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Hannigramクロスオーバー掌編



 今日は週に一度のセックスの日だった。アダムの準備があるので別々にシャワーを浴び、二人揃ったら手を繋いでベッドルームに向かう。ベッドに腰を掛けるが早いか触れるだけのキスを繰り返す。

 何度しても飽きないいつもの流れ。だけどいつもよりちょっとだけキスの時間が長い。焦れたアダムがルーカスの口に舌を入れようとすると、ルーカスがアダムの肩を掴んで押しとどめた。

 彼はアダムの目を見てとても真剣な顔で「頼みごとがあるんだ」と言った。アダムは首を傾げる。

「今日はナマでする?」
「いや……そうじゃなくて……
「前に頼みごとされたときはそうだったから」

 ルーカスが情けない顔をしたので、アダムは首の角度を元に戻した。

「今日はこれを着て欲しいんだ……

 そう言ってベッドサイドの紙袋を引き寄せるルーカスの顔はさっきよりももっと情けなくて、まるで叱られた犬みたいだ。アダムには彼がそんな表情をする理由がわからない。

 袋から出てきたのは、ルーカスがクリーニングに出していた彼自身のYシャツと、パッケージに包まれたままのシームレスストッキングだった。Yシャツの色は白で、ストッキングの色は黒。どちらも裸の上から着てほしいと言われてアダムは素直にそのとおりにした。そうすればルーカスが喜んでセックスが盛り上がると思ったからだが、いざ履いてみるとストッキングの布はぴったりと股間に貼りついて窮屈だ。その上から着たルーカスのYシャツは丈が少し長く、ちょうど太腿の付け根を覆うくらいの位置で裾がひらりと揺れる。

「これでどうするの?」

 セックスをするはずだから、せっかく履いたけれどまた脱ぐのだろうか。アダムはぼんやりそう思う。

………いて」
「え?」

 ルーカスは耳まで真っ赤に染めて蚊の鳴くような声で言った。訊き直したらルーカスはなんとか耳に届く大きさで繰り返してくれたが、それでもやはり意味がわからない。 

 ストッキングを履いた足で僕のペニスを扱いてくれ、だなんて。

*

 ベッドの上に向き合って足を投げ出すように座る。ストッキングに包まれたアダムの足が、パジャマのズボンごと下着を脱ぎ捨てたルーカスの股間に伸びる。ルーカスのものは既に勃ちあがり始めている。

「想像だけでこんなふうにしちゃったの?」
「ん……

 アダムの問いかけは無邪気な質問だが、ルーカスは唇を噛み締めて頷いた。アダムは丸めた足指で長大に育ちつつある幹をくすぐった。ストッキングが皮膚をするする撫でる感触が面白くてアダムはすぐに夢中になる。

……っ、ふ……

 ルーカスがゆるく首を振り、それに合わせて指通りのいい前髪がぱたぱたと跳ねる。ルーカスの感じている顔はとてもきれいだとアダムは思う。

「ポルノでこういうプレイを見たことがあるけれど網タイツを履いた綺麗なポルノスターがハイヒールで共演者の股間を踏みにじる作品でぼくは痛そうだから好きじゃなかった。でもわざわざぼくが履けるサイズのストッキングを買ってきたってことはルーカスは好きなんだね」

 話しながらアダムは上機嫌にルーカスのペニスを弄ぶ。まだふわふわとやわらかい睾丸を指先で揉みこむとルーカスは全身を跳ねさせながら怯えた目でアダムを見上げた。アダムはその瞳に浮かぶ感情を読み取ろうと頭を巡らせ、「踏みにじる」と言いながらそこを強く揉んだからだと気がつく。けれどルーカスのペニスは一向に萎える気配がない。むしろ逞しさを増し、先端には透明な滴を滲ませている。矛盾する反応にアダムは混乱した。いずれにせよこれ以上足でここを弄りつづけたらせっかくのストッキングも汚れてしまう。離そうとすると「やめないでくれ」とルーカスが呻くように言った。

 それは「抜かないで」と自分がルーカスにねだるときの声色とそっくり同じだった。抜かないで、このままなかにだして。思い出してアダムの下腹が疼く。内股をもじもじと擦り合わせると、ストッキングの中でアダムの欲望も存在感を増していく。同時に伸縮性のある生地に勃起を妨げられ、アダムはそこを自由にしたくてたまらなくなる。

「ルーカス……これ、脱ぎたい……一緒にきもちよくなりたい……

 いつものシックスナインにしようよ。

 ごはんを食べようと誘うときとまったく変わらない口調で、しかし息継ぎのあいだに甘い吐息を零しつアダムは言った。しかしルーカスは首を振る。あとでもっときもちよくなれるよ。少しの不快は快感のスパイスだから。

「だけど僕もアダムをきもちよくしてあげたい」

 だから、とルーカスは半身を起こし、アダムをいとも簡単にひっくり返して尻を天に掲げるような姿勢をとらせた。アダムはよくわからないまま枕に片頬を埋め、「もっときもちよくなれる」という言葉に胸を高鳴らせている。

 ほう、と背後のルーカスが感嘆の吐息を漏らした。アダムの尻たぶにルーカスの手のひらが這って、その弾力を確かめるよう指の腹がやわらかな肉に食い込む。指先はそのまま太腿のあいだをくぐってアダムの縛められたペニスに触れた。アダムがぴくりと震えた。

「んっ……
「すっかり汚れちゃったね」

 亀頭にぴったりと貼りついたストッキングが先走りで濡れている。ルーカスの口調はやさしく穏やかでアダムを責める意図は感じられないが、アダムは反発するように首を振った。

「だっ、から……脱ぎたいって言った……ぁっ」

 ルーカスはアダムの身体に背後から覆いかぶさりながら「うん、ごめんね」と耳元で囁いた。ルーカスの北欧訛りの英語はやさしく、その低く掠れた声と一緒になって耳孔に響くとき、アダムの全身からは力が抜けてしまう。

「ひゃ、っ!」

 ずるり、と質量と熱を持ったものが背後からアダムのアヌスに擦り付けられる。押し入られるのを待ちわびてアダムの粘膜はぴくぴくと震えたが、熱と熱のあいだには薄い布が一枚、二人の邪魔をしている。もどかしくてアダムの瞳に生理的な涙が浮かぶ。ルーカスはアダムの尻たぶを掴んで開くと、ストッキングのなまめかしく透けた黒の奥に覗く桃色の粘膜を目がけてピストンをした。

「や、だ……ちゃんとして、っ……ぁあッ! やっ! るぅのおちんちん、ちゃんといれてっ……

 アダムは寝台に埋めた頬と肩に体重を任せ、震える両手をストッキングに伸ばした。脱ごうとしていることを悟ってルーカスはその手を止めようとする。ストッキングが薄く伸びている割れ目の上部に指を押し込み、性急に破ろうとしたが、アダムがひときわ大きな「いや!」という声をあげたのでルーカスは動きを止めた。

 恋人を本気で怒らせてしまったのではないかとルーカスはおそるおそるアダムの表情をうかがった。アダムは濡れた瞳を背後に流して「ぼくにくれたものを簡単に破らないで」と唇を尖らせた。付き合いだす前に送ったサンキューカードさえ取っておくような、そんなところがアダムらしいとルーカスは思って、「そんなのいくらでも買ってあげるよ」とは言わなかった。

 アダムはルーカスがなだめるようなキスを頬に落としてくるのを受けながら、ストッキングをなんとか太腿のあたりまでずり下ろした。濡れたペニスがひっかかって、外れたときの反動でぶるんと大きく震え、アダムは「んっ」と甘い声を漏らして下唇を噛んだ。ルーカスはごくりと唾を飲む。中途半端に下ろされたストッキングのゴム部分がアダムの白くやわらかな太腿に食い込んでいる。白いシャツの裾と黒いストッキングのあいだからちらりと見える肌理の細かく白い肌。三十を越した男性のものとは思えない。かわいい、とルーカスは思わず呟いた。

「ああ、アダム、君ってほんとうに……
「いいから早く……

 ルーカスの言葉に被せて、アダムが誘うように尻を揺らす。君ってほんとうに最高。言葉にする代わりに、ルーカスはアダムの願いを叶えてあげた。

*

「これって洗えばまた履けるかな?」
……(次があるんだ)」