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Hannigramクロスオーバー掌編



 アダムは生まれたばかりの仔猫で、おとこのこです。

 彼が憶えているいちばん古い風景は三面を真っ白な壁、一面をしましまの冷たい棒に囲まれた場所。そこでアダムはほとんど眠ってばかりいたのです。眠っていないときには、差し出されるふにゃふにゃしたものに吸い付いてごはんを食べました。だから冷たい棒と棒のあいだから見えるものだけが刻一刻と変化していることをさほど気にしてはいませんでした。

 そこから見える景色は最初こそ色とりどりの丸みあるものたちが右から左へ、左から右へと行ったり来たりする変化に富んだものでしたが、やがてその数も色も減り、最後には三面を囲む白と同じ退屈なものになりました。

 そのころになると、アダムはいつもお腹を空かせていました。お腹が空いて堪らなくなるとアダムはみゃあみゃあと泣きました。みゃあみゃあと泣き疲れるまで泣いて、それからまた眠るのです。それを何回繰り返したあとでしょうか、次に目覚めたとき、アダムはご飯を食べるときと同じあたたかくてふわふわしたものに胴を掴まれていました。

 み゛ゃっとアダムは声をあげました。ご飯をくれるふわふわに似てはいましたが、いま胴を掴むふわふわは、あれよりもう少し硬くて違う匂いがすることに気がついたからです。アダムはその匂いを知りませんでした。

 ふかふかの先にある赤いものが動いてなにか音を出しました。今ならアダムはそれが謝っていたことがわかりますが、そのときのアダムはただただ驚いて、じたばた手足を動かしました。そうするとカチャカチャと聞いたことのない音がし、触れたことのないぺたぺたが肉球に伝わります。向こう側が見えているのに通り抜けられない不思議なものをアダムはそのとき初めて知りました。

 その不思議なものは今はアダムだけのものになったふわふわがいつも身に着けているのですが、なにせアダムは初めて目にしたので、それ越しに見えるきらきらのおひさま色をしたものがぱちぱち瞬いて明るく震えだしたとき、ますます驚きました。ますます驚いたのに、身体を撫でるふわふわの感触とふふふという音、微かな揺れが心地よくてアダムはもう「み゛ゃっ!」とは言いませんでした。

 それはまたアダムに向かって何か音を出しました。そのあとにアダムを知らない景色と知らない匂いでいっぱいのところへ連れて行きました。移動のあいだじゅう、アダムはぷるぷる震えていました。アダムは変わることが嫌いだからです。けれど心のどこかにぴょんぴょん跳ね回るすてきなものもいました。今のアダムがふわふわと一緒に知らない景色や知らない匂いや知らない音を知るとすてきなものはますますぴょんぴょんします。

 アダムだけのふわふわの名前はルーカスといい、アダムはルーカスのことがとてもすきです。ルーカスはアダムのことをいつも撫でてくれ、おなかいっぱいにしてくれ、ぐっすり寝かせてくれます。そうそう、アダムのアダムという名前もルーカスがくれたのでした。

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「はじめまして、仔猫さん。ぼくの名前はルーカス。うちの子になるかい? きっと幸せにするよ」