吾妻
2023-12-31 22:28:41
10125文字
Public アークナイツ
 

Short Story log03

SNSなどに投げ込んでいた短い話のまとめです。
基本的にいちゃついています。
お相手がバラバラですが、それぞれ別の世界線の話ということでひとつ……


ミッドナイト・ミッション

……やはり、予想通りでしたね」
 虫の知らせとでも言おうか、はじめから予感はあったのだ。

 深夜、上司の私室を訪ねたパズルは、デスクに突っ伏しているドクターの姿を発見して、小さく嘆息した。
 部屋を訪ねる口実に携えてきた書類をひとまずデスクに起き、ドクターの細い肩にそっと手を乗せる。
「ドクター、お疲れなのは承知の上ですが、お休みになるならベッドに。このような姿勢では、お体に障ります」
 軽く揺すって優しく声をかけても、上司から返ってくるのは「……んー」という返事なのか寝言なのかわからない声ばかりだった。
 やはり、執務中に違和感を抱いたところで、無理矢理にでも休ませるべきだったのかもしれない。ここ数日のドクターの仕事量がどれほど過酷だったかは、秘書を勤めていたパズルが誰よりも知っていたのだから。
 やんわりと休憩を打診しても「大丈夫だから」とかわされ、その度に引き下がって来た結果がこれだ。夜分遅くに約束もなく女性の部屋を訪ねるのは、いくら親しい関係であってもマナー違反だと思ってはいるが、さすがに今日ばかりは見過ごすわけにもいかなかった。

「自分で動かれるつもりがないのなら、私が動かしても構いませんか?」
 耳の側に頭を近づけて、心持ち抑えた声で囁きかけると、返ってきたのはまたしても「んー」という生返事だった。日頃は隙のない振る舞いを崩さないドクターがこれほど無防備だと、色々と心配になってくる。訪ねてきたのが自分ではなく、邪な想いを抱く者だったらどうするつもりだったのか。
 ……自分にだって、邪念がないとは言わないが。
 それでも、疲労困憊の恋人に手出しをしない分別くらいはあるのだ。そのへんの躾のなっていない野良犬とは違って。
「では、失礼しますね」
 聞こえていないようにも思えたが、一言断りを入れてから、パズルはドクターの体を抱き上げた。
 素直に預けられた体は軽く、腕には柔らかさよりも薄い体の感触が伝わってくる。すぐそばのベッドに仰向けに横たえ、パズルはドクターの細い首筋に掌を這わせた。
(熱は……なさそうですね。呼吸も平常。脈拍に乱れもない。体調不良というわけでもなさそうだ)
 ひとまず安堵の吐息を漏らす。今彼女に必要なのは泥のような睡眠だろう。

……とはいえ、このままというわけにも行きませんね」
 形の良い自身の顎に指を当ててしばらく思案したのち、パズルはドクターの襟元に手を伸ばした。


             *


「おはようございます、ドクター。昨晩はよく眠れましたか?」
 翌朝、ドクターの部屋を訪れたパズルが目の当たりにしたのは、ベッドの縁に腰掛けて不思議そうな顔をしている上司兼恋人の姿だった。
「どうかしましたか? 不思議そうな顔をして」
……いや、大したことじゃないんだけど。昨日の記憶が曖昧で」
「お疲れだったからでは? ここ数日随分と忙しかったでしょう」
「それはそうなんだけど……あの状態の自分が、きちんと着替えてベッドに入れたか疑問なんだよね……
 ボタンの掛け違いもなく部屋着を着込んだ姿のまま、ドクターはしきりに首をかしげている。
「そういう日もあるのではないですか? 普段はできていることなのですし、良いことだと思いますが」
……というか君、昨日私の部屋に来た?」
「なぜそのようなことを?」
……君の声を聞いた気がしたから」
 ドクターの言葉に、パズルはわずかに目を瞠る。しかし、すぐに驚きをしまい込んで、美しい微笑を浮かべた。
「私の夢を見てくださるとは光栄です。……さぁ、そろそろ支度を。朝食の用意はできていますから」
 どうやら真相を明かしてくれるつもりはないらしい。ドクターは首をひねりつつ、促されるままにベッドを降りた。
 着替えのために上着を脱いだドクターの目に、鎖骨の下あたりに刻まれた赤い印が飛び込んで来るのは、あと数分後の話である。


【終わり】