれだけ会いたいと思ってくれていたのか、体に直接知らしめられる。
 優しい彼のことだから、酔っぱらいでもしなければ、こんなに素直に甘えてくれないかもしれない。
 そう思うと、酔っ払いの戯れとはねのけるのも可哀想な気がしてきてしまった。
……ジョディ」
 ちょうど口のあたりにある尖った耳は、ほんのりとピンクに染まって随分と可愛らしい。耳元で囁くように名前を呼べば、重みを預けてもたれかかってくる男の背がぴくりと震えた。
「今日はこのまま君を抱き枕にするつもりなんだけど、その前に水を飲んでくれる?」
………………わかりました」
 熟考に熟考を重ねたのか、随分と長い沈黙の後で、ルーメンが承諾を寄越す。
「じゃあ、とりあえずベッドに座って。水を持っていくから」
 渋々といった体で解かれる腕を引いて、ルーメンをベッドの縁に座らせる。
 細長い体が不服そうにうなだれているのを見て、ドクターは、先程自分がされたようにルーメンの前髪を掻き上げて、
……私も会いたかったよ」
 その額にそっとキスをした。


【終わり】