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Hannigramクロスオーバー掌編
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週末の土曜日、アダムとルーカスは博物館に行く予定を立てていた。アタプエルカはシマ・デ・ロス・ウエソスで発掘された、旧人類からホモ・サピエンスまでの人骨が一堂に会する企画展が催されるからだ。
アダムは地中深くから現れた化石なんかより遥か天空のものごとのほうが好きだけれど、地下鉄でポスターを見たルーカスがおもしろそうだと言ったのだ。そして隣を歩いていたアダムも同意した。この世界に存在する未知のものごとについてルーカスと語り合うのは、いつだってアダムに新鮮な驚きを与えてくれる。
しかし週末までの道のりは長く、折しもその時期はルーカスが勤める専門学校の試験期間中だった。明け方まで回答用紙に向き合い採点する日が続いた。
朝、アダムが起きてキッチンへ行くと出勤前に仮眠をとるべくベッドルームに向かうルーカスとすれ違う。ルーカスはコーヒーの飲み過ぎでカフェインが効かなくなってきたと疲れた顔で笑った。そんな表情を見るのは辛かったけれど、アダムはいつもどおりの規則正しい生活を続けていた。彼にできるのは家事当番表のマグネットを全部自分の列に並べかえることくらいだった。
*
目が覚めると隣にルーカスが眠っていた。服も着替えずベッドに倒れ込んでいる。まるで気絶しているように見えたけれど、よく観察すると背中が規則正しく上下していた。かすかな寝息も耳に届く。アダムはホッと息を吐いて、掛けたままになっている眼鏡に手を伸ばした。掴むと手の中でかちゃりと弦が音を立てる。ルーカスの淡い色をしたまつ毛が震えた。
「
……
おはよう」
アダムの恋人は寝ぼけた瞳でふんわりと微笑んだ。アダムは「起こしてごめん」と囁いて、そっとルーカスの頭を撫でた。そのまま、とろとろとした微睡みの中に戻ってくれればと願っていたけれど、ルーカスは目を眇めてアダムへ両腕を伸ばした。ハグを求めるサイン。
朝日の中で見るルーカスはなんだか痩せてしまったようで、アダムは胸がキュッとした。それは初めて知る感覚だった。ルーカスと一緒に暮らしていると、これまで知らなかった気持ちを教わることがとても多い。こんなときはどうすればいいのかわからないまま、アダムはルーカスの腕の中に収まった。ルーカスの身体に体重をかけないよう細心の注意を払いながら。
「今日は博物館に行く予定だったね」
ルーカスがそう言ったので、アダムは動揺した。そしてそんな自分に驚いた。確かに予定の上ではそうだったけれど、
「無理はしないで」
アダムはようやくふさわしい言葉を見つけた。そう、それから「ルーカスが都合のいいときでぼくはいいから」。
「ありがとう」
ルーカスの笑みが深くなった。アダムはまだ何かを言わなければいけないような気がした。自然と早口になった。
「ルーカスは何かしたいことがある? 今日はルーカスのしたいことをやろう」
ルーカスは目を丸くしたあと、考えこむようにちょっと唇を突き出した。
「
……
何もしたくないな。ただこうしてきみとだらだらしていたい」
そう言ってからルーカスはすまなそうに笑った。アダムがこの世で一番苦手なのは何もせずにぼーっとすることだと知っているからだ。案の定、眉をひそめてしまったアダムを見てルーカスは「アダムは好きなことをすればいい」と言った。ぼくは一人で平気だから、と付け足す声音は気分を害したふうでもなく、残念そうな響きもない。けれどアダムは首を振った。
「
……
いい。ぼくもルーカスと一緒にいる」
それからアダムはベッドに身体を横たえた。そう、とルーカスは吐息で微笑んで、アダムの胸元に頬を寄せた。
「何もしないのが難しいなら、ぼくの顔を見ていればいい」
眠りに落ちる直前、ルーカスがそう言ったので、アダムはそのとおりにした。呼吸でかすかに揺れる前髪を、光に透ける長いまつ毛を、飽きるまでずっと見つめていた。そしてそれはルーカスがふたたび目覚めるまで続いたのだった。
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