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Hannigramクロスオーバー掌編



 ナイジェルにはアダムが話すことの半分くらいがわからない。彼がこれまで身に付けてきた英語は恫喝と睦言のためのもので、アダムが語る天空のことわりは意味を結ばないまま、まるで水のようにさらさらと耳朶を震わせ流れてゆく。

 むっちりと張った太ももの上に頭をのせたまま手を伸ばし、アダムの丸く形のよい頭を撫でていた。ここに頭でっかちな彼の、ありとあらゆる知識が詰め込まれているのかと思うと、ナイジェルはちょっと凶暴な気持ちになる。少年のころ、鳥の巣から盗んだ小さな卵を手のひらに抱えていたときのように。その卵は結局わざと落として割ってしまった。

 アダムがふと口を噤んで、ナイジェルの顔を覗き込んだ。「なんだ」と訊ねると「少し話しすぎたかなと思って」と返ってくる。

「好きなだけ話せばいい、お前が何を言ってるのか俺にはさっぱりわからんが」
……ナイジェルが聞いて楽しくなる話がしたい」

 拗ねたように唇を尖らせるので悪戯心が芽生えて、それならと提案をしてみる。

「愛してるとか、ずっと一緒にいたいとか、そういうのが」

 アダムはセックスのときに滅多に愛しているとは言ってくれない。正確には、一度も言ってくれたことがない。ナイジェルの英語はそのためにあるのだけれど、アダムはナイジェルが何度も繰り返す「愛してる」にようやく先ごろ「うん」と答えてくれたばかりだ。

……

 ナイジェルの冗談めかした本気の願いに、アダムはちょっと途方に暮れたような表情をした。

「なんだよ」
「愛してるって、すごく難しい言葉だ」
「難しかねぇよ」
「それに、ずっと一緒にはいられない」

 この青年が、そういう性格の持ち主であることはわかっているつもりだった。社交辞令とは無縁で、ほんとうのことしか口に出せない。それでも、寂しさは募る。

「つまんねぇ」

 もういい、と溜息を吐いて起き上がろうとする。アダムは慌てたようにナイジェルの肩を押さえて、元の体勢に無理やり戻そうとする。指が食いこんで少し痛い。苦情を訴えようとすると、アダムが言った。

「かわいい」
「は?」
「ぼくはナイジェルのことをすごくかわいいと思ってる。かわいくて、きれいで、すてきだ」
……

 ナイジェルが黙り込むと、アダムは「やっぱりだめ?楽しくならない?」と不安げな顔をする。

「たまにセックスの最中、こう言うとすごく気持ちよさそうな声を出すから、いいかと思ったんだけど」

 アダムはしょんぼりと眉を下げて呟いた。ナイジェルはやはり声も出せないままだ。

 いつか正しく彼の言葉で愛していると伝えられたらいいと思う。お前が宇宙の中でファッキンベストだ、なんていい加減な言葉じゃなくて、もっと的確に、指先まで痺れるようなこの感情を表せる言葉を。

 それはずいぶんと難しいことのように思えて、今度はナイジェルのほうが途方に暮れてしまう。